第45話 青空の曇りある眼

 ホームルームが終わってすぐ、俺は青空に声をかけた。


「青空、ちょっといいか」


「はい。一緒に帰りましょ? 華美さん」


 抽冬が教室から出ていくのを横目で確認し、俺は青空に視線を戻す。


「いや、帰る前に寄りたい場所があるんだ……と言っても校内なんだが」


「…………」


 青空からの試すような視線を一身に受ける。


 なにもかも見透かされてるような気がしてならない。けれど俺は心を強く保ち、平静を装い続けた。


「……わかりました。場所はどこです?」


「特別教室棟にある空き教室だ」


「ふふっ。ここ最近、なにかとあそこに集まりますね。わかりました……行きましょ」


 そう言って彼女は立ち上がり、腕を絡めてきた。


「ちょ、やめろって」


「華美さんこそ勘違いするのやめてくださいね?

私達は彼氏彼女の関係なんですよ? どうも華美さんはそのことをよくお忘れになるようですので。あまり、私を悲しませないでくださいね? お願いしますよ?」


 青空はつま先立ちして俺の耳元に顔を近づけ、そして発した。


 明るい、けれども心のこもってない矛盾を孕んだその声音。


 これから俺がすることに気づいてるはずなのに、考えを曲げる気がさらさらないという意思表示。


 青空の執念深さを間近で感じつつ、俺にできたことといえば唾液を飲み込む音を最小限に抑えることだけだった。

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