第36話 晴れのち1
青空雨音
月曜の朝、快晴の空の下、先週と同じく私は華美を迎えに彼の家へと向かっていた。
……梅雨入り発表の翌日に晴れって、皮肉めいてるわね。
気象庁は昨日、関東甲信地方で梅雨入りしたとみられると発表した。平年よりも少し早いらしく、そして梅雨明けも平年より早くなる見込みらしい。もっと長く続けばいいのに。
私はその場で立ち止まり、空を睨む。
梅雨は好き……雨の日が多いから。
雨は好き……心が落ち着くから。
だから私は、晴れが嫌い。雲一つない澄みきった青空が――大嫌い。
***
今日一日、華美の傍にいつつ夕凪の様子をうかがっていたが、普段と変わらず、いや、いつもよりややテンションが高いように映った。
一方、華美はといえば、こっちもこっちで平常運転、相も変わらず馬鹿な日常をすごしていた。
ちなみに、夕凪がチラチラと華美を盗み見る場面は一度も確認できなかった。面白いくらいピタリとやんだのだ。
華美を意識しないようにと意識しすぎている。そして周りに悟られないよう必要以上に明るく振る舞っている……滑稽ね。もう少し泳がせてみるのも悪くない。
私は友人らと談笑している夕凪から視線を外して、隣にいる華美に声をかける。
「帰りましょ? 華美さん」
「ああ。そうだな」
そう短く返し、教室を出ていく華美に私も続いた……が、
「あの、華美さん?」
彼は昇降口がある方ではなく、反対の道へと歩みを進めた。
「……青空、大事な話がある」
振り返ってそう口にした華美は、いつかの牛丼屋で見せた表情をしていた。
……………………。
「――あ、ごめんなさい華美さん! 実はこの後予定が入ってたの今思い出しました! ですのでその、声をかけておいて何ですが、私はこれで!」
「なら明日は?」
「あ、明日も予定が入ってまして」
「明後日」
「明後日も、その、予定が……」
「明々後日」
「…………」
言ってて苦しい。嘘が通りやすい相手とはいえ無理がある。というかすべてを信じられてしまう方が辛いかもしれない……この問答が半永久的に続きそうだから。
十中八九別れ話だろうけど、脅すにしたってここじゃ人の目があるし……仕方ない。
「……わかりました。さっきのは全部嘘なので、今日でいいですよ」
「……ありがとう。ここじゃ騒がしいから――ついてきてくれ」
「はい」
今は素直に従っておこう。そしていざ、華美が別れ話を切りだしてきたらその時に……脅せばいい。
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