第52話 幼なじみコンビVSエリザベート中編

 エリザベートは獣人のザイドとは違い、純粋な魔族だからもし倒せるとしたら、リアナのように対魔族用の紋章を持つか、上級魔法もしくは光か聖魔法。そして魔法が付与されているような特殊な武器を使うしかない。

 魔法や武器も大切だが、やはり紋章の力、特に勇者の紋章は魔族に対して絶大な効力を発揮する。

 例えば僧侶が100のダメージを魔族に与えた場合、勇者だったらその3倍のダメージを与えることができる。

 そんなことがあるから、魔王軍もリアナを殺そうとしているのだろう。


 俺の【門と翼の紋章】も対魔族に関しては効力があると思う。そうでなければ元魔王のヘルドを剣で傷つけることは出来なかったはずだ。

 それに何の剣かわからないけど、ルドルフさんにもらった翼の剣があるから俺とリアナそして僧侶であるルーナは魔族を倒すことができるはず。



 エリザベートは右手をこちらにかざし魔法を唱える。


「【黒炎弾魔法ダークフレイム】」


 黒い炎の弾が真っ直ぐに向かってきたため、俺は防御魔法を使う。


「【氷柱盾魔法アイシクルシールド】」


 地面から出てきた氷柱が盾となり黒い弾から俺達を護る。


「ちいっ! 小癪なマネを!」


 黒炎と氷がぶつかったことによって辺りは水蒸気が舞い、視界が悪くなる。リアナはその瞬間を狙い、時間差で背後から魔法を唱える。


「【聖稲妻魔法ホーリーライトニング】」


 リアナから放たれた白き稲妻は、エリザベートに向かってほとぱしり、見事命中する。


「ぎゃああ!」


 あまりの痛みにエリザベートは声を上げ地面に膝をつく。


 俺は改めて鑑定を使ってみると1,040あったHPが今では125しかなくなっていた。どうやら後一撃食らわせることができたら倒すことができそうだ。

 そうとわかれば、立ち上がって体勢を整えられる前に、俺はエリザベートの所へ一直線に向かい、剣を縦に振り下ろす。


「甘いわ!」


「【黒楯魔法ダークシールド】」


 幾重もの黒い楯がエリザベートを護るが、俺の振るった剣はまるで豆腐を斬るように、楯を打ち砕いていく。


「バカな!」


 エリザベートは剣をかわすため、慌ててバックステップで後方へと下がる。しかしなんとか俺の剣から逃れることができ安堵したのも束の間、背後には待ち構えていたかリアナがいる。


「先程の魔法の時といい避ける方を読んでいたのか!」

「ヒイロちゃんの考えていることならわかるからね」


 今ままでずっと一緒に鍛練してきたから、俺も大体リアナの動きはわかる。ここ2年は疎遠になっていたが、それでも2人のコンビネーションは色褪せていなくて、なんだか無性に嬉しくなった。


 そしてリアナは剣を斜めに斬り払うと、エリザベートはなす術もなく食らい、胸から血を流し地面に向かって倒れた。


「やったねヒイロちゃん」

「御二人共、息のあった攻撃ですごいです」


 2人はエリザベートが崩れ落ちる様を見て喜びの声をあげる。

 勝ったな。俺もこの時勝利を確信した。


 それにしてもなんだこの剣は! こうも簡単に防御魔法を粉砕することができるなんて。ルドルフさんはとんでもない物をくれたな。



「リ、リアナ様!」

「エリスさん! ダリアさん」


 リアナを呼ぶ方を見ると、城壁の上で回復魔法をかけた騎士がゆっくりとした足取りでこちらに向かってきた。


「見事な一撃でした。さすがはリアナ様です」

「ヒイロちゃんが隙を作ってくれたからだよ」

「ヒイロちゃん?」


 副団長のエリスさんが俺のことを見て睨んでくる。


 えっ? 俺この人に何かやった?

 むしろ回復魔法で助けたよね?

 疑問に思っていると、俺が魔法で治療したことをリアナがエリスさんに伝えてくれた。


「エリスさんの傷もヒイロちゃんが完璧に治してくれたんだよ。痛いところありますか? ないですよね」


 リアナは嬉しそうに語るが、エリスさんの顔は依然として険しいままだ。


「あなたがヒイロさんですか。治療して頂き、どうもありがとうございました」


 そう言って握手をするため、を差し出してきた。


 ひ、左手ですか!

 左手は敵意の証だ。人助けをしてここまで敵対心を持たれるなんてなぜだ。

 俺はリアナに視線を向けると「たははッ」と笑いながら理由を話してくれる。


「エリスさんはその⋯⋯私のことが大好きみたい」

「リアナが大好き?」


 別に仲がいいことは問題ないはずだ。

 はっ!

 まさか女同士の恋愛というやつか!

 昔らそんな趣味はなかったと思うがここ2年、俺はリアナと話していないから好みが変わったのかもしれない。

 俺はジト目でリアナを見ると、慌てた様子で否定してくる。


「ち、違うからね。私はちゃんと男の子が好きだから」

「男の子が好き? リアナ様それは誰のことですか」

「そ、それは⋯⋯」


 リアナはチラッとこちらを見てくる。


「うぅ」


 答えに迷っていると倒れたエリザベートの方からうめき声が聞こえてきた。


「皆気をつけろ、まだ生きているぞ」


 鑑定で見てみるとHPはもう6しかないので虫の息だろう。

 しかし俺達は油断せず、剣を構え様子を伺う。


「お、おのれ! 私をここまで追い込むとは。あなた達は絶対に生きてかえしません」


 生きて返さない? 口ではそう言うが、この状態で何かできることはあるのか。


 俺はこの時、すぐにエリザベートを殺さなかったことを後で後悔することとなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る