第42話 雨降る日にはカフェでホットを2

「…………」



 青空への想いを打ち明けた抽冬に、俺は返す言葉が見つからなかった。



「だから華美には、雨音と別れてほしい」



 抽冬にとって切実な願いなのだろう、彼の表情がそう物語っている。


 それはそうだろう、個人の都合がたまたま上手いように合致したこの偽りの関係は、抽冬にとってなんの面白味もない。



「……って、雨音に協力しておいてなにを勝手なと思っちゃうよね。けど言い訳させてほしい」



 俺が言葉を探していると、抽冬は自虐的な笑みを浮かべてそう口にした。



「言い訳?」

「うん……言い訳」



 そう零した抽冬は間を置くようにコーヒーをすすり、それから話しだした。



「雨音の、というより恨みを源にした人の行動力には驚くべきものがあるよね。「私、華美と付き合うことになったから」って雨音に直接言われた時はどうして? よりもそこまでして? が先だったよ」

「事後報告だったのか?」

「そうだよ。事前に説明されてたら僕は止めてた」

「……だよな」

「うん。でも一応やめるようには言ったんだよ? 聞く耳持たれなかったけど」



 ま、いつものことだけどねと抽冬は付け足した。



「だから雨音が目的を果たせれば……その、言い方悪くなっちゃうけど華美は用済みなってそのまま別れると僕は思ったんだ。それで協力したんだけど……結果は」

「悪かった」

「ううん! 華美が謝ることないって! あんな条件だされたら無理ないよ」



 抽冬はゆっくりと顔を横に向け窓越しに雨降る景色を見つめる。



「雨音はきっとわからないんだと思う。終わりを決めずに感情の赴くままに行動しちゃったから……だから尚も関係は続いてる。僕に彼女を振り向かせられるほどの魅力があればいんだけどね」

「復讐にとらわれた人間の視野は極端に狭い、そういうものだ」

「言い切ったね。それはカッコつけ? もしくは経験談かな?」



 抽冬からの試すような視線を受け俺は鼻を鳴らす。



「どっちとも違うな。自分に自信があるから言い切っただけだ」

「……さすがだね」

「ああ……だからもう迷わない。俺は誰でもないお前の為に、青空と別れるよ」

「ありがとう、華美」



 今回の一件で一番苦しい思いをしたのは、抽冬なのかもしれない。


 ならば俺には、その責任をとる義務がある。



「ところでなんだけど、華美はなんの疑問も覚えなかったの?」

「疑問?」



 突然、意味ありげな発言をしてきた抽冬に俺が聞き返すと、彼は僅かな間をおいてから口を開いた。



「雨音が君と付き合うことで、どうして夕凪さんの復讐に繋がるのか、だよ」

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