第8話ー⑦ 正義の味方
――翌日。水蓮はいつものようにスクールバスに乗り、夜明学園へ向かっていた。
「お父さんは、自分の正しいに従った行動ができたんだね」
バスの中で変わりゆく景色を眺めながら、水蓮は嬉しそうに笑い、そう呟いていた。
それは朝食時、仲睦まじい姿で会話をしていた両親を見て、ちゃんと仲直りしたことを確認できていたからだった。
「今度は私の番だ。私も、私の思う正義を――」
そんなことを考えているうちに、水蓮を乗せたバスは学園の門の前に到着した。
バスを降り、いつものように門を潜って校舎へ向かう水蓮。この日も陽射しが厳しく、白いアスファルトに太陽光が反射して眩しく感じた。
正義の色って、白いイメージがある。だからなんだかこのアスファルトは、今日の私への挑戦めいたものみたいに感じるな――と白いアスファルトを見つめる水蓮。
「だからこそ、今日はあの2人を――」
と考えながら歩いていると、
「スイちゃーん! おはよう!!」
背後から聞こえたその声に水蓮は振り返った。
そして愛李が大きく手を振って駆け寄ってくる姿を見て、水蓮は足を止める。
「おはよう、愛李」
水蓮は追いついた愛李に笑顔でそう言ってから、再び歩き出した。
「昨日はどうだった? 講義に来なかったから、心配してたんだよ?」
そんな愛李を見て、申し訳ないと思う反面、私のことを気にしていてくれたんだ――と水蓮は嬉しく思っていた。
「あはは。ごめんね。あの後、先生に呼び出されちゃって」
「え!? もしかして、怒られたの!?」
水蓮の顔を覗き込むように、愛李はそう言った。
「ううん、違うよ! 心配されただけだから」
「そっか。良かった~」
まるで自分のことのように、胸を撫で下ろしながらそう言う愛李。
ああ、愛李が友達でよかったなあと水蓮は思いながら、微笑んだ。
「心配してくれて、ありがとね愛李」
「うん! だって私はスイちゃんのお友達だから! それに、スイちゃんのこと、大好きだから!!」
そう言って微笑む愛李。
失敗する俺も間違う俺も、結局全部が俺なんだよ――そう言った暁の言葉をふと思い出す水蓮。
私も間違えたんだと思う。でも――私は私で、そんな私でも愛李は好きでいてくれるんだ。そういうことを積み重ねていくことで、気が付けるものって本当にあるんだね――
「私も愛李のこと、大好きで大切なお友達だって思ってるよ!」
「わあああ! ありがとう、スイちゃん!」
愛李はそう言って、水蓮にぎゅうっと抱きつく。
「歩きにくいよぉ」
「あ、はは~ごめんごめん!」
それから水蓮たちは教室に向かった。
水蓮が教室に着くと、愛李とまったく同じ質問をももから受けて、ももも愛李と同様に自分の身を案じてくれていたことを水蓮は知った。
これからは2人に心配をかけないよう、気をつけよう――水蓮は自分を大切に思ってくれている愛李とももを見つめながら、そう誓ったのだった。
――授業後。
「さてと。さっそく捜索を開始しますか!」
水蓮はこっそりと教室を出て、周囲を見渡しながら廊下を歩き始めた。
昨日の高校生たちが再びどこかで喧嘩になることを予想して、水蓮は一人、学園に残っていたのだった。
ももと愛李には心配をかけないようにと、事前に今日のことを伝えており、2人は「無理しないようにね」と快く水蓮を送り出した。
本当はももたちに「手伝おうか?」と言われていた水蓮だったが、もし罰を受けることになった時、2人を巻き込んでしまうのは心苦しいと思い、その申し入れを断っていた。
「また校舎裏――ってことは考えにくいよね。また私に見つかるかもしれないって思うだろうし。じゃあ、今日はどこで――」
そう呟きながらきょろきょろと周りを見ながら廊下を進んでいると、
「水蓮ちゃん!」
と前方から声を掛けられ、その声の方に水蓮は視線を向ける。
すると、そこには優香とその隣にキリヤの姿があった。
「あ、優香ちゃん! キリヤ君も!!」
2人共、オフィスカジュアル(白系をメインとしたスタイルで、なんだかペアルックっぽい)を着用し、キリヤは右手に有名和菓子屋の紙袋を持っていた。
特段派手な服装をしているわけではないけれど、大人の女性のオーラを醸す優香と端正な顔立ちをしているキリヤを見て、相変わらず2人はクールでかっこいいなと思う水蓮。そして、やっぱりお似合いなだなあとも思った。
「お久しぶりです! こんにちは!!」
水蓮はそう言って、頭を下げた。
「こんにちは」
と優香とキリヤも笑顔で頭を下げた。
「今日はどうしたんですか? その紙袋も」
水蓮がそう尋ねると、
「うん。今日は打ち合わせで来たんだ」
とキリヤは笑顔で答える。
「打ち合わせ……?」
「ええ、今度の講義を私たちが担当することになったので、それの打ち合わせです」
そういえば。前にお父さんが、優香ちゃんの講義はわかりやすいし楽しいぞって言っていたなあ――
そんなことを思いながら、
「そうだったんですね! 優香ちゃんの講義、楽しみです!!」
水蓮は満面の笑みでそう言った。
「うふふ、ありがとうございます」
優香は嬉しそうにそう言って笑う。
「これから職員室に行こうと思っているんだけど――」
「それなら私が案内しましょうか!」
もう少しキリヤたちと話したいと思った水蓮は、そう提案する。
もちろんキリヤたちが職員室の場所を知っていることくらい水蓮にもわかってはいたが、それでもあえてそんなことを言ってみたというやつだった。
「へえ、じゃあ学園に詳しい水蓮にお願いしようかな?」
「はい、任せてください!!」
それから水蓮はキリヤたちを連れて、職員室へと向かって歩きだした。
「青葉君はどう?」とか「お父さんとお母さんは仲よくしてる?」とか、優香からのそんな質問に笑顔で答えながら、水蓮はまっすぐ職員室へと向かう。
そしてその道中、水蓮はふと昨日長瀬川と話したことを思い出した。
先生は後悔したままここで働いているって言っていたけれど……キリヤ君に会っても、大丈夫なのかな――
「キリヤ君。この学園に、長瀬川先生と言う方がいるのですか――」
水蓮はそう言って、ちらりとキリヤに視線を向けると、
「うん、知ってるよ。さっき今日は打ち合わせで来たって言ったけど、その長瀬川先生に会うためっていう目的もあるんだ」
キリヤはそう言って笑った。
「そのために、普段は行かない、ちょっと高めの和菓子屋さんになんて寄ってきたんだもんねぇ」
と優香は楽しそうにキリヤの顔を見て言う。
「だ、だって! 久しぶりに会うんだよ!? それなりの用意はしてこないと!!」
「はいはい。でも。恩師との再会――なんだか、素敵だね」
「――うん。先生もそうだといいなって、僕は思ってる」
キリヤは恥ずかしそうにそう言って笑った。
キリヤ君は長瀬川先生に会うことを楽しみにしているみたいだ。でも、肝心の長瀬川先生は、キリヤ君に会ったらどんな顔をするんだろう。何を言うんだろう――
そんなことを思いながら、水蓮は少し俯いて歩く。
それからしばらくして、水蓮たちは職員室に到着した。
「じゃあ、私はこれで! 2人の講義、楽しみにしていますね」
「ありがとう、水蓮!」
「また今度、キリヤ君と一緒にお家へ遊びに行きますね」
「はい、お待ちしてます!!」
それからキリヤたちは職員室へと入っていった。
「さてと――とその前に」
長瀬川の反応が気になった水蓮は、職員室の扉の隙間からキリヤたちの様子を見ていた。
何かを言ってから頭を下げるキリヤと、そんなキリヤを見て目に涙を浮かべる長瀬川。
先生がした行動も、今になってようやく正しかったことが証明されたのかもしれないな――
水蓮はそんなことを思いながら、職員室の前から去ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます