第15話 青空の本気1

華美真琴


 隣を歩く青空を横目に、俺は振り返る。


『あなたに抱く私の想いを、です』


 青空は明言こそしなかったが、多分、恐らく、俺の感覚的には好意からくる発言のように聞こえた。


 けれど口では何とでも言える。疑いが完全に消えてない以上、用心するに越したことはない。


 …………それにしても。



「華美さんの好きな食べ物って何ですか?」

「か、海鮮系だな」

「海鮮系ですか! じゃぁお寿司のネタで一番好きなのは?」

「サーモンピン――じゃなくてサーモンだ!」

「私もサーモン好きなんです! 回転寿司だと初めと締めは必ずサーモン頼んじゃうくらい好きです!」

「き、奇遇だな。俺も同じルーチンワークを持っている」

「ふふふ。華美さん、仕事の話じゃないんですからね?」



 ちょっと青空さん? いつにも増して距離近くない? 先週までは人一人分のスペース空いてたよね?


 わざととかじゃなく、ただ歩いているだけで腕と腕が触れてしまう。その度に俺から余裕が失われていく。


 いかんいかん、これはいかん。今すぐ適正な距離を取らなければ。


 いても立ってもいられず俺は横にずれるが、



「……………………」



 青空は黙ったまま距離を埋めて寄り添ってくる。不満げな表情をしているが、ほんのり頬を赤らめている。


 やめてくれえええええッ! そのちょっと怒ってるけど実は私も恥ずかしんだからね? みたいな空気やめてくれええええええッ!


 心の中で叫び、けれど表面上では冷静を装う。



「ふぅ。今日は蒸し暑いな。青空は平気か?」

「平気ですよ。丁度いいですね」

「そ、そうか。でも、やっぱちょっと暑いんだよなぁ……あ、そうか! 青空がもうちょい離れてくれれば涼しく――」

「――華美さん!」



 行く手を阻むようにして俺の前に立った青空は、自分の額に手を当てそして、



「熱は、なさそうですね」



 もう一方の手を俺の額に押し当てた。



「…………あッ! ご、ごめんなさい急に、私ったら」

「あ、いや、その……気にせんといて。ほ、ほな行こうか?」

「は、はい」



 このイベントのおかげで見事、俺と青空の間に一人分のスペースが確保できた。


 良かった良かった――じゃねえよッ! これ、ちょ、試合に勝って勝負に負けたみたいになってんじゃねえかッ! なんなのよあれ! 不意打ちすぎて呼吸するの忘れてたし、エセ関西弁使っちゃったよ恥ずかし!


 一体何考えてるのよと青空を見やれば、俺と同じ心境なのだろう俯いてしまっている。髪に隠れて表情はわからないが、赤くなっている耳が恥ずかしいと語っていた。


 うぅ、気まずい、気まずすぎる…………でも、もうちょいで学校だ。耐えろ、耐えるんだ俺!



「華美さん。やっぱり今日は暑いですね」



 と、青空が。



「え? あぁ、そうだろ?」

「はい。でも――」



 彼女は躊躇いがちに俺の服の袖をつまみ、潤みを帯びた目で見つめてくる。



「嫌いじゃ、ないです。この熱さ」



 はああああああああああああああああああああああんッ⁉

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