第120話 幕間1 やりすぎには注意

「ル、ルーナさん⋯⋯わ、私達生きてお家に帰ることができますか」

「ヒ、ヒイロくんもいるから大丈夫ですよ」


 マーサとルーナは今まで見たことがない大きさの魔物と対峙していた。


「グオォォォン!」

「「ヒィッ!」」


 魔獣が地の果てまで届きそうな咆哮を上げると、2人はあまりの恐ろしさに悲鳴をあげ、抱きしめあい、その場に座り込んでしまう。


「ど、どうしてこんなことに⋯⋯」


 ルーナ、マーサside


 数時間前、ある日の休日。


「お話があります!」


 マーサは強い口調で、ルーナに詰め寄る。


「どうしたのマーサちゃん。少し顔が険しいよ」


 ここはエールの宿屋の食堂、現在は朝食が終わった後のため、2人の他に人は見当たらない。


「私⋯⋯成人の儀でたぶん戦闘職の紋章を頂きました」

「そうですね。この間ヒイロくんに鑑定してもらいましたね」


 マーサの紋章は未だにわからないが、本人の能力の高さから、戦闘職だと思われている。


「ルーナさんは学校を卒業したら、ヒイロさん達と冒険者として旅に出る計画ですよね」

「はい。そうなります」


 ヒイロから一緒に旅に出ようと言われているので、ルーナは喜んで着いていく予定だ。


「その時のパーティーはヒイロさん、リアナさん、ルーナさん、後ラナさんが入るかもしれないですよね」

「そうですね」


 ルーナの予想でもラナは仲間になると思っている。

 彼女は仮面の騎士のことを探しており、いずれその正体がヒイロだとバレてしまうだろう。そして彼女が一緒に来ることが目に浮かぶ。


「ヒイロさんの力は規格外として、勇者であるリアナさん、拳帝マグナス様のお弟子さんであるラナさん⋯⋯御二人もとても強いです」

「リアナさんとラナさんは、冒険者学校でもAクラスですから」


 事実そのAクラスの中でも、彼女達の力はトップクラスだ。


「私、このままヒイロさんのパーティーに入ってもお役に立てない気がして⋯⋯」


 そのことはルーナも感じていた。

 今、ヒイロのパーティーに入ってもお荷物になるだけ。ザイドの時もエリザベートの時も自分は役に立っていない。

 それで胸を張って仲間と言えるだろうか⋯⋯答えはNOである。

 強くならないと⋯⋯そのような思いがいつもルーナの中にあった。


「マーサちゃん⋯⋯レベル上げをしましょう」

「私もルーナさんにそのことをお話したかったんです」


 マーサもルーナも考えていることは一緒で、同じ結論に至る。


「それでレベルを上げるため、ヒイロさんに来てもらおうと思っているのですが、ルーナさんも行きませんか?」



 そしてヒイロを連れて、3人は以前スライ、スラぞうと戦った平原へと転移した。


 ヒイロside


「やぁ!」


 マーサちゃんがホワイトラビットに向けて短剣を突き刺すと、そのままホワイトラビットは息絶えた。


「ふぅ」


 額の汗を拭い、息を整えるマーサちゃん。


 2人のレベルは数時間前と比べて上がってはいるが、そろそろ頭打ちだ。

 今後ここで魔物を倒しても、大して経験値は入らないだろう。


 現在2人のステータスはこうなっている。


 名前:ルーナ

 性別:女性

 種族:人族

 紋章:十字架

 レベル:10

 HP:102

 MP:203

 力:D-

 魔力:D+

 素早さ:D-

 知性:C

 運:E


 名前:マーサ

 性別:女性

 種族:人族

 紋章:銃

  レベル:9

 HP:132

 MP:198

 力:E+

 魔力:D

 素早さ:D-

 知性:C

 運:C


【修練のブレスレット】はマーサちゃんが装備しているため、2人のレベルは今同じぐらいになっている。


 そろそろもう少し強い魔物と戦った方がよさそうだ。


「場所を変えようと思うんだけどいいかな?」

「いいですよ。今日はとても調子がいいです」

「どんな魔物が来ても今の私達なら勝てそうだよ」


 どうやら100匹以上の魔物を狩って、2人は自信をつけたようだ。


「それじゃあ移動するから掴まって」


 レベルが上がり、魔力が強くなった影響で、3人まで運ぶことが可能になった転移魔法を使い、エリスさんとの訓練で使用している、王都の北にある森へと飛んだ。



「グオォォォン!」

「「ヒィッ!」」


 転移魔法で移動した先には、全長5メートルくらいはある、大型の虎の魔物がおり、思わず2人は悲鳴を上げる。

 おっ! いきなり魔物に会うとは、幸先がいいな。


「【呪文鮫拘束スペルシャーク魔法バインド】」


 俺は魔法を放つと、6つの白い牙が虎を捕らえ、そのまま拘束する。


「さあ、今のうちに攻撃して」


 この魔物はタイガージェネラルと言ってレベルが30を越えている。1匹倒すだけでおそらく2人のレベルは上がるだろう。


「こ、こ、攻撃してって言われても」

「む、む、む、無理です!」


 2人はタイガージェネラルが怖いのか、腰が引けている。


「大丈夫だよ拘束してるから⋯⋯あっ! ごめんごめん。このままだと固くて攻撃が通らないよね」


 俺は防御力を下げる魔法を唱える。


「【防御破壊魔法アーマーブレイク】」


「これでいけるはずだ」


 そういう問題じゃない。2人は今、全く同じことを考えていた。


「マ、マーサちゃん。い、行きましょう」

「ル、ルーナさんが行くなら私もお供します」


 2人は怯えた表情でゆっくりとタイガージェネラルに近づく。


「ル、ルーナさん⋯⋯わ、私達生きてお家に帰ることができますか」

「ヒ、ヒイロくんもいるから大丈夫ですよ」


 マーサとルーナは今まで見たことがない大きさの魔物と対峙する。


「グオォォォン!」

「「ヒィッ!」」


 魔獣が地の果てまで届きそうな咆哮を上げると、2人はあまりの恐ろしさに悲鳴をあげ、抱きしめあい、その場に座り込んでしまう。


「ど、どうしてこんなことに⋯⋯」


 そして2人の下半身から水のようなものが漏れ、服を濡らしていく。


「ル、ルーナさん⋯⋯私、漏らしちゃいました」

「わ、私もです」

「こ、こうなったらもう怖いものはありません」

「そ、そうですね」


 2人はタイガージェネラルへと駆け寄り、手に持った短剣を手足に突き立てる。


「グキャアァァァ!」

「「ヒィッ!」」


 短剣を刺された痛みで、タイガージェネラルは声を荒げる。


「こ、怖い怖い!」

「で、でもやらないと」


 そして数分後、2人は見事タイガージェネラルを倒すことができた。


「おめでとう⋯⋯1匹倒しただけでルーナは1つ、マーサちゃんは2つレベルが上がったよ」

「レベルは上がったかもしれませんが、私とマーサちゃんは大切なものを失くしました」


 2人の視線が自分の下半身に向いていたので、俺も見てみると服が濡れていてるのがわかった。


 まさか、漏らしちゃったのか。


「ヒイロさん⋯⋯」


 マーサちゃんが冷たい声で俺を呼び止める。


「こんな姿とても人には見せられません」


 まあお漏らしした姿を見せるやつがいたら変態だな。


「ヒイロさんには責任があります! 絶対私達のことをお嫁さんにしてくださいね!」

「そうですよ! おしっこを漏らしてしまった私達は、もう他の人のお嫁さんには行けませんから」


 どうやら2人はお漏らしをしたショックで、混乱しているようだ。

 一度落ち着くためにも一旦切り上げた方がよさそうだな。


「と、とりあえず2人とも一度戻って着替えようか」


 俺は無難な提案をする。


「そうですね。おしっこまみれの私達と一緒にいたくありませんよね」

「奴隷の私なんてその姿がお似合いだと思っているのですね」


 駄目だ。2人の思考がマイナス方面に向かっているため、俺は有無を言わさず転移魔法をかけることにした。



 そしてその後、再び経験値を上げ、2人のレベルは見事20を越えたが、ルーナとマーサちゃんの顔に笑顔はなかった。


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