第99話 悪人の結末

「中々物騒なことをしていますね」


 隙のない足運びで、マグナスさんはこちらに向かってくる。


「マグナス! 私を助けろ! 突然この平民が襲ってきたんだ!」


 ダードは拳帝であるマグナスさんが来たことによって、先程までの従順な態度を翻し、強気な態度に出る。


 この状況、どう動く。


 冒険者学校の理事長として、教師のダードを助けるか。

 それともラナさんの師匠として俺の味方をしてくれるか。


 剣を構えることはしないが、いつ攻撃されてもいいように戦闘態勢をとり、マグナスさんの一挙一動を注視する。


「ヒイロくん、君は何をしているのかな?」


 俺の方が疑われているのか?

 優しい表情で聞いているが、目は鋭い眼光を残したままだ。

 ここでの返答を間違えると、俺はマグナスさんの敵とし認識される。

 言ったことが嘘だとバレれば、直ぐ様その拳が飛んでくるかもしれない。

 正直に話すのが得策かもしれないな。


「あなたの弟子であるラナさんが、ここにいる化物、ダードに襲われました」

「誰が化物だ!」


 身長2メートル、角が生えて、人とは思えない筋肉。その姿で違うと言うメンタルがすごいな。


「だから俺は討伐に来たのです」


 俺はマグナスさんの目を真っ直ぐ見据えて、本当の事を話す。


「と言ってますが、どうですかダードさん」

「濡れ衣だ! 俺はそんなことをしていない! どこにそんな証拠がある!」

(この場を乗り切れさえすれば、侯爵家の力を使って後はどうとでもなる。今はマグナスをこちら側につけるのが先決だ)


「証人がいます」

「証人? 誰のことだ? 死んだラナとかいうエルフのことを言ってるのか!」


 墓穴を掘ったな。今までの会話でラナさんの生死については誰も話してない。死んだと思っているのはラナさんを襲った犯人だけだ。


「ラナさんは生きてますよ」

「バ、バカな! ただのエルフが手足を失って生きてるはずがない!」

「何故お前がそれを知っている? 傷ついたラナさんを秘密裏に運び出したから、この事は俺とリアナしか知らないはずだ」

「そ、それは⋯⋯」


 俺の問いにダードは言葉を詰まらせる。


「わ、罠だ! 私は嵌められたんだ! 信じてくれマグナス!」


 この期に及んでまだしらを切るのか。それに信じてくれ? 日頃のお前の態度を見て、誰が信じると言うのだ。


「ヒイロくん⋯⋯1つよろしいですか」

「はい」

「君の言ったことが本当だったとしても、まだ嫌疑が決まってないダードさんを殺害すれば、冒険者カードの討伐欄に彼の名前が載ってしまいます。そしとそのことが公になれば罪に問われるかもしれません。それでもよろしいのですか?」


 さすがマグナスさんだ。鋭い質問をしてくる。

 確かにそのことは考えた。

 少なくとも依頼をこなし、冒険者カードをギルドに提出した際にダードを殺害したことが明るみになるだろう。


「そ、そうだ! 私を殺せば冒険者になれなくなるぞ」

「ダードさん。あなたは黙っていてください」

「ヒィッ!」


 口調は優しいが、殺気を込めたマグナスさんの言葉に、ダードの顔は青ざめる。


「今まで見てきたダードの威圧的な態度、平民に対する差別、受験生、そして友人であるラナさんを殺害しようとしたことは、到底許せることではありません。そして何より⋯⋯この咎人とがびとは⋯⋯俺の手で殺します」

「覚悟はあるんだね?」


 迷いはない。自信を持ってその問いに答える。


「はい!」


 俺の言いたいことは伝えた。

 後はマグナスさんがどう判断するか⋯⋯。


「ダードさんそういうことになりました」


 唐突にマグナスさんの顔が、真剣な表情から笑顔に切り替わった。


「はっ? そういうことになったってどういうことだ?」


 ダードはマグナスさんの真意に気づかず、思わず聞き返してしまう。


「察しが悪いですねえ。こういうことですよ!」


 溜め息混じりに答えたマグナスさんの体が突然揺れ動き、仰向けに倒れているダードの顔面を殴り飛ばす。


「ひでぶ!」


 そしてダードの顔はグシャグシャになり、その衝撃で気絶する。


「ヒイロくん。この不届きものに回復魔法を」

「は、はい」


 何がなんだかよくわからいが、とりあえずダードに回復魔法をかける。


「う、うぅ⋯⋯き、貴様! 何をする!」


 ダードは呻き声を上げると意識が戻り、マグナスさんの行動を問いただす。


「あなたには死んでもらいます」

「な、何を言っている! 侯爵家の私を殺せばただでは済まんぞ!」


 ダードはライオンに襲われたウサギのように、怯えた表情で答える。


「忘れたのですか? 私は公爵家以上の権力を持っていることを」


 そうだ。勇者パーティーであるマグナスさんは、公爵家以上の力を有してるため、力でも権力でもダードの上をいっているんだ。


「それに⋯⋯弟子を殺されかけて冷静でいられるほど、私は大人ではない」


 今まで隠していたであろう殺気が、大気を震わせる。


 すみません。ちょっと抑えて下さい。

 俺もここにいるのがきついです。


「ヒイロくん」

「はい! なんでしょうか!」


 思わず騎士団の上官に返事をするように答えてしまった。


「私が一撃を食らわせたことで、今この不届き者を殺せば、私の冒険者カードの討伐欄にもダードの名前が載ります。もし今後何か問われることがあったら、拳帝マグナスの名前を出して下さい」


 マグナスさんは、何かあったら責任を取ると言ってくれている。


「まあそうならないように根回しはしておきますけどね」


 おそらくマグナスさんの人脈があれば、ここでダードを殺しても問題にならないようにできるのだろう。

 俺は改めて味方になってくれて良かったと思う。



 ダードを殺すため右手に魔力を集める。


「や、やめろ! 俺が悪かった! これからは態度も改める!」


 死が迫っていることを感じ、ダードはなりふり構わず命乞いをしてくる。


「そ、そうだ! 父上に頼んで貴様を貴族にしてやろう」


 俺の正体も知られているし、生かしておく理由がない。


「た、助けてください!」


 何より今まで苦しめられた人々、そしてラナさんの為にもお前は殺す。


「くそう! 下手に出てればいい気になりやがって!」


「【煉獄魔法インフェルノ】」


「ぎゃぁぁぁぁ!」


 地獄の業火が断末魔と共に、ダードという存在をこの世から消し去る。


 そして俺のレベルが39から41になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る