第14話 自信と不信

 残りのトーストを口に入れ、コーヒーで無理矢理流し込み、パパっと皿を洗って俺は家を飛び出た。



「おはようございます。華美さん」

「お、おう」



 やはりと言うべきか、外で待っていたのは青空だった。


 俺は家の鍵を閉め、さも当然のようにいる青空に訊ねる。



「……なんで俺ん家知ってんの?」

「夕凪さんに住所を教えてもらいました」

「あ、あぁなるほど……夕奈にね」

「はい」



 何故わざわざ夕奈に? んな遠回しなことしなくても直接俺に聞けばよくない? その方が事前に来ることを把握できてたわけだし。あれか? サプライズ的な何かか?


 青空の非合理的な行動に俺が頭を悩ませていると、彼女から心配する声が。



「あの、華美さん? そう何度も施錠確認しなくても」

「え? あぁ、そうだな」



 言われて俺はノブから手を離す。



「……難しそうな表情していますけど、大丈夫ですか?」

「安心しろ、大丈夫だ」

「……それならいいんですが。あ、そう言えば、さっき出ていった女の子は華美さんの妹さんですよね?」

「なッ⁉ どうして妹だとわかった?」



 俺は咄嗟に身を引き、玄関に背を預けた状態で青空に問いかけた。



「どうしてって、「お兄ちゃん待ちですか?」と声をかけてくれたので、それで……」

「なるほど……お兄ちゃんで、ね」



 経緯を知って安堵する自分がいる。思った以上に朝陽が提示した別の可能性を意識してしまっている証拠だ。



「……あの、もしかしなくても、私が勝手に来たことに怒ってますか?」



 青空は俯き加減の姿勢で遠慮がちに確認してきた。


 朝陽の可能性を聞きさえしなければ、脅しも今この瞬間も好きすぎるが故の言動とあっさり流してたが……わからない。青空が何を考えてるかがわからない。


 さっきだって俺ん家や家族構成を事前に調べていたんじゃないかって、財産目当てなんじゃないかって思い込んじまったし。まぁ邪推だったけども、というか一人の女子高校生が考えることじゃとはわかっていたけども。


 仮に青空が打算的に俺と付き合ったとして、朝陽はどうやって突き止めるというのだろうか。



「……やっぱり、怒ってますよね、迷惑でしたよね。すみません」

「いや、怒ってもないし迷惑でもないんだが………青空、一つ聞いていいか?」

「なんでしょう?」



 朝陽はどうするか、じゃないか。俺がやらなくちゃ、だろ。



「俺のことが好きで告白してきたのか? それとも別の狙いがあって俺を利用する形で告白してきたのか?」



青空雨音


 真っ先に頭をよぎったのは第三者からの入れ知恵だ。でなきゃ自信過剰な華美が女子からの直接的な好意に疑念を持ったりしない。そう考えれば私がやけに警戒されているのにも説明がつく。


 ならどうするべきか…………迷うまでもない。



「華美さんは、私に不信感を抱いているんですね」

「別に、まったく信用してないってわけじゃ、ないが……」



 歯切れが悪い上に目を泳がせている華美。明らかに動揺している彼に、私は微笑む。



「なら、全力で伝えますよ」

「つ、伝えるって?」

「それは…………あなたに抱く私の想いを、です」




 わからせてあげる。私の――〝本気〟を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る