第59話 連絡
「サチ落ち着いたかな?」
チカはサチの様子を伺う。
「だ、大丈夫です、少し取り乱しました、ユウヤさんごめんなさい。」
サチは胸元を抑えつつ顔を真っ赤にして謝罪してくれた。
「いや、構わないよ。
でも、なんであんなに取り乱してたの?」
「私、松井ユズキ様に憧れているんです!」
「ユズキに憧れている?確かに綺麗な奴ではあるが・・・いてっ!」
俺が褒めた事が気に食わないのかチカが俺の腕をつねる。
「ふん、ゆうちゃんのばかぁ。」
「チカ痛いって、モデルをしているユズキが綺麗な事はチカも認めていたじゃないか。」
「認めるのとゆうちゃんが褒めるのは違うの。」
チカの乙女心は俺を許してくれないのか、俺はつねられたまま話を続ける。
「サチちゃんも綺麗だと思うよね?」
「綺麗な事もそうですがファッションデザイナーとして憧れているんです!
私もあんな風に自由に服をデザインしてみたくて・・・」
「そうなんだ。
ふむ、それなら今度ユズキの職場を覗いて見る?」
「えっ?」
驚きのあまりサチの目が丸くなる。
「確か学校で職場体験があったよね?
その際にユズキの職場に行けるように手配しておくよ。」
「いいんですか!!」
「ちょっと待ってよ・・・」
俺はユズキに電話をかけ直す。
「ユズキ、さっきはすまんな。」
「それは良いんだけど、相変わらず騒がしいね。」
「まあな、それより違う話だがお前の所で中学生の職場体験をやってくれないか?」
「職場体験?」
「そう、チカの友人がお前に憧れているそうなんだがその幻想を打ち砕こうと思ってな。」
「幻想じゃないです、私は人から憧れる存在なんです、ユウヤさんも少しは憧れてくれてもいいんですよ?」
「無いな、鼻水垂らして泣いてたイメージしか残ってない。」
俺の中のユズキは子供の頃、鼻水垂らしながら俺の後ろを走り回っていた時と枕営業を断わり芸能界から干されようとしていた時の大泣きしていたイメージが強い。
憧れてと言われても違和感しか無い。
「ちょ、ユウヤさん!それは忘れてください!」
「忘れられないだろ?」
「もう!私はモデルでファッションリーダーなんですよ、良い所は沢山あるのになんで一番恥ずかしい姿だけ覚えているんです!」
「インパクトあったからな。」
「忘れてください!!」
「善処するか考えとく、それで職場体験は可能か?」
「ええ、良いですよ。ユウヤさんの頼みを断るつもりはありませんし、チカさんの友人ということなら受け入れます。
日時とか詳しく決まったら連絡ください。」
「すまんな。」
「いいんです・・・
あっそうだ、美味しいイタリアン見つけたんです、今度一緒に・・・」
話終わる前にチカが電話を切る。
「おいチカ、ユズキが何か言ってたけど。」
「大丈夫、お話は終わってたから、あとはゆうちゃんが聞く必要の無い話だったよ。」
チカは笑顔なのだが反論を許さない雰囲気があった・・・
「・・・サチちゃん、職場体験には行けるようになったよ。」
俺はチカの圧力に負け、電話の残りは気にしない事にするのだ。
「ありがとうございます!!」
サチは大きく頭を下げる。
「別にこれぐらいいいよ、それよりチカと仲良くしてあげてね。」
「それは勿論、チカとは親友ですし。」
サチはちょっと照れ気味に話す。
「サチ〜」
チカも親友と言われ少し恥ずかしそうだが、それでも嬉しそうにサチを抱きしめるのであった。
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