第121話 幕間2 グレイとミズハ前編

 ミズハside


「「アーチャー」」


 2人の声が重なり、教室に響き渡る。


「ど、どうしてアーチャーだと思ったの」


 ネネ先生は驚きの表情を浮かべ、正解だと告げた。



 すごいなあ。ヒントもなしに先生の職業を当てるなんて。

 グレイくんはエッチなこともあって、女の子達は変な目で見られることもあるけど、会話がうまく、人を楽しませることができるから、私はそんなグレイくんのことを尊敬している。

 そんなグレイくんと比べて、私は人見知りで、話もうまくできず、何もかも正反対。そんな自分が嫌になる。


 商人の家に生まれた私は、成人の儀で【そろばんの紋章】を頂いた時、両親にすごく喜ばれた。

 けれど私は紋章を頂く前と変わらず、人見知りのまま。

 商人と言えば人と関わることは必須。御客様に接遇ができない者など必要ない。

 両親達は経験を積めばその内できるようになると、優しい言葉をかけてくれるが、私はそれが申し訳なくて、他国にある育成で有名なルーンフォレスト冒険者学校に来た。


 学校が始まって1ヶ月。

 未だに私はクラスメート達と話すこともできず、1人で読書をする日々。


 午前中の中休み⋯⋯今日は【最古の都市メルビア】というタイトルの本を読む。

 この大陸の成り立ちや、昔はルーンフォレスト王国やアルスバン帝国ではなくメルビアが覇権を握っていたことが書かれている。

 そしてどのように衰退していくかが記載されているが⋯⋯ページを捲ろうとしたその時、不意に声をかけられる。


「その本どこにあった?」


 えっ? 私? クラスメートのグレイくんに話しかけられて、思わず返事が遅れてしまう。


「こ、これですか?」

「そうそれ」


 入学当初はクラスメートが声をかけてくれていたけど、私がうまく話せなかったこともあり、次第に離れていった。

 そして私なんかに話しかける人はいないと思っていたから、予想外の出来事にビックリしてしまう。


「こ、こ、この⋯⋯本は⋯⋯」


 ああ⋯⋯いつも通り私は上手く喋れない。

 みんながいる時はまだ大丈夫だけど、1対1になり、相手が自分に注目すると緊張して話せなくなってしまう。

 グレイくんも呆れている! そう思ったけど実際は違った。


「いきなり話しかけて悪かったな。ゆっくりでいいからその本のこと教えてくれよ」


 謝罪され、ゆっくりでいいから話してくれと言っている。

 私は1度深呼吸をして少しずつ、この本について話す。


「こ、この本は⋯⋯お、王都の中央通りにある⋯⋯古本屋にあったの」

「へえ、そうなんだ。俺も歴史について勉強したかったんだよ。今日、授業が終わったら案内してくれない?」

「いいですよ⋯⋯えっ? わ、わ、私でふか」


 予想外のことを言われてしまったので、思わず驚き、言葉を上手く発することが出来きない。


「そう、ミズハちゃんと」

「わ、私なんかと⋯⋯い、行っても⋯⋯つ、つまらないですよ」


 どうせ幻滅させてしまうだけ、それなら行かない方がいいと予防線を張ってしまう。


「別につまらないなんて思ってねえよ。それにミズハちゃんは歴史や計算が得意で、いつもすげえなって思ってたんだ。デートの意味も込めて一緒にいかない? というかさっきいいよって言ったから決まりね。それじゃあまた放課後に」

「あっ! ちょっと待って」


 しかしグレイくんは既に席を離れ、私の声は届いてない。


「ど、どうしよう」


 私は放課後のことを考えると途方にくれ、その後の午前の授業は全く頭に入っていなかった。



 昼休み。

 グレイくんとのお出かけのことを考えると、お昼ごはんは喉を通らない。

 今思ったけど、これってデ、デ、デートになるのかな?

 けどグレイくんはデートって言ってたけど、色々な人に声をかけているし、わざわざ私なんて誘うはずがないよね⋯⋯。


 気分転換のため、教室から窓の外を見ていると、私を悩ませる人物、グレイくんが、先輩らしき女性と一緒にいた。


「あなた、面白いわね」

「そうですかねえ。先輩と話すの、俺も楽しいです」


 グレイくんと話してる先輩はとても綺麗な人だ。

 私なんかとは比べ物にならない。


「どう? この続きは今日の放課後にでも」


 今日の放課後は私と出かける予定だけど、グレイくんも地味で可愛くない私より、綺麗で話すのも上手い先輩と一緒にいる方がいいよね。

 当然グレイくんは、先輩の誘いを承諾するかと思った。


「あっ! ごめん先輩。今日はクラスの娘と出かけるんだ」


 グレイくん⋯⋯まさか私との約束を優先してくれると思わなかった。


「別にそんな娘のことはいいじゃない? まさか私の誘いを断るの?」

「俺も先輩とはまた話したいと思ってるけど、その娘の方が先約だから」

「ならもういいわ。さよなら」


 あくまで私とのことを優先するグレイくんに、先輩は面子を潰されたと思ってこの場から立ち去ってしまった。


 どうしてあの先輩より、私なんかの約束を守ってくれたのだろう。

 100人いたら少なくても99人はあの先輩を選ぶと思うし、意味がわからない。


 私の頭は混乱したまま、午後の授業が終わり、放課後を向かえた。

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