第51話 幼なじみコンビVSエリザベート前編

 浮揚魔法レビテーションで地面に着地すると、そこには1人の女性魔族と操られていると思われる衛兵と騎士達がいた。


「誰ですかあなたは? 私のショウタイムの邪魔をするなんて許せませんね」

「さあ? 誰だろうな。幼なじみがあんたに殺されそうになっていたから救出させてもらったけど何か問題があったか?」


 言葉では軽口を叩いて隙があるように見えるが、実際には視線や言動でこちらを分析している様子が伺える。

 どうやら相手は鑑定魔法を使うことができなさそうだな。けれどこっちは遠慮なく【鑑定魔法ライブラ】を使ってステータスを確認させてもらう。


 名前:エリザベート

 性別:女

 種族:魔族(魔導軍団副団長)

 レベル:50

 HP:1,040

 MP:4,562

 力:B

 魔力:A-

 素早さ:C

 知性:B

  運:C


 魔導軍団副団長?

 ザイドの魔獣軍団団長という肩書きを見た時も思ったけど、魔王軍は幾つかの部隊があるようだ。

 こいつは副団長か。ザイドと比べると総合的には劣るが、魔力がA-と高いので、魔法よりの能力を持っていそうだ。


 ちなみに俺のステータスは。


 名前:ヒイロ

 性別:男

 種族:人間

 紋章:翼と門

 レベル:37

 HP:1,411

 MP:7,522

 力:A

 魔力:S

 素早さ:B

 知性:A

 運:B


 ザイドと戦った影響か、以前と比べてレベルが2つ上がっている。ステータスだけを見たらエリザベートに負ける要素はないけど、相手はきたない手を平気で使ってくるような奴だから油断してはいけない。

 まずはマーサちゃんを含めた人質の解放をするためにがうまくいくといいけど――。


「どうやら東門に向かっていた雑魚モンスターを倒したのはあなたのようですね」


 エリザベートは確信を持って断定する。

 まあ、魔力が高くないと使用することができない浮遊魔法を見せてしまったからそれくらいの予測はするか。


 騎士や衛兵達を前に出し、俺の動きを警戒しているようだ。


「予定とはかなり違ってしまいましたが、まずは目的の1つでもある勇者には消えて貰いましょう」


 ザイドを撃退した俺やルドルフさんを殺すために、これだけの魔物で攻めて来たのかと思ったが、どうやら勇者であるリアナの殺害が目的だったようだ。

 いや、エリザベートは目的の1つと言った。それなら俺達を殺す目的もあるかもしれないから、狙われていると思った方がいいな。


「勇者リアナよ。命令です。こちらに来なさい」

「⋯⋯はい」


 リアナはエリザベートの問いに答え、少しずつ前へと歩いて行く。


「リ、リアナ! どこへ行くんだ!」

「ふふふ、何を言っても無駄ですよ。ボルデラ様から頂いた腕輪の力には抗えません」

「まさか! 裏切ったのですか!」


 ルーナの悲痛の叫びが辺りに鳴り響く。

 しかし俺達の思いも虚しく、リアナはエリザベートの横に並び立ってしまった。


「このままあなた達と戦わせるのも面白いけど、ボルデラ様に仰せつかった任務を確実にこなすために、勇者には死んでもらうわ」

「何をするつもりだ!」


 エリザベートは微笑みながらリアナに命ずる。


「勇者リアナ。その手にもっている剣を、自分の心臓に突き刺しなさい」

「⋯⋯わかりました」

「やめろー!」


 リアナはゆっくりと剣先を自分に向け、おもいっきり


「えっ?」


 エリザベートはリアナが起こした行動が理解できていなかった。

 地面に腕が落ち、遅れて断末魔の叫びと斬られた所から血が吹き出してくる。


「ぎゃああああっ!」


 剣で斬りつけたリアナは、騎士達の上を華麗にジャンプしてこちらに戻ってきた。


「やったあ。作戦成功だね」


 エリザベートの油断を誘うため、解呪魔法で無力化した腕輪をもう一度リアナに身につけるよう指示していた。

 操れると思っていたエリザベートはまともに剣を食らい、左腕一本を失うこととなる。

 それにしてもルーナの演技には目を見張る物があった。俺も何も知らなければ騙されてもおかしくないほどだ。

 恋人のふりをした時も感じたが、ルーナには隠れスキルとして芸能があるんじゃないか。

 それともまさかさっきリアナといざこざがあったから、演技じゃなく本気で言ったなんてことはないよね⋯⋯ないといいな。


「き、貴様ら!」

「先程と話し方が違うけど、どうしたんだ」


 おそらくこちらが素なんだろう。あまりの激痛に本性を現したって所か。


「なぜ私の命令を聞かない! くそっ! では騎士達よこの2人を殺しなさい!」


 操られている騎士や衛兵が、俺達に向かって突進してくる。


「もうその腕輪の弱点はわかっている」


 リアナの時と同じように解呪してやればいいだけだ。

 俺はスキル【魔法の真理】から1つの呪文を選ぶ。


「【範囲解呪魔法エリアディスペル】」


 騎士達は光の奔流に飲み込まれると皆意識を失い、その場に倒れる。


「ルーナ! 傷を負っている人達の回復魔法を頼む!」

「はい! わかりました」


 魔物と戦って傷だらけになっている騎士や衛兵をルーナに任せて、俺とリアナはエリザベートの元へと向かう。


「な、なんですか今の光は!」

「呪いの魔道具だったから魔法で解呪しただけだよ。それにしてもお粗末な造りだな。奴隷の首輪と同じ効力があるのはすごいけど、解呪魔法だけなら知れず、物理攻撃で壊れてしまう魔道具なんて3流もいいとこだ」

「ボ、ボルデラ様が造った魔道具が3流だと言うのですか!」


 俺が黒い腕輪をバカにしたことによってエリザベートがワナワナと震える。


「こ、殺してやる! あなたを消し炭にして、この世には細胞の1つも残しておきません」


「こっちだってリアナを殺そうとしたことを後悔させてやるよ!」


 俺とリアナは剣を取り、怒り心頭のエリザベートと対峙した。

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