第100話 奇跡
「いや~凄い魔法だね。まるでどこぞの魔王みたいだ」
す、鋭いな。俺の【
勇者パーティーとしてヘルドと戦ったマグナスさんなら、見覚えがあってもおかしくない。
「おや? その腕に身につけている物はひょっとして」
「【修練のブレスレット】です。友人がルドルフさんから譲り受けて、少し貸してもらいました」
「私も昔ルドルフさんにお世話になったよ⋯⋯なるほどそういうことですか。父親のリョウトに出来たなら息子の君にもできるかもしれないですね」
父さん! そうか同じ勇者パーティーだからマグナスは知っていて当然だよな。
「それで
「はい⋯⋯後はMPが回復すればいけると思います」
「ならばこのMP回復薬を2つ持っていきなさい。少しでも早くラナを⋯⋯頼む」
悲痛の表情を浮かべ、頭を下げてくる。
今日おそらくマグナスさんがここへ来たのも、自分の手でダードを始末するつもりだったのだろう。
そして先程、ラナさんの為に怒った殺気は本物だった。
思わず俺もチビりそうになったからな。
それだけ弟子であるラナさんが大切ということだ。
この気持ちは絶対に裏切れない。
「ラナさんのことは俺に任せてください」
「ありがとう」
下を向いたマグナスさんの目元から、光るものが見えた気がした。
俺は認識阻害魔法で仮面の騎士に扮し、自分の部屋へと戻る。
「だ、誰?」
気配を感じたのか、ベッドで横になったラナさんが声を上げた。
俺はゆっくりとベッドへと歩み、そして姿を見せると、ラナさんは目に涙を浮かべる。
「仮面の騎士⋯⋯さま⋯⋯」
ダードは仮面の騎士を誘きだすためにエルフを殺したと語っていた。だから今回ラナさんが襲われたのは俺のせいだ。
「申し訳なかった」
俺は頭を下げ謝罪する。
「あなたは私を助けて下さっただけ⋯⋯悪いのは弱い私です」
ラナさんは自分のせいだと責める。
そんなことはない。ラナさんこそいたぶられた受験生を救っただけで、誰が悪いと決めるならダード本人だということは間違いない。
「ツッ!」
突然ラナさんは右腕で、切断された左腕の傷口を抑え始めた。
「大丈夫か?」
心配になり、苦悶の表情を浮かべるラナさんに声をかける。
「回復魔法で塞いで頂いた傷が、少し痛むだけです。今はもう大丈夫」
手足が切れたんだ、きっと今も痛みが残っているはずなのに⋯⋯しかしラナさんの表情は、ヒイロで会った時より少し晴れやかに見えた。
「その節は助けて頂き、ありがとうございました。以前は伝えることができなかったので」
突然ラナさんが以前助けたときのお礼を伸べてくる。
確かに実技試験の時はダードを倒した後、正体を隠したかったこともあってそのまま逃げたからな。
「フフ、これでやりたいことの1つを達成することができました」
目標を達成できたことが原因なのか、少しラナさんに笑顔が見られる。
「他にやりたいことはないのかい? 俺もできることがあれば手伝うよ」
「ありがとうございます。ですが⋯⋯もう1つのことは⋯⋯え~と友人? が手伝ってくれるので大丈夫です」
「なんで友人が疑問系なんだい?」
俺はラナさんの言い方が面白く、苦笑しながら問いかける。
「その⋯⋯今まで最低の男だと思っていた人がいて⋯⋯私がこんな状態になってもう1つの目標が達成できないと沈んでた時に⋯⋯その人が手伝うって言ってくれたんです」
これって俺のことだよな。
「き、期待はしてないけど、手助けしてくれるって、申し出てくれた人を無下にはできませんから。仮面の騎士様に頼らずに、彼を信じてみます」
今の言葉を聞いて、俺はラナさんの願いを絶対叶えようと心に誓った。
「よろしければ、ひ、1つだけお願いがあるのですが」
「俺でできることなら」
「はい。仮面の騎士様にしかできません」
俺にしかできない? なんだろう? 誰かを倒してほしいとか?
「仮面を取って、素顔を見せて頂けませんか」
「えっ?」
やばいやばい。予想外の出来事に思わず素の声が出てしまった。
「だめですか⋯⋯」
そ、そんな悲しそうな顔をしないでくれ。断りずらいじゃないか。
もし仮面の騎士の正体が俺だと知ったら⋯⋯。色々聞いちゃったし殺されるかもしれん。
「じ、実は⋯⋯あるお方に正体を見せてはいけないと言われているんだ」
「あるお方⋯⋯ですか」
とりあえず適当なことを言ってしまったけど、こんな嘘通じるはずないよな。
「まさか ⋯⋯仮面の騎士様は、貴族の腐敗を正すために使わされた国の内部機関の方?」
あれ? 何か勝手に勘違いしてくれているぞ。
「だからあの教師を懲らしめたんですね」
懲らしめた所じゃなくて始末したけどな。
「それでしたらしかたありませんね。変なお願いをして申し訳ありません」
「あ~うん、悪いね」
もうそれでいいや、そういうことにしておこう。
「ふあ~」
ラナさんは可愛らしく欠伸をして眠そうな目を擦っている。
長居し過ぎたかな。そろそろここに来た目的を果たそう。
「そろそろ帰るので、眠ってしまってもいいですよ」
俺が声をかけると何故かラナさんがガタガタと震え出す。
「どうしました!」
予想外の出来事に俺は困惑してしまう。
「いえ⋯⋯すみません⋯⋯」
「何か不安があるなら行って下さい」
「⋯⋯眠るのが⋯⋯怖いです⋯⋯目を閉じるとあの時のことを思い出して⋯⋯」
そういってラナさんは左腕の切断部分を抑える。
年端もいかない少女? が暗闇の中、腕と足を斬られ、死ぬ思いをしたんだ。無理もない。
だが、今は心身ともに弱っているので、睡眠はしっかりとってほしい。
「大丈夫。俺がここにいるから、まずは目を閉じることを始めましょう」
「わ、わかりました」
ラナさんは恐る恐る目蓋を閉じる。
「次に目を開けた時、恐いものはなくなっているから安心して下さい」
俺はマグナスさんから頂いたMP回復薬を一本使い、MPを全快にする。
そして全ての魔力を込めて、スキル【魔法の真理】から新たな魔法を使用する。
「【
ラナside
「仮面の騎士様、いらっしゃいますか? 仮面の騎士様? もう返事をしてくださいよ」
私は瞼を開けて仮面の騎士様を探す。
えっ? いない?
そういえば次に目を開けたとき、恐いものは失くなってるって言ってましたけどどういう意味だったのかしら。
私を安心させるための気休めだったのかな?
「ただいま戻りました~」
1度自分の部屋に戻ると言ったルーナさんが帰って来た。
私は出迎えるため、身体を起こし、
降りる?
「う、嘘! 左腕と右足が! これは夢なの!」
夜にも関わらず大声を出してしまう。
「どうしたの!」
私の声を聞いてかルーナさんが血相を変えて部屋に入ってくる。
「ラ、ラナさん、手と足が治ってる!」
「ええ」
きっと仮面の騎士様が治して下さったんだ!
「きゃっ!」
私は思わず興奮してルーナさんを抱きしめてしまう。
信じられない信じられない! もう一生歩くことも冒険者になることも出来ないと諦めていたのに。
それが最後にこんな奇跡が待っているなんて思いもしなかったから、涙が溢れて止まらない。
この救って頂いた身体で、私も仮面の騎士様のように弱い人を守る、そんな冒険者になると改めて誓った。
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