第94話 悪魔の種子

 リアナside


 私は校門へ向かうと、ヒイロちゃん達はすでに到着してて、今は皆で雑談をしている。


 そろそろ5分たったかな?

 第2校庭まで走って行けば、1分ちょっとでいける距離にある。

 どうしよう。もし今ラナちゃんを迎えに行って、彼氏さんとチュ、チュ、チューをしている所だったら、完全に私はお邪魔虫だよね。

 けどこのままヒイロちゃん達を待たすのも悪いし⋯⋯。

 う~ん⋯⋯よし! 行こう!

 ラナちゃんから、5分経ったら迎えに来てって言われているから、問題ないよね。もしそういう場面だった時は声をかけずに戻ってこよう。


「ラナちゃんを迎えに、第2校庭へ行ってくるからもうちょっとまっててね」

「わかった」

「急がなくても大丈夫ですよ」

「俺は可愛い娘のためなら何時間でも待てる男だから、ゆっくりでいいぜ」


 私はみんなに声をかけてラナちゃんの元へと向かった。



 もうラナちゃんから言われた、約束の5分が迫っていたこともあり、私は急ぎ第2校庭へと向かう。

 後はこの林を抜ければ目的地に辿り着く。

 あれ? 木々の間から見える向こう側が、夜でもないのに黒く見える。

 何だろう?

 ここは第2校庭だよね?

 しかしそこは黒い光に包まれていて、中を見ることができない。


「まさかこの中にラナちゃんが!」


 私は剣を抜き、得たいのしれない物を全力で斬りつける。


 カキン!


 嘘! 弾かれた!

 これって魔族の力? それとも何かの魔道具?


「ラナちゃん! 中にいるの! 返事をして!」


 しかし誰からの返答もないため、私は焦りと不安に飲まれるが、突如前触れもなく、その黒い光が薄くなり、中が透けて見えるようになった。


「ラナちゃんいるの?」


 徐々に肉眼で確認できるようになり、私はラナちゃんの姿を探す。一瞬何か大きな物が動いたように見えたけど、それはすぐに姿を消した。


 何だろう今の。

 ううん。今はそれよりラナちゃんを探さないと。

 黒い光もほぼなくなり、中が良く見えるようになってくる。


 あっ!


 さっき大きな物がいた足元付近に、何かがある。

 私はそこに向かって急ぎ駆け走る。


「こ、これって!」


 ラナside


 何なのあれは! ダードはどこへ行ったの?

 まさかあの魔物に殺られてしまった?

 魔物は身長2メートル以上あり、額には一本の角が。そして体全体には人ではおよそたどりつかない筋肉がついており、右手にはを持っている。


 氷の剣?

 ま、まさかあれがダードなの?


「ほう? 中々のスピードだな」


 この声はやっぱりダードだ。もしかしてさっき口にした物が原因で異形な姿になったというの?


「あなた、さっき食べていたものは何ですの?」

「これのことか?」


 ダードは懐から何か種のような物を取り出した。


悪魔の種子デーモンシード⋯⋯私に力を与えてくれる代物だ」


 名前からして、あまり良くないものだと想像ができるわね。


「これを使った俺は無敵だ! もう仮面の騎士に負けることもない!」


 先程の私を越えるスピード⋯⋯もしかしたら仮面の騎士様でも危ういかもしれないわ。


「結界の時間がそろそろ切れてしまうから、一瞬で終わらせてやるか」


 バカな奴ね。そんなことを口にするなんて。

 結界がなくなれば外に逃げて助けを呼ぶことができる。


「お前今、何でそんなことを口にするのか、バカな奴だと思っただろ?」

「そうね」

「それを知っていようが知っていまいが関係ない、からだ!」


 ダードが猛然と迫ってくる。

 確かに【風神】を使った私より速い!

 20メートルくらいの距離があったのにあっという間に、眼前に現れる。


「くっ!」


 横一閃に振るってきた剣を、何とかバックステップでかわそうとするが、左手の甲を斬られてしまう。


 冷たい! これが魔法剣を受けた影響なの!

 何度も斬られてしまうと寒さで身体が動かなくなり、いずれ殺られてしまう。


「よくかわしたな。さすがはマグナスの弟子だけあって、逃げるのは得意のようだ」

「残念だけどそんな挑発には乗らないわよ」


 今のあいつに向かっていくことは自殺行為よ。

 もし先程と同じように近づけば、必ず斬られて、凍りづけにされる未来が待っている。

 それだけ今のダードは私より、圧倒的に強い。


「もう結界が切れる時間だ。遊びは終わりにするか」


 結界がきれる? それなら次の攻撃を凌げば助かるかもしれない。

 おそらくリアナさんはもうそこまで来ているはずだから。


「いくぞ」


 今までと同じように駆け引きをせず、力任せに向かってきた。

 私は【風神】を使っていつでもかわせるよう体勢を整え、上段から振り下ろされた剣を後方に下がりよけ⋯⋯。


「ッッッッ!」


 声が上がらないほどの痛みが左腕に走る。

 な、何が起きたの⋯⋯。

 おそるおそる視線を左腕に向けると、肘より下の部分が斬り落とされ、凍りついていた。


「イッ!イヤァァァッッッー!」


 私は激痛と左手を失くしたショックで悲鳴を上げる。

 何で? 確かにさっきと同じタイミングでかわしたはず!


「フッフッフ、やっと平民らしい声で鳴いたか」


 ダードに視線を向けると、何故私が剣を受けたかの理由がわかった。


悪魔の種子デーモンシードを使うことによって身体能力だけでなく、魔力も上がっていたのね」


 ショートソード並の【氷の剣アイスソード】が、通常の剣と同じくらいの長さに変化し、そのため間合いを見誤ってしまった。


「さあ次はどこを斬り落とす⋯⋯一層のこと首を⋯⋯」


 首? もし斬られたら私の命は⋯⋯⋯⋯こんな所で死ぬわけにはいかない! 私にはやるべきことがあるんだから!


 ダードはゆっくりと私に近づいてくる。しかし私は恐怖で足がすくみ逃げることができない。


「何で! 何で動かないの!」

「いいぞ。もっとその怯えた声を聞かせろ。貴様を始末したら次は仮面の騎士の番だ」


 仮面の騎士様?

 その言葉を聞いて私の闘志が甦る。

 いつか仮面の騎士様に会えた時、恥ずべき自分でいたくない!


 私の左手が失われたことで、ダードは無防備に向かってくる。

 チャンスは今しかない!


【風神】


 最後の力を振り絞ってダードに接近し、右手に私のすべてを込めた一撃を鳩尾に繰り出す。


「イヤアッ!」


 バシッ!


「何故容易に近づいたと思う? 今の私には貴様ごときの攻撃を避ける必要がないからだ」

「そんな⋯⋯」


 私の拳は確かに急所に当たった。けれどその攻撃は全く通用していない。

 どうすれぱいいの? どうすればこいつを倒せる⋯⋯。


 いけない。今はこいつから離れないと。

 私は右足で蹴りを放ち、その反動で距離を取ろうとするが、ダードは左手で足を受け止める。


「遅い!」


 ザシュッ!


「キャァァァッ!」


 私は右足に激痛を感じ、地面に平伏してしまう。


「ウァァァッ!」


 第2校庭に私の叫び声が響き渡る。

 痛い! 痛い! 切断面が凍りついているため、出血多量で死ぬことはないけど、痛みで発狂しそうだ。


「ククッ! 悪さをする足はこれでもうなくなったな」


 目の前には私の右足を持ち、薄ら笑いをするダードがいる。

 左手、右足を失い、今の私は立ち上がることすらできない。


 悔しい! マグナスおじ様をバカにされ、仮面の騎士様には迷惑をかけ、この最低の男の前に平伏すなんて。


「なんだ? 泣いているのか? プライドの高いエルフが這いつくばり、涙を流すなんて⋯⋯最高だ! 最高じゃないか!」


 しかし、その声はすでにラナには届いていなかった。


「チッ! つまらん。止めをさすか」


 ダードは【氷の剣アイスソード】を手に取り、高く掲げたその時。


「ラナちゃん! ラナちゃんいるの! どこ!」


 どうやら魔道具の効果が切れたようだ。

 悪魔の種子デーモンシードの効果もそろそろなくなりそうだから、この姿を誰かに見られるのはまずい。ひとまず退散するか。

 どうせこのエルフは直に死ぬだろう。いやもう死んでるかもな。


 夕暮れ時の中、ダードは誰にも見つからぬようこの場から姿を消した。

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