第19話 私の兄がこんなにもおかしい
華美桜
…………あ。
あと角を一つ曲がれば家、というところで、朝、お兄ちゃんを待ってた人とすれ違う。
…………やけに慌ててたなぁ。
無視するのもどうかと私は軽く頭を下げたが、向こうは気付いた様子もなく、そのまま駆けていった。
…………家の方からきてたし、お兄ちゃんと何かあったのかなぁ? …………振られたとか? にしてはどこか嬉々としてたような……。
振り返って女性の後姿を見つめる。
…………でも、何だかんだ言ってもお兄ちゃん、夕奈ちゃん一筋だし、あの人と付き合ってる、なんてない、かぁ。
そう結論づけた私は視線を前に戻した。
――ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!
一定の間隔で響く打音。それは家に近づくにつれて大きくなっていく。
…………お兄ちゃん。
音の発生源は血の繋がっている兄だった。何度も何度も額を玄関に打ちつけている。さすがに身内でも擁護しきれない奇行。
「斬新な在宅確認してるところ申し訳ないんだけど、近所迷惑だからやめてね? お兄ちゃん」
「……その声は桜か?」
「そうだよ、この家の住人だよ。だから今すぐ止めてね? じゃないと恥ずかしくて外、出歩けなくなっちゃう」
「桜よ、恥ずかしがることはない。堂々と生きろ、自分に自信を持て」
「もう遅いよお兄ちゃん。さっきの発言をわかってくれない時点で私、今ものすごく恥ずかしい」
面白おかしく言ったつもりはないのに、お兄ちゃんは「ハハハッ」と笑い、尚もノックし続ける。より救えない状況になってしまった。
「桜よ、今のお兄ちゃん、どう見える?」
「自暴自棄」
「残念、ハズレだ。正解はキツツキ。そう、お兄ちゃんは今、キツツキの気持ちを理解しようと必死こいてるのだ!」
…………日本語を流暢に喋ってるところからして、理解しようとする気がさらさらないと思うんだけど。
「そっか、そうだったんだね。つまり餌が欲しいんだね? ならそんなことしなくても、家にあがれば手に入るよ」
お兄ちゃんの動きがピタッと止まる。
「そうか……そうだったな……」とお兄ちゃんはブツブツ呟きながら、おぼつかない手で鍵を取り出し玄関を開け、よろめきながら家の中へ。
そんな情けない姿を見て私は思った。お兄ちゃんは夕奈ちゃん一筋ではなくなったんじゃないか、と。
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