第123話 幕間4グレイとミズハ後編
翌日
私はグレイくんに貸し出す本を三冊持って登校する。
喜んでくれるかな? 喜んでくれるといいなあ。
男の子とお出かけするのは昨日が初めてだったけど、とっても楽しかった。また行ってみたいと思う私がいる。
ありのままの私を受け入れてくれるし、それにお世辞かもしれないけど可愛いって⋯⋯。
この時の私は昨日のことに思いを寄せていたため、曲がり角から人が急に出てきたことに気づかず、ぶつかってしまう。
「きゃっ!」
バンッ! ドサドサッ!
私は軽く悲鳴を上げ、持っていた本を落としてしまう。
「いってえな! どこに目をつけてるだ!」
「ご、ごめんなさい」
相手の男性が大声を上げて私を叱責することにより、周囲の注目を浴びてしまう。
目立ちたくないけど男性は更に声を荒げてくる。
「ちゃんと前を見て歩け!」
私は恥ずかしさと恐ろしさで声がでず、下を向いてしまう。
「聞いてんのか!」
男性の怒りは収まらない。この時間が永遠に続くのかと思っていたその時⋯⋯。
「ちょっと待て! 確かにミズハちゃんは前を見てなかったけどベイル、お前も見てなかっただろ」
「グレイくん⋯⋯」
近くにいたのかグレイくんが私を庇うように立ってくれる。
「なんだと! いいがかりをつけるな!」
ベイルという人はグレイくんの言葉に激昂する。
「確かに俺もぶつかる瞬間を見てたけど、ベイルも前を見てなかったな」
「私にもそうみえたわ」
周りの方達も私だけじゃなく、ベイルくんも前を見ていなかったと声を上げてくれる。
「ミズハちゃんはお前に謝った。お前も謝れ」
「ふざけるな! 何でこの俺が謝罪しなければならないんだ! 不愉快極まりない!」
そう言ってベイルくんはこの場から離れて行き、安堵したが、みなさんに注意された腹いせなのか、私が落とした本を踏みつけていった。
「てめえ!」
その行為を見ていたグレイくんが、ベイルくんに立ち向かっていく。
このままだとケンカになっちゃう!
「待ちなさい! どんな理由かわからないけど暴力はだめよ!」
突如ネネ先生が現れて、2人のことを止めてくれる。
「止めてもらって良かったなあ⋯⋯そうじゃなきゃボコボコにして地面に這いつくばらせてやったのに」
「ベイルごときにやられるかよ!」
「なんだと!」
2人は先生に止められた後もケンカをしようとする。
「ベイルくんはもう行って。後でまた事情を聞きます」
「けっ!」
ベイルくんはそのままこの場を後にし、どこかへ行ってしまう。
「くそっ! ベイルの奴! ヒイロに聞いていたように最低な野郎だな」
グレイくんは、ベイルくんがいなくなった後も怒りが収まらないみたいだ。
「ミズハちゃん大丈夫?」
「う、うん。私は大丈夫⋯⋯でも本が⋯⋯」
元々古かったせいもあり、本はページが破れ、とても読めるようじゃなかった。
「くそっ! あいつには必ず落とし前をつけてもらうからな!」
「グ、グレイくんいいよ。私も前を見ていなかったのは事実だし⋯⋯」
そう⋯⋯私はあの時、グレイくんのことを考えて周りをよく見ていなかった。だから文句を言える立場じゃない。
けれどこの本⋯⋯グレイくんに見せたかったなあ⋯⋯。
「ごめんね⋯⋯本⋯⋯」
私の不注意で本を貸すことができなくなってしまったので、グレイくんに頭を下げ謝罪する。
「悪いのはミズハちゃんじゃないから⋯⋯いくらなんでもあそこまでやるベイルがおかしいんだ⋯⋯だから謝らないでくれ。また今度一緒に古本屋に行こうぜ」
そう言ってニカッと笑って見せてくれた。
そして午後の授業。
今日はEクラスと初めての合同授業前。
けれどグレイくん、ヒイロくん、ベイルくんの三人でいざこざがあり、クラス代表3人による模擬戦が行われることになる。
どちらかというと、トラブルの時は冷静に対処するグレイくんだけど、先程のいざこざでは、いつものグレイくんじゃないような気がした。
きっと午前中の出来事が尾を引いているのかもしれない。
Fクラスからはグレイくん、ヒイロくん、ルーナさんが選出され、まずはヒイロくんが1勝を上げる。
そして2戦目。
グレイくんとベイルくんが対戦する。
「それでは⋯⋯はじめ!」
ベイルくんは開始と同時にグレイくんに詰め寄り、そして上段から叫びながら斬りつけてくる。
「死ねぇぇぇ!」
だけどグレイくんはヒラリと剣をかわし、短剣をベイルくんのお腹に突きつける。
「ぐわぁ!」
そして勢いよく10メートルほど吹き飛ばされると、ベイルくんはピクリとも動かなくなった。
「しょ、勝者グレイくん。今の結果を踏まえてFクラスの勝ちとします」
先生の合図でグレイくんの勝利が確定した。
「グ、グレイくんすごいです」
持っている紋章では、グレイくんの方が不利だったはずですが、そんなことは関係ないと言わんばかりに圧倒的な勝利を収める。
これってひょっとしたら、私のためを思って戦ってくれたのか?
けどそんなはずはないよね⋯⋯私なんかのために戦っても良いことないもの⋯⋯。
けれどクラスメート達から勝利の祝福を受けている中、確かにグレイくんは、私の方を見てガッツポーズを何回もしてくれた。
ドキンッ!
何だか胸がドキドキして苦しい⋯⋯何なのこの感じは。
今までも恥ずかしくて心臓がドキドキすることはあったけど、それとは少し違い、嬉しさ、喜びも混じっている感じだ。
当時の私は気づかなかったけど、今、この時がグレイくんへの恋が始まった瞬間だった。
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