第96話 ラナの想い
「ラナちゃん!」
横になっていたリアナが突然声を上げ、起き上がった。
「あれ? ここは?」
「ルーナの部屋だよ」
俺の部屋にはベッドが一つしかないため、寮に戻ってきたルーナにお願いをして、部屋を使わせてもらっている。
今、俺の部屋にはルーナとラナさんが。ルーナの部屋には俺とグレイとリアナの3人がいる。
「リアナちゃん大丈夫か?」
グレイが眠っていたリアナを心配し、声をかけた。
「私は大丈夫だよ。それよりラナちゃんは!」
その問に対して俺とグレイは言葉を発せずにいる。だが、黙っていてもいずれわかることだ。伝えるなら早い方がいいな。
「命は助かった⋯⋯けど左手と右足は失くしたままだ」
「そんなあ⋯⋯ヒイロちゃんの【
リアナは絶望した表情で聞いてくる。
「あれは体力と傷を回復する魔法だ。失われたものを戻す力をないよ」
「それじゃあラナちゃんはもう⋯⋯」
リアナは下を向き、ポロポロと涙を流す。
「私が⋯⋯私が早く行っていればこんなことには⋯⋯」
「そのことだけど何があったのか教えてくれないか」
そしてリアナから、ラナさんがAクラスの男子生徒に手紙をもらい第2校庭に行ったこと、5分経って戻らなかったら迎えに来てほしいと言っていたこと、第2校庭が黒い光に包まれていて入ることができなかったこと、ラナさんの左手と右足が欠損し、凍りついていたことを聞いた。
「そういえば、黒い光が失くなった時に、何か大きなものが逃げていった気がする」
「となるとそいつがラナさんを陥れた可能性が高いな」
2人の前では犯行が誰か考えている振りをするが、もう犯人はわかっている。ラナさんが誘い出された、斬られた部分が凍りついていたということから、十中八九ダードが行ったことだろう。
「ヒイロは誰が犯人かわかるか」
グレイは真剣な目で、俺を真っ直ぐに見据え問いかけてくる。
たぶんこいつも、ダードの仕業だとわかっているのだろう。
「さあ、わからないな」
「そうか」
俺は
なぜならダードは今日この手で始末するからだ。
「それじゃあラナさんの様子を見てくるからグレイ、リアナを頼むぞ」
「ああ、任せておけ。ヒイロも
やはりグレイには、これから俺が何をするかわかっているようだ。
本当頭がいいなこいつ。遊び人とは思えないな。
「ま、待ってヒイロちゃん! 私もい⋯⋯く⋯⋯よ⋯⋯」
本調子じゃないのか、リアナは身体を起こそうとするが、またベッドに倒れてしまう。
「無理するな。ラナさんの所には体調が良くなってから行けばいいさ」
「で、でも!」
「リアナまで倒れたらラナさんが心配するぞ」
「⋯⋯うん。わかったよ」
俺は2人に背を向け、部屋を出ようとした時に、後ろから声をかけられた。
「ヒイロちゃん。私⋯⋯どうすればいいのかわからないけどラナちゃんの手と足は治るのかな」
「⋯⋯」
少なくとも
「私、ラナちゃんの身体を治したい⋯⋯ヒイロちゃん一生のお願い⋯⋯力を貸⋯⋯し⋯⋯て⋯⋯」
リアナは泣きながらいつもの言葉を口にする。
だか今回は、自分の為ではなく、初めて他の人の為にお願いを使った。
「⋯⋯わかった。任せておけ」
「本当?」
「俺が今まで、リアナの一生のお願いを破ったことがあるか?」
「ないね」
「だから今はゆっくり休んでろ」
「うん」
リアナが次に目を覚ます頃には、全て終わらせるから。
そう心に誓い、俺はルーナの部屋を後にした。
トントン
俺は自分の部屋のドアをノックする。
ガチャ
ルーナが扉を開けてくれたので、中へと入る。
「様子はどうだ?」
俺はラナさんに聞こえないよう小声でルーナに問いかける。
「⋯⋯意識は戻っていますけど、手足を失くしてしまったことがショックで、元気がないです」
今まで当たり前のように使っていたものがないんだ。俺達が思っている以上に本人は動揺しているだろう。
「入ってもいいか?」
「大丈夫です」
中に入るとラナさんがベッドに横たわっている。布団がかけられているため、外から見ただけでは左手と右足が欠損しているようには見えない。そして目は開いているが、その焦点は遥か遠くを見ているように感じる。
「その、大丈夫か?」
何を話せばいいのかわからず、当たり前のことを聞いてしまった。
俺のバカ。大丈夫なわけないだろ!
だが、ラナさんから反応はない。
ルーナに聞いてみると、さっきからずっとこんな状態らしい。
「私、1度自分の部屋に戻りますね」
そう言ってルーナは部屋を出ていってしまった。
おい! 二人っきりだと尚更気まずいじゃないか。そう思っていたが、予想外なことにラナさんが話しかけてきた。
「⋯⋯あなたがここまで運んでくれたの? さっきルーナさんが言っていたわ」
声の調子がいつもの強気なラナさんじゃない。
「一応、礼は言っておく。ありがとう」
もし、元気であったなら、「まさかあなた、変な所を触っていないでしょうね」って言ってくると思う。なぜだか今はそんなラナさんが見れなくて凄く悲しい。
「⋯⋯言いにくいことかも知れないけど、今回のことはダードがやったのか? 詳しく教えてくれないか」
答えてくれないかもしれないけど、なるべく奴の情報を手に入れておきたい。
「ええ、そうよ。仮面の騎士様の情報があるって、手紙をもらって向かったの」
なんだと。
それじゃあラナさんがこんな姿になってしまったのは、俺のせいじゃないか。
「そうしたら結界に閉じ込められて⋯⋯あいつは【
【
「わたし、何であんたなんかにベラベラしゃべっているんだろう。自棄になっているのかな」
確かにいつものラナさんなら、そもそも俺に話しかけるようなことをしない。
「⋯⋯⋯⋯私の手と足⋯⋯治るのかな?」
普通なら欠損した身体が戻ることはない。
俺は答えることができずにいると、ラナさんからすすり泣く声が聞こえる。
「わ、わたし。グスッ⋯⋯もう冒険者になることができないの?」
片手、片足でなれるほど冒険者は甘くはない。
「グスッ⋯⋯冒険者になって、私の村を襲った人族を捕まえて⋯⋯グスッ、行方不明になった家族を探すのが目標
ラナさんはずっと人族が嫌いと言っていたけど、これがその理由だったんだ。
「グスッ⋯⋯でもそれもおしまい。グスッ⋯⋯もう私の生きる意味がなくなっちゃった⋯⋯うぅ⋯⋯うぅ⋯⋯うわぁぁぁ!」
溜まっていた感情が爆発し、大きな声で泣いてしまう。
俺はそんなラナさんを見て、怒りがふつふつと沸き上がってくる。
こんなことなら、実技試験の時に、奴を始末しておけば良かった。
これは俺の甘い感情が招いた結果だ。
「ラナさん。俺も家族を探すのを手伝うよ」
「グスッ⋯⋯同情なんかいらないわ」
「同情じゃないよ。一生懸命がんばっている娘を応援したい。そんなの当たり前のことだろ?」
「けれど私はもう、ここから動くことすらできない」
「それも一晩眠れば、ただの悪い夢になっているから⋯⋯今はお休み」
そして俺はラナさんに魔法を唱える。
「【
「あ、あなた何⋯⋯を⋯⋯」
ラナさんの心身が弱っていたこともあり、簡単に睡眠魔法で眠らせることができた。
全てを終わらしてくるから今は夢の中で待っててくれ。
後はルーナが部屋に戻ってきたら行動に移す。
さあ、ここからは暗殺の時間だ。
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