第168話 ヒイロVSエリウッド前編

 ヒイロside


 俺はリアナとティアと別れ、エルフの森の入口まで転移する。


「何もなければいいけど⋯⋯」


 だが嫌な予感は止まらない。俺は急ぎ森の中へと入り、全力でセルグ村まで駆け抜ける。

 しかしここは迷いの森⋯⋯微量に感じる魔力に意識を集中して、魔力の波に触れないようにしなければならない。


「くそっ!」


 険しい森の中を右に左に移動させられるため、苛立ちが募ってくる。


 焦るな⋯⋯まだエリウッドさんが黒と決まったわけじゃない。ただ同郷の2人が懐かしくて、セルグ村に行っただけかも知れないからな。


 しかしなぜか最悪の事態が頭を過り、逸る気持ちを抑えられず、風を切るように森の中を疾駆する。



 そして村の入口が見え、直ぐ様魔法を唱える。


「【探知魔法ディテクション】」


 俺を中心に魔力の波が広がっていき、2人の居場所を捉える。


 世界樹の前! しかもラナさんは衣服が破れ、負傷している!


「あいつ! やはり敵だったのか!」


 俺は続けて認識阻害魔法をかけ、仮面の騎士に変身し、さらに転移魔法でラナさんの前まで飛ぶ。



 30センチほどの巨大な黒い光の矢が、一直線にラナを目掛けて向かってくる。

 手足を撃ち抜かれて、地面に這いつくばっているラナには到底よけれるものではない。


「ねえ⋯⋯さん⋯⋯」


 ラナの最後の言葉が、世界樹の前でか細く響きわたり、命が刈り取られるその時。


 突如ラナの前に仮面の騎士が現れ、黒い矢を左手で防ぐ。


「ぐっ!」


 しかしヒイロの予想以上に威力があり、左手が貫かれる。そして大量の出血を伴うと共に、左手の甲の認識阻害魔法が消滅し、紋章の翼の部分が剥き出しになってしまう。


「あれ⋯⋯は⋯⋯」


 しまった! だが今は認識阻害魔法をかけなおすことより、ラナさんの傷を治す方が優先だ。


「【聖結界魔法サンクチュアリ】」


 光の結界が俺とラナさんを包みこみ、透明な壁を展開する。

 これで傷を治すことができ、相手の攻撃を防ぐことも可能だ。

 そして俺は改めて左手に認識阻害魔法をかけ、半分見えてしまっている紋章を覆い隠す。


「誰だ貴様は! どこから現れた!」


 エリウッドは突然姿を見せた俺に対して、焦りの言葉を投げ、黒い魔力の矢を【聖結界魔法サンクチュアリ】目掛けて、連続で放ってくる。


 聖なる結界がお前に崩せるものかと高を括っていたが、透明の結界がピシッと音を立て、少しずつひびが大きくなっていく。


「か、壁が⋯⋯」


 傷が徐々に治療され、意識を取り戻してきたラナさんが壊れそうな結界を見て、不安な表情を浮かべる。


 くそっ! 助けに来たのに不安にさせてどうする!

 エリウッドがここまでやるとは考えていなかった。まずは能力を把握して対策を立てるぞ。


 俺は結界が割れる前に【鑑定魔法ライブラ】を使い、エリウッドのステータスを確認する。


 名前:エリウッド

 性別:男

 種族:エルフ

 紋章:弓とドクロ

 レベル:45

 HP:682

 MP:2,321

 力:C

 魔力:A+

 素早さ:B

 知性:C+

 運:D


 レベルは俺よりエリウッドの方が高い。だがステータスでは俺が勝っているのに、なぜ【聖結界魔法サンクチュアリ】が破れるのか⋯⋯おそらく紋章のせいだろう。【弓とドクロ】⋯⋯見たことも聞いたこともないが、1つだけわかるのは、見た目からして、悪の道に入ったことにより得た紋章だということだ。


 バリンッ! という音と共に結界が崩れ去って行く。


「ちっ! 俺の結界を破壊する⋯⋯だと⋯⋯」

「クックック⋯⋯仮面などを着け、どこの誰だか知らないが、私の矢で壊せぬものなどないのだ⋯⋯ラナと一緒に葬り去ってくれるわ!」


 エリウッドは先程と同じように弓を構え、矢の代わりに右手で黒い光を集め、こちらに向けて連射してくる。


 俺は慌てて異空間より翼の剣を取り出し、黒い光を打ち砕いていく。


 速い! 何とか防いでいるが、魔法を使う暇が全くない。それに普通の矢とは比べ物にならないスピードだ。

 俺1人なら動きながらかわして遮蔽物まで向かい、その遮蔽物を盾にしながら魔法で攻撃することが可能だが、今俺の後ろにはラナさんがいる。

聖結界魔法サンクチュアリ】が途中で破られてしまったため、まだ動けるほど回復していない。もし俺がこの場を離れてしまったら、ラナさんがエリウッドの手によって蜂の巣にされてしまうだろう。


 どうする! エリウッドの矢が切れるのを待つしかないのか⁉️


「どうした⁉️ 防御しているだけでは私を倒すことはできんぞ」

「今お前を倒す準備をしている所だから黙っていろ」

「クックッ⋯⋯そんな手があるなら見てみたいものだ」


 ちくしょう! 状況は圧倒的にこちらが不利だ。

 せめて魔法を唱える時間があれば⋯⋯。


 だが、エリウッドから放たれる黒い光の矢は、どんどん数が増え、衰えることを知らない。


 いつだ! いつこの矢の嵐は止むんだ!


 そして俺の願いが通じたのか、突如矢の嵐が終わったため、俺は右手に魔力を込めて魔法を放とうとするが、眼前にいたエリウッドの姿が突如消えてしまう。


「どこだ⁉️」


 俺はエリウッドを見失ったため、【探知魔法ディテクション】を使用するが、奴の姿を捉えることができない。


「エリウッドは逃げたのか⁉️」


 前後左右見渡すがどこにも見当たらない。迷いの森の魔力に触れて入口に飛ばされ、逃亡したのか。


「後ろ!」


 ラナさんの突然の叫び声で反射的に背後を振り向くと、黒い光の矢が俺の背中を目掛けて飛んで来る。


「ちっ!」


 俺は舌打ちをしながら、その攻撃を翼の剣で斬り払う。

 エリウッドは逃げてないのか⁉️ だったらなぜ【探知魔法ディテクション】で居場所を確認することができない!


 考えている間も見えない所から、矢継ぎ早に俺を狙って攻撃が向かってくる。


 まさか魔法では探知できないスキルか魔道具を使っているのか。

 どうする? このままエリウッドの魔力が尽きるまで待つか、それとも⋯⋯。


「クックック⋯⋯中々やるではないか」


 森の方からエリウッドの声が、こちらに響き渡ってくる。


「隠れてないで出てきたらどうだ⋯⋯そんな攻撃、何発射とうが俺に当てることは出来ないぞ」

「そうかもしれないな⋯⋯だが」


 そう言って先程と同じように背後から黒い光の矢を放ってくる⋯⋯しかしその攻撃は俺ではなくラナさんに向けられていた。

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