第80話 鬼畜ヒイロ?
【聖約のブレスレット】
聖約が破られた際に具現化する腕輪。金が主、銀が従者の物となる。奴隷の首輪と同じように主の命令は絶対となり、命令を破棄した場合は、その内容によっては死に至るケースもある。
そうだ! さっき見覚えがある光は教会で聖約をした時の光だ。
ということは俺が金、ルーナが銀だから、ルーナは俺の奴隷になってしまったのか!
今日が銀貨10枚を返還する約束の1ヶ月だったことをすっかり忘れていた。しかしルーナは呪いをかけられて動くことができなかったから、どちらにせよ【聖約】を守ることはできなかったはずだ。
「どうしたのヒイロちゃん?」
「ヒイロさん大丈夫ですか」
純粋な瞳をしたリアナとマーサちゃんがこちらに視線を向けてくる。
や、やめろ。見ないでくれ。若い女の子を奴隷落ちさせた俺を。
どうする? ルーナが俺の奴隷になりましたなんて言えるわけがないから誤魔化すか。
「だ、大丈夫だよ。それにしてもなんだろうねこのブレスレット」
皆が俺の左手についているブレスレットに注視する。
「とりあえず俺の身体におかしな所はないから、一旦部屋に戻って小鳥さんにエサをあげてくるよ」
どうだ! この自然な演技。演劇の権威あるアカミーデ賞にノミネートされてもおかしくないだろ。
そして
完璧だ。
「ヒイロちゃんちょっと待って」
リアナの呼び掛けに俺は足を止める。
何か気づかれたか!
「何かいつもと違うよね」
「そうです。ヒイロさんが小鳥にエサをあげている所なんて見たことありません」
チッ! そう簡単にはいかないか。
とにかくこの部屋を脱出して、それからどうするか対策を考えよう。
「聖約」
ポツリとディアナが呟く。
げっ! まさか聖約を知っているのか!
「ディアナちゃんはどうしてこうなったかわかるの?」
「確か教会で結ぶ約束事で、守れなかった場合は奴隷制度と同じように、主に絶対服従だったと思いますわ」
俺は暗殺者のキルガ並に気配を消して、部屋から脱出を試みる。
ガシッ! 突然何かに肩を掴まれた。
痛い痛い! 手が食い込んでるよ。
「ヒイロちゃんどういうことかな、かな」
勇者としての力が発揮されたのか、いとも簡単に俺の居場所がバレた。
「ヒイロさん私も
顔は笑っているが、マーサちゃんは魔獣軍団団長のザイドに匹敵するプレッシャーをかけてきたため、俺は一歩後退る。
12才の女の子の圧に、怯んだ⋯⋯だと⋯⋯。
「ヒイロさん、以前わたくしはルーナさんに、【聖約】について聞いたことがあります。もう観念して本当の話してください」
ディアナは俺に自首しろと促してくる。
くそうっ! どこで間違えた! 演技は完璧だったのに!
俺は椅子に座り、諦めてことの顛末を話そうとするが制止がかかる。
「ヒイロちゃん」
「「ヒイロさん」」
3人は地面を指差している。
えっ? まさか地べたに座れと?
こ、怖い。これは3人の意見に従った方が良さそうだ。
俺は泣く泣く椅子から降りて、冷たい床の上に正座する。
「それで? 話を聞かせてもらおうかな」
もうこれは詰んだな。正直に話した方が良さそうだ。
「実は――」
俺はことの顛末を皆に伝える。
「「「えーっ!」」」
3人の声がルーナの部屋に響き渡る。
今が昼で良かった。もし夜だったら、寝ている人達が起きるくらいの大声だったからな。
だけど今はそんな些細な事を気にしている暇はない。
眼前で悪魔の微笑みを持った少女達を何とかしなければ、命がないからだ。
これから話す内容の選択を間違えれば、俺の生死が決まってしまう。
「ヒイロちゃん。なんでルーナちゃんと【聖約】を結んでるの?」
冷静に話しているが幼馴染の俺にはわかるぞ。その怒りは今、地獄の業火である【
「ちょっとお金を貸してて、それで【聖約】を⋯⋯ね」
「お金? 銀貨10枚で? そんなことで【聖約】を?」
ごもっともです。
マーサちゃんが微笑みをながら優しい声で俺を問い詰める。
王都1の看板娘である天使の笑顔が、今は悪魔の笑顔に見えるぞ。
「いや、俺はしなくていいと言ったんだけどルーナがどうしてもって」
「従者になる方が【聖約】を望むなんてありえませんわ。まさかヒイロさんが無理矢理⋯⋯」
ディアナは何かを誤解して、妄想しているようだ。
そしてリアナとマーサちゃんはその言葉を信じて、3人は汚物を見るような視線を俺に送ってくる。
「鬼畜だよヒイロちゃん」
「ロリコンですね」
「変態ですわ」
3人の辛辣な言葉が俺に突き刺さる。
けどマーサちゃんが言いはなったロリコンは違うだろ。マーサちゃんに手を出したら間違いじゃないけど。
「違うから! 本当に俺から言ったんじゃないよ」
ルーナが寝ている今、援護は期待できないから俺1人で何とかするしかない。
「まさかあのわがままボディを好きほうだいするために⋯⋯」
「最低ですわ」
「ヒイロちゃんしばらく見ない間にエッチになったね⋯⋯ううん、前からエッチだったからこうなるのは仕方ないのかな、かな」
もう無理だ。
何を言っても俺の言うことは信じてもらえなそうだ。そもそも3対1で勝てるわけがない。いつの時代だって最後に勝利するのは数の暴力だ。
「何も言わないということは後ろめたいことがあるのでは?」
「初めてわたくしと会った時のようにルーナさんも威圧して強引に⋯⋯」
「もう私が知っているヒイロちゃんは死んだんだね」
こうなったら最後の手段を使うしかない!
俺は下を向いて、何をやっているか皆に悟られないようにする。
「ちょっとヒイロちゃん、何か言ってよ!」
俺がこの後言うことは決まってる。
それは言い訳でもなく、ましてや謝罪の言葉でもない。
いくぞ!
「【
俺は転移魔法を使ってこの場から立ち去る。
「あっ! 逃げた!」
「ヒイロさんどこに行くの!」
「これは罪を認めたようなものですね」
俺は無実だ!
だが今は戦略的撤退をする。
3日後。ルーナが目覚める時にまた帰ってくるから覚えてろよ。
こうして俺は無実の罪を着せられたまま、この場から逃亡した。
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