第132話 魔物再襲来

 ヒイロとティアを見送った後


「行っちゃったね」

「行っちゃいましたね」

「では私もヒイロくんを追いかけます」


 そう言ってルーナはどこから出したのか、旅用のバックを背負い、東門をから外へ出ようとする。


「ちょ、ちょっとルーナちゃんそのバックは何⁉️」

「まさかヒイロさんに着いていく気ですか!」


 ルーナの突拍子のない行動に、リアナとマーサは驚きを隠せない。


「私はヒイロくんの奴隷ですから⋯⋯お世話をしなければならないので、ヒイロくんを追いかけます」


 色々って何! と2人は考えたが、今はそれよりルーナを止める方が先決だ。


「ルーナちゃん、指名依頼されたのはヒイロちゃんだけだよ」

「そうです。しかも王族の依頼ですよ王族の」

「ですが私はヒイロくんの奴隷で従者のようなものです。一緒に行っても差し支えないのでは」


 ルーナはヒイロに、メルビアまで着いていくと伝えていたが、冒険者学校の授業があるからダメだと断られていた。そのため、このように隠れて追いかけることを画策していた。


「ルーナちゃん」

「どうしましたグレイくん。止めても無駄ですよ」


 グレイはいつになく真剣な表情でルーナに語る。


「ルーナちゃん⋯⋯もし君が奴隷というなら、ヒイロの帰りを信じて待つことも立派な務めじゃないか? 自分の留守を護れるのはルーナちゃんだけだと思ったから、敢えて連れていかなかった⋯⋯そうは考えられないかな」

「グレイくん⋯⋯」


 ルーナはグレイの意見も一理あると考え始める。


「リアナ。あのナンパ男、真面目なことも言えたんですね」

「そうだね⋯⋯私もちょっとビックリだよ。いつものグレイくんじゃないみたい⋯⋯ひょっとしたらあのグレイくんは偽物なのかな、かな」


 中々酷いことを言う2人を横目に、ルーナが口を開く。


「わかりました⋯⋯グレイくんはの言うとおりですね⋯⋯王都に残ってヒイロくんが帰って来るのを待ちます」

「そっか⋯⋯俺もそれがいいと思うよ」


 ルーナはヒイロに着いていくことを諦め、バックを持って戻ってくる。


「ど、ど、ど、どうしちゃったのグレイくん⁉️ さっきは冗談で言ったけど本当に偽物かな、かな」

「これは絶対何か裏があるわね。あのナンパ男が正論を言うなんてありえない」

「そ、そんなことないぜ。裏なんかない、まったくこれっぽちもないから」

「と言うのは表向きの理由で本音はなんですか? グレイさん」


 マーサがグレイに対して突っ込みを入れる。


「そりゃあルーナちゃんが行っちゃうと俺のハーレムが崩れてしまうからだ⋯⋯天然元気美少女リアナちゃん、清楚なシスタールーナちゃん、いつデレを見せてくれるか楽しみなラナちゃん、そして妹系でお兄ちゃんと呼ばせたいマーサちゃん⋯⋯ヒイロがいない今がチャンスなんだよです! この好機! 絶対俺はモノにするぞ! ってあっ⁉️」


 今の言葉を聞いて女性陣は、グレイに冷たい視線を送る。


「いつものグレイくんだね」

「まあグレイくんですから」

「良かった。もし偽物だったら正体を見破るために、1発お見舞いするところだったわ⋯⋯けれど今の発言⋯⋯偽物じゃなくても殴っていいかしら」

「そういう正直な所は素敵だと思いますよ⋯⋯でも私にはヒイロさんがいるのでごめんなさい」


 そして4人はそのままグレイを置いて、街の中へと歩いて行く。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 今のは冗談だから冗談! 俺はヒイロにリアナちゃんとルーナちゃんのこと頼まれてるんだよ! 皆待ってくれよ~!」


 こうしてグレイの企みもバレ、東門の付近では、いつまでも情けない声が朝から響いていた。



 ルーンフォレスト王国郊外にて


 街道沿いに行商人や若者、カップル、親子など様々な人達が王都に向かって行き来していた。


「そういえば先日、王都に魔物の大群が攻めて来たって本当なのか?」


 若い優しそうな青年が、一緒に歩いている友人に向かって声をかける。


「ああ、そんなこともあったな。けど騎士団の人達や新しい勇者様が護ってくれたらしいぞ」

「勇者様か⋯⋯そういえば新しい勇者様はかなり可愛い娘らしいな」

「そうなの! やべっ! ちょっと王都に行くのが楽しみになってきた」


 だが友人とは裏腹に優しそうな青年の顔は暗い。


「だ、大丈夫かな? そんな所に行って⋯⋯魔物がまた攻めてこないか」

「大丈夫だろ。立て続けに魔物が来ることはないだろ⋯⋯まあもし来たとしてその可愛い勇者様が護ってくれると思うぜ」

「そ、そうだね。でもなるべく早く行こうよ⋯⋯こんな所で魔物に襲われたら逃げる所もないし」

「はっはっは。お前ビビってるのか? ここは街道沿いなんだからそんな強い魔物は出ないって。出たとしてもスライムとかホワイトラビット程度だろ」

「そ、そうだね」


 友人の強気の発言に頷いた後。


「グルルルッ!」


 遠くから唸るような声が聞こえてくる。


「わあっ! な、何⁉️ 」

「お、落ち着け! 今のはどこから聞こえてきた」


 2人が左右を確認している時に、行商人から大声が上がる。


「あ、あそこの森だ!」


 そこには何匹、いや何百匹の魔物の姿が見える。


「皆! 王都へ逃げろ!」


 その言葉を皮切りに街道沿いは地獄絵図となった。


「ど、どけ! 俺を先に行かせろ!」

「だ、だから王都に来たくなかったんだ!」

「お、お母さんどこ? うわ~ん」

「お嬢様ちゃんこっちだ! 早く逃げないと死ぬぞ!」


 王都まではすぐそこだと言っても、相手は魔物。身体能力の差は埋めることはできない。

 次々と魔物に引き裂かれ、噛み千切られ、圧倒的な虐殺から逃れるために全力で走る。

 そして多くの者が犠牲になりながら、辛くも少数の人数だけが王都へ逃げることができた。


 だがここで起きた出来事は、これから始まる殺戮の一部にしか過ぎなかったことをまだ誰も知らない。

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