卒業写真

弱腰ペンギン

卒業写真

 中学校の卒業文集に、僕は写っていない。

 理由は転校したからだ。

 前の学校では全体写真や個人写真を撮影するのが卒業間際の1月ごろ。

 今の学校では4月ごろ。中学三年に上がった直後。

 したがって、冬休みに転向した僕には。

【卒業写真に写ってない!】

 という事態が引き起こされる。

 前の学校は完成時期が遅く、今くらいに仕上がる。

 新しい学校は冬休み前くらいに原稿が出来上がっている。したがって冬休み明けに転向した場合、なんと全体写真にすら写らない、ということになってしまった。

 そして卒業間近になった今、校長室に呼び出される事態となった。

「大変なことが、起きているんだよ」

「はぁ……」

「君だけ、どこの写真にも写っていないんだよ!」

 別に写真は好きじゃないから写ってなくてもいいんだけど……。

「中学の、思い出が一つもないってことになるんだよ!」

 いや、この中学には思い出がほとんどないですし。向こうの中学でも別に形に残しておきたい思いではないし。

 そしてそいういう思い出はもう形にして持ってるし。修学旅行の写真とか。

「それでいいのかい!?」

「良いです」

 完!


「って良くないだろう!」

 えぇー。もういいでしょ。

「僕がいいって言ってるので、それでOKになりませんかね?」

 別に卒業文集に乗ってないからといって僕がどうにかなるわけではないし。ぶっちゃけこの中学もそれほど思い出は無いし。

「いいや、よくない!」

 校長先生が机を叩いて立ち上がった。

「これから思い出を作るのだ!」

「いえ結構です」

 荷物をまとめてさっさと校長室から出ていくことにした。巻き込まれたくない。

 しかし校長につかまった。

 親指を立て、いい笑顔で。

「これから、海水浴しにいこうか!」

 などという。

 いや3月。寒い。

「結構です」

「じゃあキャンプファイヤーとか!」

 だから3月。時期すぎてる。

「いりません」

「じゃあスカイダイビングとか!」

 いや中学生活どこ行った。

「お断りします」

「じゃあ、どこならいいんだ!」

 校長が身を乗り出して言う。

 そこまで生徒ことを考えてくれるのは、良い校長だからなんだろう。

 学級崩壊した挙句先生同士で殴りあったり、生徒たちと刃傷沙汰を起こしたような前の学校とは雲泥の差なんだろう。

 記者会見で「私は知りませんでした」とか言わない校長なんだろう。でも。

「帰って家でダラダラしてたいです」

 もう心の底から。

「そ、そうか」

 うなだれてしまった校長を見て、少し悪かったなとは思う。けど、もう受験も終わってるので正直高校のことを考えておく方が重要なので。

 少しでも自由を満喫したいので。

 高校デビューに備えて買ったヘアカラーも試したいので。

「じゃ、帰ります」

 足早に校長室を後にした。

 後日、集合写真の小さなスキマに、校長と無理やり取ったツーショットが張り付けられた卒業文集が送られてきた。

 校長が手作業で文集全部につけたらしい。

 少しだけうれしくて、だいぶ恥ずかしかった。

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卒業写真 弱腰ペンギン @kuwentorow

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