第97話 魔人ダード

 夕闇がどんどん夜の暗さに変わる頃、学校の屋上にて。


 俺は認識阻害魔法を使って、白い仮面を被った騎士へと変貌していた。

 前回は高級そうなYシャツを着ているように見せていたが、皆が仮面の騎士と呼ぶので、騎士らしくチェーンメイルに変更する。


 探知魔法を使って、ダードの居場所を確認すると、奴はまだ校内の自分の部屋に居座っていた。

 生徒の手足を切断しているのに、平然と校舎にいるということは、その行為は奴に取って、さほど大きな問題にはならないらしい。


 俺は手始めに、転移魔法でダードの部屋の前まで行き、ドアに手紙をを挟む。

 そして素早くまた屋上へと戻ってきた。



 おっ? 動いた。

 そして部屋のドアを開けると一枚の手紙が落ちる。

 ダードはその手紙を拾い、中を見ると、慌てた様子で外に出る。


 手紙の中はこうだ。


 仮面の騎士の情報あり

 至急第2校庭まで来られたし


 奴は仮面の騎士に執着している所がある。

 情報を与えれば必ず食いつくと思っていたが、想像以上だ。

 俺の言葉を証明するかのように、ダードは一心不乱に走り続けている。

 誘き出されているとも知らず、滑稽だな。

 手のひらで踊らされているダードの姿に満足し、俺も目的地へと向かった。



 第2校庭に辿り着くとそこは暗闇に包まれ、魔道具の電灯がなければ、何も見えないほどの暗さだった。


「手紙の通り来てやったぞ! 姿を現せ!」


 ダードは相変わらず偉そうな口振りで、周囲に喚き散らしている。


「この俺様を呼び出したんだ。もしガセネタだったらお前を殺すぞ!」


 それが人に聞く態度か。この性格は死んでも治らそうだな。

 もう奴と同じ空気を吸っているだけでも不愉快だ。そろそろ行動に移すとしよう。


風短剣魔法ウインドダガー


 透明の風の短剣が、俺の頭上に数多く生まれ、ダードの向かって解き放つ。


「ぐわぁぁ! だ、誰だ!」


 不意討ちプラス、暗がりで目に見えない短剣ということで、ダードは為す術もなくダメージを負う。


「卑怯者め! 姿を見せろ!」


 卑怯者? お前がそれを言う?

 お前ほど高圧的で汚く、自分のことしか考えず、そして卑怯な奴は見たことないぞ。


 ただ殺すだけだったら、このまま隠れて攻撃をしていればいいが、ダードに屈辱を与えるためにも、俺は姿を現す。


「き、貴様は! 仮面の騎士!」


 ダードは俺を視線に捉え、そのまま【氷の剣アイスソード】を片手に斬りかかってきたため、身を捻りその攻撃をかわす。

 姿を見せた瞬間に向かってくるとは、それだけ俺を殺したいらしい。


「ちっ! ちょろちょろと動き回りおって! だがこの場から逃れることはできんぞ!」


 ダードが言葉を発すると同時に、何か黒い光が、第2校庭の中心部分から展開され、ドーム状の結界を構築する。

 これが2人が言っていた結界か。


 俺はダード、そして結界に向かって鑑定魔法ライブラを使用する。


 名前:ダード・フォン・ジールド

 性別:男

 種族:人間 貴族

 紋章:剣と杖

 レベル:46

 HP:912

 MP:532

 力:B+

 魔力:B+

 素早さ:A-

 知性:C

 運:C-


 悪魔の籠

 闇属性の結界を展開する魔道具。持続時間は5分。1度使用すると1時間経たないと再度使うことはできない。


 なるほど。王国10傑と言われるだけはあってかなり能力は高い。スピードだけなら今の俺よりは上だ。

 それに短時間タイプの結界か⋯⋯これのせいでリアナが助けることも、ラナさんが逃げることもできなかったのか。


「そしてこれだ!」


 ダードは懐から何かを取り出し口にした。

 まさかあれがラナさんの言っていた悪魔の種子デーモンシードか。


「フッフッフ。これでもうお前に負けることはない」


 そう宣言したダードの身体が変化していく。


 170センチほどの身長は2メートルを越え、額には一本の角が。そして体全体には人ではおよそたどりつかない筋肉がついている。


「力が溢れてくる。今の私は最強だ」


 これはもう人間じゃない。魔物か悪魔じゃないか。俺は異形の者に変化したダードに向かって再度鑑定魔法ライブラをかける。


 名前:ダード・フォン・ジールド

 性別:男

 種族:魔人

 紋章:剣と杖

 レベル:46

 HP:1121

 MP:611

 力:A-

 魔力:A-

 素早さ:A

 知性:D

 運:D-


 これは。

 種族が人間ではなく魔人になっている。

 ダードは俺を殺すために、身も心も悪魔に売り渡したというのか。

 そして力、魔力、素早さがワンランク上がり、知性、運は逆に下がっている。

 ステータスだけでいうのなら、これはもう魔族の軍団長クラスだ。


「お前を誘きだすためにエルフを殺したかいがあったぞ! 死ね!」


 俺の方にダッシュをかけ、猛然と迫ってくる。


「速い!」


 さすが素早さがA-なだけはある。

 俺は異空間収納から翼の剣を取り出し、受け止める。


「バカめが! 【氷の剣アイスソード】に触れると凍りついていくことを忘れたのか!」


 そんなことはわかっている。


「けどそれは普通の剣なら、だろ? ルドルフさんに頂いた俺の剣を舐めるな!」


 俺はダードの【氷の剣アイスソード】ごと力任せに吹き飛ばす。


「あ、ありえん! その剣はいったいなんなのだ!」


 自分にとって予想外の出来事がおき、ダードは困惑する。


「他人のことを気にしている場合か?」

「何!?」


 視線を【氷の剣アイスソード】に向けると、翼の剣に斬られた影響で、剣身が欠けていた。


「ふ、ふざけるな! 俺の魔法剣は最強だ! そして魔人になった今、勇者パーティーにも負けないとあの方はおっしゃっていた!」


 あの方⋯⋯だと⋯⋯。

 まさか今回の件には他に黒幕がいるのか?


「その悪魔の種子は誰からもらった」

「貴様に言うと思うかぁ!」


 ダードは先程より長い【氷の剣アイスソード】を展開し、鬼のような形相で一直線に接近してきた。そしてスピードを使って右に左に動き、上下左右に剣振り続けてくるため、息つく暇もない。


「ちっ!」


 残念だが、スピードに関しては奴の方が上だ。


 だが⋯⋯。


「はあ、はあ」


 ダードは剣を振り続けた結果、肩で息をしている。


「どうした? 俺を殺すんじゃないのか?」

「はあ⋯⋯う、うるせえ!」

「今まで紋章の力に頼り過ぎだな」

「黙ってろ!」


 魔法剣士は上級職のため、デフォルトのステータスがかなり高い。これまではその力で難なく勝利することができ、周りにチヤホヤされてきたから、剣の修練をしてこなかった。だからダードの剣は力任せで、技がなく重みがない。


「だが貴様も俺にダメージを与えられてないぞ」


 呼吸を整え、見当違いのことを言うダード。


 俺は今、奴が如何に絶望し、苦しみ、屈辱を持って死んでいくかを考えている。

 そこまでお望みなら、ここからは本気でやるか。


 俺はダードに死の序曲を贈るため、左手に魔力を込めた。

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