第25話 チカの機嫌

今朝はチカの機嫌が朝から悪い。

昨日の夜、ホテルの前でユウヤを連れ込もうとしたところをタクミに見つかり、止められた事に御立腹らしい。

あまりの怒りに空気の読める組員は離れて対応している。

だが、空気の読めない奴も中にはいて・・・

「おじょう、昨晩は危ないところでしたね。」

「タクミくん、何処かに行ってくれるかな?」

「ユウヤの奴、調子にのっておじょうを連れ込もうなんて、ふてぇやろうだ。」

「ねぇ、聞こえなかったかな?何処かに逝ってくれるかな?」

「おじょう?」

チカはついにタクミを無視した。

「チ~カ~」

俺はチカのホッペタを両側に引っ張る。

「ゆうちゃん、なにするの!」

「ほら、ふてくされない、可愛い顔が台無しだよ。」

「だって・・・」

「ほら、今日もお出掛けに付き合うから、機嫌なおして。みんな、怖くて隠れてるよ。」

「むー、パフェが食べたいです。」

「わかったよ、食べに行こうか。」

「おじょう、俺もお供します。」

タクミがついて来ようとするが・・・

「タクミでしゃばるな。お前じゃチカちゃんの機嫌はとれないから留守番でもしてろ。」

「ユウヤ、なんの権利があってそんな事を!」

「あー命令にしようか?会話で止めてるうちに止めとけよ。」

「くっ!」

「みんなもチカちゃんの機嫌とってくるから、その間、留守番頼んだよ。」

「へい、遅いお帰りを御待ちしております。」

「てめぇら!」

「バカちがうって!」

組員がボソボソ話し合い。

「「明日の朝帰りを御待ちしておりやす。」」

「お前らはバカか!ちゃんと帰ってくるからな!」

「子連れでですか?」

「いきなり出来るか!もう出掛けるからバカな頭を少しは良くしとけよ!」

俺はチカを伴って、カフェLABIに行く。


別室に入ると、

「マル、今日はチカちゃんの機嫌をなおしにきてる、くれぐれも丁寧な対応を頼むぞ。」

「ユウヤさんがキスしてあげれば1発では?」

「お前も組員のバカな頭が移ったか?」

「いえ、客観的な事実かと。」

「うるさい、うちの姫様はパフェを所望だ、ツベコベ言わず旨いの作ってこい!」

「へーい。」


「ゆうちゃんどうしたの?」

「いや、マルの奴がからかってきてね。」

「なんてからかわれたの?」

「チカちゃんの機嫌をなおすのにキスしろとか言いやがってね。」

「・・・してくれるの?」

「しないよ。」

「してくれるよね?」

「しないよ。」

「して?」

「ちょい、待ち!段々せまってこないで。」

返答のたびにチカは近付いていた。

「だって、キスしてみたいもん・・・」

チカはクチを尖らせて拗ねていた。

「10年早いよ。」

俺は尖ったクチビルを摘まみ。ホッペタに軽くキスをする。

「これぐらいで我慢しなさい。」

「・・・」

「チカちゃん?」

「ゆうちゃん!!」

チカは俺に抱きついてくる。

「チカ落ち着いて。」

「だって、今ゆうちゃんからしてくれたよね。私、嬉しくて!」

チカが上から覆い被さっているところに、マルがくる。

「・・・少々御待ちを、布団を用意して参ります。」

「待たんかー!マル誤解だって!」

「いいんですよ!うちが撰ばれるなんて光栄です!あっ、おやっさんに連絡しないと!」

「待てと言ってるだろ!誤解だって!それにここは連れ込み宿じゃないだろ!健全なカフェを経営してるよな!」

「いいんです!今日から連れ込み宿です!」

「違うわ!落ち着け!」

俺は何とかマルの誤解をとき、席に戻る。

「あーつかれた~」

席に戻った俺は机にうつ伏せになる。

「へへ、ゆうちゃん、お疲れだね♪」

「チカちゃんの機嫌がなおって何よりだよ・・・」

「ゆうちゃん♪」

「なに?」

俺は顔を上げると、

チュッ♡

チカは俺のホッペタにキスをしてきた。

「ゆうちゃん、お返しだよ♡」

俺は少し顔を赤くしたが俺より顔を真っ赤にしてるチカを見て、

「恥ずかしいならやめときなさい。」

「ううん、恥ずかしくないもん。」

「そうですよ、お似合いですよ。」

「・・・マル、いつから見てた。」

「あ~つかれた、と言った時から見ておりました。」

「最初からじゃねえか!さっさとパフェ作ってこいよ!」

「この席が気になりまして。」

「やかましい!さっさと作れ!」

「へーい!」

マルは今度こそ、パフェを作りにいった。


「う~ん、美味しい♪」

チカはパフェを食べ、満足していた。

「よろこんでいただいて、何よりです。マルも草葉の陰から喜んでいるでしょう。」

「マルさんまだ生きてるよ。」

「あとで始末してやる。」

「まあまあ、マルさんのお陰でこんなに美味しいパフェが食べれるんだし。」

「まあねぇ~、軽く折檻だけで許してやるか。」

俺達はパフェを堪能したあと、店を出る。

そして、行列の横を通りすぎ・・・

「あれ?チカ?おーい!」

行列の中からチカを呼ぶ声がした。

「あれ?マイちゃんとユタカくん?」

「チカちゃん知り合い?」

「クラスメイトだよ。2人とももしかしてデート?」

「そ、そうなんだ。クラスメイトには秘密にしておいてよ。」

「うん、いいよ。」

「それで、チカもデートなの?」

「うん♪今まで此処でパフェ食べてたの。」

「パフェ?ここのメニューにパフェなんて無かったと思うけど。」

「あれ?ゆうちゃんパフェないの?」

「さあ?マルに言ったらそのまま出てきたよ。」

「もしかして、無茶振りしたかな?」

「チカちゃんは気にしなくていいよ。マルが文句言わずに出したってことは出せるものなんだろ?」

「・・・もしかして、チカちゃん。ここの店長と知り合いなの?」

「私と言うか、彼が知り合いなんだ♪」

「いいな~」

「いいでしょ、自慢の彼だよ♪」

俺に腕を絡ませ上機嫌のチカ、

まあ、機嫌がなおったのなら良いことだ。

「えーと、マイさんとユタカくんだったかな?」

「はい。そうですけど。」

ユタカくんが答える。

俺は名刺にマル宛のメモを書いてユタカくんに渡す。

「店に入る時にこれを渡して、パフェを食べれるようになるから。」

「いいんですか!」

ユタカくんを押し退けマイさんが食い付く。

「チカちゃんの友達みたいだしね。まあ今回だけだけどね。」

「ありがとうございます。」

「さあ、行こうかチカちゃん。長居して2人の邪魔しちゃ悪いよ。」

「あっ、そうだね。お互いデート楽しもうね。」

俺とチカは改めて車に向かった。


マイとユタカはその後、行列に並び、順番を待った。

そして、店に入る時に言われた通り、名刺を見せると店長がやってきた。

「えーと、この名刺を持ってるって事はユウヤさんの知り合いかな?」

「えーと、チカの知り合いなんですけど、さっきチカの彼氏にもらったんですが。」

「あー、ユウヤさん名乗ってないんだね。まあ、抜けたところもある人だから、さて、注文は何にする?パフェも作れるよ。」

「いいんですか?」

「かまわないよ、ユウヤさんの命令でもあるしね。」

「・・・でも、おいくらでしょう?高いんじゃ?」

マイは言いにくそうに値段をたずねる。

「あ、あー、もちろんサービスだよ。今日、2人が食べるぶんはユウヤさんの奢りだから好きに注文していいよ。」

「えっ!そんな悪いです。」

「いいよ、あの人凄く稼いでいるからね。2人がこの店のケーキを全部食べても気にしない人だよ。あと、お土産で家族の分も持って帰っていいからね。」

「そんな・・・」

「いいから、もし、感謝の気持ちがあるならチカさんに優しくしてあげてね。」

「こんなことがなくてもチカとは友達だし、優しくするけど。」

「ユウヤさんにとってはたいしたことをしてるつもりはないんだよ。ここは甘えてくれないと、後で僕が怒られてしまうからね。遠慮なく頼んでね。」

「・・・それなら、お言葉に甘えて、パフェをお願い出来ますか?」

「喜んで。そこの彼は?」

「俺もパフェでいいですか?」

「いいよ、少し待っててください。あと帰る前にお土産用のケーキの注文も忘れないでくださいね。ここに書いてくれれば用意しますから。」

マルは注文書を置いて、厨房に向かった。

「チカの彼氏って何者なの?」

「凄いよね、俺、さっきから負けた気分になってるよ。」

「ちょっとユタカくん、仕方ないじゃない、相手は大人だよ。」

「俺もあんな人になれるのかな?」

「なれるよ、もっと素敵な男性にもなれるから、2人で頑張っていこ♪」

落ち込むユタカを励まし、2人はその後きたパフェを堪能するのだった。

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