第12話 お日さまとデート3
「青空さんについてなんだけど、ウチの中で一つの疑惑が浮上したんだよね」
「…………聞かせてもらおうか」
たじたじだった華美君は一変、腕を組んでシビアな顔つきに。
「あの日、泣いて出ていっちゃった青空さんを華美君、追いかけたじゃない? あの後すぐにウチも追いかけたんだよ」
「なるほどな。それで夕奈が会計を…………ちょっと待て、まさか」
遅れて気付いたのか華美君の顔に焦りの色が。
「み、見てたのか? 俺と青空の、その、〝アレ〟を」
「見てたよ~。好きじゃないとか言っておいて、あつ~く抱き合ってたよね~」
ウチがからかうように言うと、華美君はブンブンと首を横に振り否定を口にする。
「違う違う誤解だ! アレには理由があってだな!」
「どんな理由?」
「青空のヤツが何の脈絡もなく急に抱きしめてと要求してきたんだ。もちろん俺は断ったが、またしても脅されてしまって、それで……仕方なく……」
言葉の勢いが徐々に尻すぼんでいった華美君。これ以上イジるのは、ちょっと可哀想かも。
「安心して華美君。どうせそんなことだろうな~って思ってたから」
「し、信じてくれるのか?」
「信じるよ! てか明らかにウチに見せつける為だったもん。タイミングが良すぎな場合って大概は誰かが意図的に演出してるもんなんだよ」
多分、青空さんは牛丼屋でも意図的に演出した。結果、月見山は真に受けてしまった。
けど甘かったわね青空さん。ウチはそう簡単にはいかないから。
「朝陽に見せつける為だったとは……思いもしなかったな」
「無理もないよ。あの時、華美君はウチがいるって知らなかったんだから」
華美君をフォローし、ウチは人差し指をピンと立てる。
「じゃあなんでわざわざウチに見せつけるような真似をしたか、考えられる可能性としては華美君のことが好きすぎて手放したくないから。前に言ったメンヘラ気質ってヤツね、束縛してたいほど愛が強く、脅威になりそうな邪魔者は徹底的に排除する。どんな手を使っても」
「まぁ、それしかないだろうな」
「ううん、決めつけは厳禁だよ華美君。ここからが本題」
訝しげな視線を送ってくる華美君に、ウチは人差し指に続き中指を立てピースサインを作り切り出す。
「実は青空さんも華美君と同じで好きじゃないのに付き合っている、私的な理由があって手放したくない可能性」
「…………根拠は?」
「根拠と呼べるものはないけど、強いて言えば女の勘かな」
そう、確証はない。確証はないけど、ウチはそうだと勝手に判断をくだす。
華美君の腕に包まれている時にみせた青空さんのあの表情。好きな人に抱かれてるにしては余裕がありすぎた。
たったそれだけで決めてかかるのは、あまりにも感情的。でも、ウチは考えを曲げるつもりはない。
「勘、というわりには妙に自信あり気だな」
「まあね。断定はできないけど、ウチはその可能性に絞って進めてくよ。早速明日からね……でも」
そこでウチは言葉を区切り、華美君の瞳を見据える。
「どうであろうと、最終的には華美君が青空さんに別れを告げなきゃいけない。例え脅されたとしても」
「……………………」
黙ってしまった華美君は不意に〝ある物〟を取り出した。
「…………よし」
それは手鏡だった。彼は鏡に向かって小さな声で呟くと、ウチに顔を戻した。
「任せておけ」
「……う、うん。てか、何で鏡?」
「ん? あぁ、これは昔からの癖でな、ついやっちゃうんだよ」
「ふ~ん。昔から自分のこと好きだったんだね」
明るくふざけて言ったつもりだった。けれど華美君からの返事はなく、かわりと言わんばかりに彼は乾いた笑い声を控えめに上げた。
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