第88話 カースト制度
「ヒイロ! なぜお前がここにいる!」
久しぶりに会ったが、ベイルの高圧的な態度は変わらないようだ。
「冒険者学校に合格したからに決まってるじゃないか」
「お前が?」
ベイルはこちらを小馬鹿にしたような視線を向け、そしてチラッとFクラスの表札を見る。
「紋章も訳がわからない物で、実技が糞だからFクラスってことか。まあ冒険者学校に入れただけでも感謝するんだな」
こいつは本当に人を腹立たせる言い方をするな。だがベイルは俺の力が戻ったことも知らないから仕方ないか。
「ひょっとしてヒイロくんこの人が⋯⋯」
後ろにいたルーナが言いたいことはベーレの村でのことだろう。
子供のスモールボアを1匹倒しただけで、依頼料金を全て持っていってしまったからな。
「ベイル、逆にお前はこんな所にいていいのか?」
「どういうことだ?」
「ベーレの村の人達が被害届を出すって言ってたぞ」
ベーレという言葉を聞くとベイルはピクッと反応を示す。
「お、俺には関係ない話だ」
「村にいた時のように、他所でも自分勝手な振る舞いができると思うなよ」
ラーカス村では権力者の息子ということもあり、色々な面で優遇されていたり、命令を聞く者がいたが、ここではそんな常識は通用しない。
「黙れ黙れ! Fクラスの分際でこの俺に意見をするんじゃない!」
ベイルは怒りに任せて怒鳴り散らすと周囲にいたFクラスの面々から、睨まれる。
「貴様らその目はなんだ!」
そういうところだよ。お前の良くない所は。
いつまで王様気分でいるんだ。
そして近くを歩いていた貴族と思われるAのワッペンを着けた学生達が、そんなベイルを見て言葉を発する。
「EクラスごときがFクラスに何を言ってるんだ」
「どっちもどっちだろ」
「底辺共は底辺らしく俺達の邪魔になるようことをするんじゃないぞ」
Aクラスの学生達は鼻で笑いながら去っていった。
バカにされたことにより、ベイルはその場でワナワナと震えている。
「くそう! 何で俺がこんな扱いを!」
そう言ってそのまま校舎の外へと走り出していった。
「あの人はヒイロくんが教えてくれた通りの人ですね」
村を出て少しは変わってくれればと思ったけど、やはりベイルはベイルでしかなかった。これはもう憲兵に捕まって牢屋で反省してもらうしかないな。
そう考えながら、俺達は学生寮へと向かった。
???side
なるほど。あいつは使えそうだな。
Eクラスであることを不満に思っているし、あの方に頂いたものを疑うわけではないが、1度
奴は平民だからもし何かあっても問題ないだろう。
そして謎の人物もベイルを追いかけるため校舎の外へと向かった。
ヒイロside
これから向かう寮は冒険者学校の敷地内にあるため、徒歩で2分くらいの所にあり、歩いて校舎の裏へと向かうと六棟の建物が見えてくる。
それぞれの寮は見たところ縦横の大きさは同じでも、高さに決定的な違いがあった。
六棟はそれぞれ一階建てから六階建てになっており、1番高い建物はAクラス、1番低い建物はFクラスと表札が見える。
AからFクラスの人数はほぼ均等に分けられているため、それだけ部屋の広さが違うということだ。
「これは見事に差がつけられているなあ」
俺は目の前にある寮を見て、思わず呟いてしまう。
「そうですね。けれど私は泊まれる所を用意して頂けるだけでありがたいですけど」
確かにそうだな。冒険者は勇者パーティーの活躍もあり、国から優遇されている部分があるから普通なら学校の寮を無料で使えるなんてありえない話だ。
俺達は寮の中に入ろうとした時、太った神父とスーツを着た大人と学生達が通りかかった。
「アイン様、本日はわざわざ御越しいただきありがとうございます」
「いえ、私の方こそ5人の素晴らしい神徒に会うことできて感謝致します」
え~とあの神父、どこかでみたような。
「バビロ教の教皇様です。入学式の時に来賓の挨拶をされていました」
そうだそうだ。そんな人がいたような気がする。
正直入学式は眠くて、誰が挨拶をしていたのかなんて覚えていない。
「僧侶の紋章を持つあなた方から、歴史上1人しか出たことがない【聖女】が生まれることを期待しています」
なるほど、教会のお偉いさんが来たから、僧侶の紋章を持つ新入生を集めたってわけか。
あれ? そうなるとルーナは何で呼ばれてないんだ?
俺が疑問に思っていると、アインと呼ばれた神父がこちらに近づいてきた。
「あの娘からも神の波動を感じます」
そう言って神父はルーナの前に立つ。
「こ、この娘はFクラスの者でして、とてもアイン様に紹介できるような子ではありません」
何だこの教師は。明らかにFクラスをバカにした言い方をしてくる。
「選ばれた僧侶の紋章を持ったにも関わらず、堕落したというわけですか。元々の才能もなさそうですね」
なんだこいつは。ルーナが僧侶と瞬時に当てたことといい鑑定持ちか?
「グフフ、Fクラスでは将来ろくな仕事に就けまい。それなら私の側仕えとしておいてやってもいいぞ」
ルーナを舐めるような視線で見るこいつに俺は嫌悪感を覚える。教皇とか偉そうに言われているが、中身はただのスケベ野郎じゃないか。
「すみません。僕らは用があるので失礼します」
俺はルーナの手をとる。
「あっ!」
後ろで教皇や教師達が何か言っていたが気にせず、急ぎFクラスの寮へと向かった。
「ごめんルーナ。勝手に連れ出しちゃって」
俺はエロい視線を送ってくる教皇やバカにしてくる教師達の前からルーナを逸早く離したかった。
「いえ、私の方こそあの場から連れ出して頂き、ありがとうございました」
ルーナの表情から少し落ち込んだ雰囲気が感じられる。
バビロ教のトップからダメ出しをされたんだ。気にするなっていう方が無理か。
「ヒイロくん私なら大丈夫ですよ」
そんな俺の心情を察してか、ルーナが声をかけてきた。
「私はバビロ教ではなくアルテナ教の信者ですから」
アルテナ教? 珍しいな。
この世界は力と正義を象徴するバビロ教と、知識と慈愛を象徴するアルテナ教の2つがある。
信者の数は9割方バビロ教信者で、アルテナ教は僅か1割しかいない。
ちなみに俺もルーナと同じアルテナ教だ。
特にどっちの宗教がという訳ではないが、祖父母からアルテナ教にしろと言われているので、その教えに今も従っている。
先ほどアインが言っていた聖女様はアルテナ教で、昔はアルテナ教の信者が9割で、バビロ教は1割だった。
そういえば何で聖女様がアルテナ教なのに信者が減っているんだ?
疑問に思ったが今はどうでもいいことだな。
「俺もアルテナ教なんだ」
「えっ! ヒイロくんもですか! これはもう運命ですね」
ルーナは俺もアルテナ教と聞くと感激し、両手を手に取る。
「アルテナ様はお美しい姿で、誰にでも分け隔てなく慈愛を授けていらっしゃる最高の女神様です」
何かルーナの中にスイッチが入ってたのか、グイグイと迫ってくる。
「どうしてアルテナ様がお生まれになったか知っていますか? アルテナ様は数百年前から崇拝されていますが、バビロ様はお生まれになってまだ百年ほどしかたっていません。ですから成人の儀の時に紋章の力を与えて下さっているのはアルテナ様なんです」
捲し立てるようにアルテナ様のことを話すルーナを見て、先程アインに言われたことは気にしていないと安堵する。
「それで――」
だがこの話しはいつまで続くんだ。
早く寮の中に入りたい。
結局アルテナ様の由来について、ルーナから1時間ほど話を聞くこととなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます