第49話 お買い物

俺は二人を連れてライブ会場となっている施設に来ていた。

「ここでミウ様のライブが・・・」

アヤメは施設をうっとり眺めている。

「アヤメはライブ初めてか?」

「うん、あんまりお小遣い無いし。」

「まあ、そうだよな、何か欲しい物があれば言えよ、今日ぐらいは兄として買い物に付き合ってやるから。」

「いいの!」

「まあな、マサルさん今大変なんだろ?」

俺はマサルが商売に失敗して、そこそこ大きな借金を背負った事を知っていた。

だが、生活出来ない程では無いし、血の繋がりの無い息子の俺から支援するのもマサルの顔を潰す事になるだろうと思い表立っての支援はしていなかった。


まあ、一応怪しい闇金だったので、借り先を金子組系の金融機関に移し替え、金利も常識より少し低いぐらいで調整はしているのだが。


「うん、お義父さんも頑張って働いているんだけど。」

「まあ、開業した途端に病気が流行ったからな、仕方ない所もあるよな。」


「ねえ、ユウちゃん開場には早いけどこれからどうするの?」

チカの指摘の通り、かなり早めに来ていたのだ。


「せっかく街に来たからね、二人の服でも買ってあげようかな。」

「ありがとう♪ほらアヤメさんもお礼を言って。」

「えっ?でもいいのかな?」

「いいの、ユウちゃんはお金持ちだもんね。」

実は前日チカとは話し合いが出来ている、マサルの商売失敗もあり、アヤメは自身の物をあまり買えていない、先日会った時のカバンを含め、持ち物がだいぶくたびれていたのをチカが気づき、事情を話してそれならということで今日の買い物に繋がるのだった。

「ありがとうございます。」

アヤメは申し訳無さそうに頭を下げる。


「まあ、偶には兄らしい所でも見せるとするかな。」

俺達は町中にある店を回るのだが・・・


「・・・チカ、買うのはいいけど重たい。」

「大丈夫だよ、アヤメさん次行こ♪」

アヤメを着せ替え人形かの如く、チカがはしゃいで次々と買っていく。

まあ、チカのセンスはいいし、たしかに似合っているから問題無いのだが・・・

俺の腕は2本しかついていない、このあとライブもあるのにこんな大荷物を持ってウロウロはしたく無かった。


そして、俺は一つの答えを見つけ出す。

最後に寄った店は俺が資金援助をしてオープンした店だ。

チカが物色しているうちに店長の峰に声をかける。

「よう、峰、久しぶりだな。」

「これはユウヤさん、ご無沙汰しております、今日はデートでしょうか?」

「チカちゃんと妹を連れて買い物だ、それより頼みがある。」

「ユウヤさんの頼みなら何でも聞くつもりですけど、なんでしょう?」

「この荷物と今日店で買う分をこの住所に送ってもらえる?」

「かしこまりました。」

俺はアヤメの住所に荷物を送る事を思いついたのだ、これで手ぶらでライブに向かえる。


「あの、お兄ちゃん。こんなに買ってもらっても・・・」

アヤメは心苦しいようだった。

「兄としてらしい事はしてないからね、せめてこれぐらいはさせてくれよ。

チカちゃんもありがとう。」

「うん♪私もあまり買い物に来たりしないから凄く楽しかったよ。」

チカは上機嫌であった、おやっさんの拘りからチカが着る服の多くは知り合いのデザイナーを呼んで作るオーダーメイドが多い、市販品を見て回る機会なんかあまり無かったのだ。


「チカちゃんもありがとう、こんなに可愛い服、私じゃ選べ無かったよ。」

「任せて!私も会心の出来だと思っているんだ♪」

買い物を経て二人はだいぶ打ち解けていたようだった。

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