第124話 幕間5魔獄城での企み

 大魔王軍本部 魔獄城にて


「ボルデラよ⋯⋯ルーンフォレスト王国襲撃の件、どうやら失敗したみたいだな」


 暗闇の中から現れたのは、鋭い目付きをした元魔王のヘルドだった。


「さすがは魔軍司令殿⋯⋯情報を仕入れるのが早いですなあ」

「当然だ。部下の失態には罰を与えねばならないからな」


 ヘルドは、ヒイロと戦うことをボルデラに先を越され、腸が煮えくり返る思いだったが、失敗の報告を受け、意気揚々とこの場に現れた。


「失態? 何を持って失態と言うのか、この私に教えて欲しいものじゃ」


 飄々とした様子で問いに答えたため、ヘルドはその態度に激昂する。


「貴様! 自分の失敗をなかったことにするつもりか!」

「いえいえ、前回の戦いは勝つために行ったものではありませぬ」

「どういうことだ⁉️」

「それを聞きたい方は、まだ他におられるようですなあ」


 ボルデラが部屋の入り口に視線を向けると2メートルは優に越す、巨体が姿を見せた。


「よく私がいることに気づいたな」

「そのような大きな体は、隠れることに向いてないからのう⋯⋯ザイド団長」


 現れたのは魔獣軍団団長のザイドだった。


「それで⋯⋯前回の作戦の意味は? どういうことなんだ?」

「ふぉっふぉっふぉ。これは面白い」


 突然ボルデラは笑い始め、不敵な笑みを浮かべる。


「何がおかしい!」


 そんなボルデラの態度に、ヘルドは苛立ちを覚える。


「だってそうでしょう⋯⋯御二方共、私の作戦など興味がないのですから」

「むぅ!」

「くっ!」


 ボルデラが言っていることが正しかったようで、ヘルドとザイドは悔しそうな表情を浮かべる。


「御二方が興味を示しているのは、ヒイロという小僧のことですかな」


 ヒイロ⋯⋯その言葉にヘルドとザイドは反応を示す。


「安心してくだされ。奴は生きておる」


 その答えを聞いて複雑な気持ちになる。魔王軍にとっては脅威であるため、死んでいてもらった方が都合がいいが、どうしても自分の手で始末したいとふたりとも考えているので、ヒイロが生きていることに安堵する。


「それで前回の戦いは勝つためではないという、理由を聞かせろ」

 

 ヘルドは、考えを読まれたことが癪で、自分が聞きたいことはヒイロのことではないと思わせるため、ボルデラの作戦というものを問いただす。


「お認めになりませぬか⋯⋯まあいいじゃろう。わしの作戦を教えてしんぜよう」


 そしてボルデラは語り始める。


「人間や亜人達一人一人は取るに足らないが、数が揃うと厄介。そして一部の者達は我ら魔族に匹敵する力の持ち主がおる。それは魔軍司令殿が1番よくわかっているはずじゃ」

「ぬぅ!」


 ヘルドは以前人族や亜人に敗北したことがあるため、ぐうの音も出ない。


「そしてその中でも最も脅威なのが、勇者という存在」


 勇者⋯⋯その言葉を聞いてヘルドは憎き相手⋯⋯アレルのことを思い出す。


「その勇者を倒すため、わしはルーンフォレスト王国の王族に取り入ることが成功した。今や奴等はわしの操り人形になっておる」

「ほう⋯⋯だがそれでどうやって勇者を殺す」


 ヘルドの問いにボルデラはゆっくりと答える。


「そのためには⋯⋯ザイド団長の協力を頂きたい」


 その言葉を聞いてザイドは、喜びに打ちひしがれる。なぜならザイドにとっての楽しみは強者と戦うことだからだ。


「承知した」

「ボルデラ貴様! なぜその役目はザイドなのだ! 勇者といえば因縁があるのは私の方⋯⋯それは貴様もわかっているだろ!」


 ヒイロを倒したい気持ちもあるが、ヘルドにとってはそれと同じくらい勇者へのこだわりがある。それをザイドに取られるのは我慢ならない。


「いやいや、前回も申し上げましたがヘルド魔軍司令殿は今謹慎中の身。それを破ってしまったら、わしが大魔王様に怒られてしまう」

「くっ!」


 恩がある大魔王の名前を出されてしまっては、ヘルドは引き下がざるをえない。


「それでは3日後⋯⋯勇者を殺すための作戦にはいる。ザイド殿あなたもそのつもりで準備をしておいて下され」

「わかった」



 こうして魔獄城では、かつてないほど大きな作戦が立案され、勇者の命を狙っているということを、ヒイロは知るよしがなかった。

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