異世界と現実世界のクロスソウル

\(^o^)/太

1章

第1話

 ふっと意識が徐々に覚醒し出した。

 まず見えたのは自分の右腕、手のひらを淡く輝いている石板のようなものに重ねている。

 次の瞬間にはその石版はボロボロと崩れ落ちていった。

 何か文字が書かれていたようにも見えたが今となってはもう知る術はない。

 そして腕には漫画やアニメに出てくるような、中世の騎士を思わせる手甲と腕当が付けられていた。

 辺りを見渡してみると、どうやら石壁に囲まれている部屋にいるようで、まるで遺跡の一室を思わせた。


 ここがどこかはわからないが、自分のことは覚えている。

 名前は荻沢龍明オギザワタツアキ。至って普通の高校生だ。

 昨晩自室のベットで寝て、それから目覚めたと思ったらこの状況だ。

 夢だと考えるのが普通だと思うのだが……。


 右手の開閉を繰り返し自分の体であることを確認する。

 体にかかる鎧の負荷や石壁の再現度が夢にしては妙にリアルだ。


 「あの、大丈夫ですか?」


 そんなことを考えていると、後ろから声を掛けられたことに驚き振り返る。

 自分以外にも人はいたようだ。


 前々から後ろに控えていたようで、男1女2の3人組の男女がこちらの様子を伺っている。

 当然だが身に覚えのない人達だ。

 今の自分と同じような鎧を装備している。


 男性は後ろにかきあげた髪型で、肩に槍を背負った状態で仁王立ちしている。

 女性の1人は栗色の髪に丸眼鏡をかけており、背も低いところがとても愛くるしい。


 そして……、


 「……」


 突然のことで何を言えばよいのかわからず無言となってしまう。

 そんな僕の様子に疑問符を浮かべた3人組は互いの顔を見合うと、内の1人の女性が近づいてきた。

 凛とした顔立ちに長いブロンドの髪を後ろで結んでおり、装備している剣や佇まいから西洋の女騎士を連想させられる。


 「本当に大丈夫ですか?」


 そんな彼女が心配そうに顔を覗き込こんできた。

 こちらを見る瞳は水晶のように蒼く、見る者全てが魅了してしまうのではないかと思えるほど美しいものだった。

 僕は恥ずかしさのあまり直視することができず、つい視線を外してしまう。


 「……すみません。大丈夫とは言えないかも……です。ここはどこで、あなたたちは誰でしょうか?」


 いろいろわからないことだらけだが、まずは今の自分の状況を把握することからだと思う。

 幸いにも傍にいた人達は悪い人ではなさそうだし。


 「えっと……兄さん、悪い冗談はやめてください」


 「ニーサン?」


 ニーサンって『兄さん』だよね?

 名前や愛称ニックネームではないよね。

 僕に妹はいないのだけれど。

 

 薄明りの中、足元近くにあった水たまりに自分の顔が映し出される。

 そこには日本人特有の相貌ではなく金髪蒼瞳の相貌がそこにはいた。

 

 え?これ僕?


 慌てて顔を触ってみたが、水面に写る人物も同じ行動を取っているためこれが自分なのだということがわかる。

 目の前の女性は、僕の返答や行動にショックを受けたのか、眉根を寄せ困った顔を作る。


 「あの兄さん・・・・がこんなふざけたことをするとは思えませんし……、ココはどう思う?」


 「そうですね。まだ確証はないですが、その人・・・が言ってることは本当だと思うわけです」


 妹さん(名称仮)に栗色の子(名称仮)が返答すると、妹さんはまだ納得いってないようだが説明を始めてくれた。


 「どこから話せばよいでしょうか……。遺跡の探索中に偶然この部屋を見つけて、兄さんが石板に触れたら突然光出して……、兄さんが光に包まれたと思ったら様子が少しおかしくて……」


 なるほど……。

 ここが遺跡だということと、やはり目の前の美少女は僕の妹らしい。

 っということはわかった。


 後は……


 「念のため聞いてみるけれど、ここって日本のどこかな?」


 「ニホン?ニホンってなんですか?」


 やはり日本ではないか。それどころか日本を知らないようだ。

 全ての外人が日本を知っているわけではないだろうが言葉は通じている。

 なにより、今の僕の姿は僕のものではない。

 そもそも鎧を着て遺跡に入るような文化を持つ国が果たして存在するのだろうか?


 そんな思案をしていると、部屋の入口と思われる扉がドンドンと鳴り出した。


 「やはり、先ほどので気づかれたようです。来ます!」


 妹さんが叫んだ次の瞬間には扉が破壊され土埃が舞うと、そこから赤黒い光体がいくつも浮かび上がっているのが見えた。

 いや、光体などではない。鈍器が擦れるような足音と共に現れたそれらは骸骨達の赤眼光だ。

 右手にサーベル。左手にバックラーと呼ばれる小さい木盾を装備している。


骸骨戦士スケルトン・ソルジャーです。数は4。先ほどと同じように一撃を与えた後、離脱します」


 妹さん達3人は、各々が骸骨戦士に突進、相手の大振りをかわし背後に周るとそのむき出しの背骨に一撃を加えた。

 骸骨戦士の背中がくの字に折れ、体が崩れて落ちていく。


 まるでアニメの戦闘シーンを見ているようだ。

 そんな非現実的なシーンに見惚れていたためか、気づくと妹さん達はそのまま扉を出て通路の奥へと走り出してしまっていた。


 マジかよ。置いてかれた。


 そんな僕に1体の骸骨戦士が歩み寄ってくる。


 ……やるしかない。


 ふぅっと一呼吸入れると、背負っていた両手剣を構える。


 これまでの人生を振り返っても戦闘なんて到底できっこないのだが、不思議と恐怖や焦りは感じられない。

 骸骨戦士スケルトン・ソルジャー程度ならどうにでもなる。


 構えも様になっている……気がする。


 例え、記憶がなくても…頭で考えなくても…腕や足が…この体がそれを覚えているかのよう!


 こちらに向かって来た骸骨戦士スケルトン・ソルジャーの振り下ろしよりも早く、渾身の横なぎを叩き込む。

 一刀両断された骸骨戦士スケルトン・ソルジャーの胴体は、その場に崩れ落ちていった。


 おお。僕、実は凄い?


 初戦闘でなんなく動けたことと、余裕の勝利につい興奮する。

 正直、自身が強いのか、相手が弱いのかはわからないが、勝てない相手でははい。

 それなのになぜ妹さん達は逃げたのだろうか?


 そんなことを考えていると、1人戻って来た者がいた。妹さんだ。


 「何やってるんですか?早く逃げますよ」


 「別に逃げる必要はないんじゃないかな?もう倒したんだし」


 「……足元と周りをよく見てください」


 そう言われ足元を確認すると、先ほど倒した骸骨戦士スケルトン・ソルジャーの残骨がカタカタと揺れていた。

 やがて動き出したそれは1箇所に集まりだし、元の形に再構成を始めていく。

 周りを確認すると、妹さん達が先に倒した骸骨戦士スケルトン・ソルジャーはすでに形が整っており、今にも再び動き出そうとしていた。


 再生するのね。こいつら。

 ……よし、逃げよう!


 結局、妹さんについていく形で逃げ出すことにした。


 「逃げるのはいいけれど、出口はどこかわかるの?」


 「来る道中に目印を付けたので、それを逆に辿るだけです」


 なるほど。賢い。

 これがゲームの世界だったらマップ画面を開くところなのだが、もちろんそのようなシステムは存在しない。


 しばらくすると、遺跡の外に出ることができた。


 目の前に広がる一面の木々や山々。

 どこか田舎を連想させられる。

 どうやら陽が昇り始めた頃のようで、遠くの夜空が徐々に明るくなっていく。


 「おお」


 何度目の興奮だろうか、つい驚きの声が出てしまった。

 なにせ、都会の風景で生まれ育った僕にとって、これだけでもとても言葉では言い表せられないほど新鮮な体験だったからだ。


 振り返ると、入口寸前まで骸骨戦士スケルトン・ソルジャーが追ってきていたが、遺跡からは出て来れないようだ。

 怨めしくこちらを睨んでいるように見える。


 「陽がある間は外に出て来ないので、もう大丈夫なわけよ」






 その後は、近くの木に紐づかれていた馬に乗り移動を開始した。

 乗馬の経験もなかったが、何事もなく乗りこなすことができた。

 どうやら、記憶がなくてもこの体が経験してきたことはある程度こなるようである。


 馬を使っての進行と休憩を何度か繰り返した後、僕の様子が心配だということで近くの村に寄ることになった。

 村に到着後、すぐ診療所で診てもらったが特に異常は見られないと言われた。


 それから、村の宿屋1階での夕食中のこと。


 「コホン。改めて正直何もわからないので、いろいろと教えてもらえると嬉しいです」


 遺跡では骸骨戦士スケルトン・ソルジャーの乱入があったことで、聞きそびれてしまったことを再度訪ねることにした。


 「はぁ。本当に忘れてしまっているようですね。先ほどの戦闘での様子を見るに冗談でもなさそうですし……」


 溜息交じりに妹さんが説明を始めてくれる。


 「まず、あなたの名前はジノ・シューヴァル。私はレーナです。察しているとは思いますが私達は兄妹になります。……兄に自己紹介するって何か不思議ですね。それでこちらの2人が……」


 妹さん改めレーナが2人に目配せすると、2人も自己紹介をしてくれた。


 「俺はブライアン・アイバーソン」


 「私の名前はココ・キャトレットなわけです」


 「改めてっていうのもなんだけど、よろしく」


 そういって手を差し出し、それぞれと握手を交わす。


 「ちなみに僕たちってどういう関係なの?」


 「騎士学校でのパーティメンバーになります」


 どうやら僕たちは正規の騎士ではなく、まだ学生のようだ。


 「あの遺跡は依頼達成の帰りに見かけて。ジノさんとブライアンさんが腕試しだって言うので入ったら、たまたま見つけた隠し通路の先にあの部屋があったわけなのです」


 「その後はご察しってことだな。いきなり人が変わったような態度になるから驚いているんだぜ」


 「いいえ。『変わったような』ではなく、実際に変わったのだと思うわけです」


 ココが丸眼鏡をくいっっと持ち上げながら説明を続ける。


 「ジノさんは重魂リンクしたのだと思うわけです」?」


 「重魂リンクって、あの重魂リンクか」


 「重魂リンクって何?」


 ブライアンが驚いている中、はいはいと手を上げてココ先生に質問する。

 ココは、知っていることは少ないですがと前置き後、


 「重魂リンクとは、この世界の人に異世界の人の魂を重ねることです。重魂リンクに成功した者を重魂者リンカーと呼び、魔法や魔剣などを扱うことができるようになるわけです。そのため重魂者リンカーには名立たる人達が多いわけです。魔法が使えるってだけで常人より圧倒的に強いわけですからね。また、重魂者リンカーの方には異世界の人格があるそうなのですが、あなた・・・がそうなわけでは?」


 「……うん、そういうことだと思う。異世界での名前は荻沢龍明オギザワタツアキといいます」


 薄々思ってはいたのだが、どうやら漫画やアニメでいう異世界転生をしてしまったのかもしれない。

 僕が異世界の人格かどうかを正直に答えるかは少し悩んだが、僕以外にもいるようだし、異世界の存在が周知されているのなら素直に答えても良いと思った。


 それに、魔法が使えそうなのは素直に嬉しいぞ。


 「ってことは魔法は使えるのか?見せてくれ」


 「私も是非みたいわけです」


 ブライアンとココが目を輝かせて聞いてくる。


 「僕もそれを考えていたのだけれど、魔法ってどうやって使うの?」


 「そんなの俺らは魔法を使えないんだから、知らねえよ」


 その理屈なら、使ったことのない僕も知らないんだよね。

 試しに僕は掌を翳すとそこから炎が出てくるイメージをしてみる。


 しかし……、


 「何も起きねぇな」


 やはりそう簡単にはいかないようだ。

 詠唱が必要だったりするのだろうか?


 「魔法の使い方はわかるわけありませんが、騎士学校に魔剣があると聞いたことはあります。正確には『魔剣と思われる物』になるわけですが、戻ったら試してみましょう」


 「そりゃ、楽しみだな。もしそれが本当に魔剣だったら俺と勝負しようぜ。魔剣より俺の槍術の方が優れていることを証明してみせるぜ」


 「ねぇ。兄さんは?」


 先ほどから黙っていたレーナが怒気を含んだ声で聞いてきた。

 その声に場が静まり返る。


 「僕がその兄さんでしょ?」


 「あなたではなく、ジノ・シューヴァルのことです」


 それは、重魂リンクする以前のジノ・シューヴァルとしての人格のことだろう。

 兄妹と聞かされた時点で覚悟はしていたが……なかなかに辛いな。


 「……。わからない」


 そう正直に言った瞬間、頬に衝撃が入った。

 

 一瞬何が起きたのかわからなかったが、どうやらレーナに平手打ちされたらしい。

 そのレーナの瞳からは涙が溢れていて……


 「この偽物。兄さんを返してよ」


 レーナはそう叫ぶと2階へと階段を駆け昇っていった。

 不思議と頬に痛みはない。

 しかし、そんなレーナの顔を見て心がズキンと痛んだのは感じた。

 この気持ちは罪悪感なのだろうか。







 それから夕食はお開きにし、各々部屋に入っていった。

 ベットの上で仰向けとなり、先ほどのことを思い返す。


 偽物、か。


 突然転生した身としては、そんなこと知るかと叫びたい。

 しかも、いきなり戦闘させられたんだぞ。

 

 今回はうまく立ち回れたからいいものの、下手したら転生開始5分で死んでいたかもしれないのだ。


 それに、漫画やアニメなどで転生する物語は元の世界で亡くなったことがきっかけで発動するパターンが多い。

 つまり、それは僕も同様で……。


 「泣きたいのはこっちだぜ」


 これからのことを思うと不安で押しつぶされそうになるが、幸いにも初めてのことだらけで疲労していたのか、すんなりと寝入ることができた。






 『お兄ちゃん朝だよ、起きて。お兄ちゃん朝だよ、起きて』


 聞きなれたスマホの目覚ましアプリの音と共に意識が覚醒する。

 半ば寝ぼけた状態で自室を出て、1階の洗面台まで行き顔を洗う。


 「そういえば今日は始業式だっけ?」


 洗った顔をタオルで拭きながら、今日の予定を頭の中で確認する。

 昨日までの春休みが終わり、今日から高校2年生になる。


 拭き終わった顔を鏡で確認すると、日本人特有の相貌……、荻沢龍明オギザワタツアキこと、自分の顔がそこに映し出されていた。


 「ん?戻ってる!?」


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