第3話ー② 魔女が残していったもの
――『エヴィル・クイーン』基地内。
「魔女様。『ポイズン・アップル』のデータの件ですけど――」
キキはそう言いながら、魔女の部屋に入ると、そこには自分と同年代くらいの少年がいた。
「あら、キキ。お疲れ様」
「あの、その子は?」
「ええ。さっき連れて帰ったのよ。名前は……『ほたる』にしましょうか!」
『エヴィル・クイーン』の子供たちは、連れてこられたときにこうして魔女からコードネームを決められていた。
「しかしなぜ、『ほたる』なんです?」
魔女は得意げな顔をすると、
「真っ暗な部屋で、小さな光を放っていたのがなんだか蛍っぽいって思っただけのことよ」
そう言ってニコッと笑った。
「そうですか……」
私の名前、『キキ』の時は、なんだか気分が明るくなりそうとかそんな理由でしたよね。そんな適当じゃなく、もっとかわいい名前が良かったものです――
「じゃあ、ほたる。今日からキキと仲良くね? お姉さん、だと思ってたくさん甘えたらいいわ」
「……はい」
なんだか無表情と言うか。感情が薄いですね――
「えっと、ほたる? 私はキキと申します。これからよろしくです!」
「……うん」
無表情のままほたるはそう言った。
まあ、これから慣れてくればきっといろんな表情を見られるはずですねえ――
そう思い、「うん」と一人頷くキキ。
「じゃあ、私は
そう言って魔女は部屋を出て行った。
「あの……ほたる?」
「……」
無視、ですか!? と言うか、魔女様の出て行った扉を黙って見つめて――
そしてはっとするキキ。
「もしかして、魔女様が帰ってくるのをそこでじっと待っているつもりじゃないでしょうね」
「……うん」
待っているってことでいいのかな――?
「今出て行ったら、しばらくは帰ってこないですよ」
「そう……」
しょんぼりした顔をするほたる。
そんなほたるを見たキキはため息を吐き、
「まったく……魔女様が戻って来るまでの間、ここの生活の仕方を教えるので、ついてきてください」
そう言ってほたるの手を掴んだ。
「痛っ――」
すると急にキキの手の電気が走る。驚いたキキは、ほたるの手を放した。
そして突然放された手を見て、少しだけほたるの表情が曇ったように見えるキキ。
そういえば、暗い部屋で一人とか言っていましたね。人との接触を避けていたのでしょう――
「能力はなんですか?」
「……『電気』」
ほたるは嫌そうな顔をしてそう答えた。
「へえ。触った感じだと、その力だけでも結構威力がありそうですね。ほたるも『ポイズン・アップル』を?」
「知らない。僕はただ魔女様に助けてもらっただけ」
「そうですか」
今来たばかりだってことを考えると、『ポイズン・アップル』の埋め込みをしたとは考えにくいですね。じゃあ、オリジナルですか!? なんとも羨ましい――
それからもう一度、ほたるの腕を掴むキキ。
「危な――」
「大丈夫です。私の能力は『
「う、うん」
そしてキキはほたると共に建物の中をめぐる。
それから無表情だったほたるの顔が少しずつ表情を出し始める。
あらあら、そんな顔もできるんですね――
そんなことを思いながら、キキはほたるとの時間を過ごしたのだった。
ほたるが『エヴィル・クイーン』にやってきて、数日が経ったときのこと――
「じゃあ、行ってくるわね」
「はい……」
「今日のお戻りはいつになりますか? できれば、またデータを見られたらと」
「うーん。そうね……なるべく早く戻って来られるようにするから。だから待っていて」
魔女はそう言って微笑むと、またどこかへ出かけていった。
「まあ、今夜も戻りは遅いという事ですね……」
ため息交じりにキキはそう呟いた。
「キキは何かの研究をしているの?」
ほたるはキキの顔を見ながらそう言った。
「珍しいですね、ほたるがそういう事を言うなんて」
「そう?」
そう言いながら首をかしげるほたる。
自覚無しですか、まったく――
「ただ気になっただけから……嫌なら答えなくてもいい」
俯きながらそう言うほたるにキキは笑顔を作ると、
「いいえ。実は――」
それか『ポイズン・アップル』に代わる薬を研究していることを明かした。
「――この薬を使えば、魔女様の力を使わなくても、簡単にパワーアップすることができるんです!」
「……そう」
悲しそうな顔でそう言うほたる。
「どうしたんですか……?」
「僕は、強くなんてならなくてもいいって思うから……」
「え?」
「強い力は周りから疎まれる。そして怖がられ、迫害されるんだ……」
ほたるは俯いてそう言った。
ほたるは私と違って、力があるがゆえに悩んでいた、と。そこを魔女様の救ってもらったわけですか。なぜ、真逆な私たちを引き合わせたのでしょうね――
「ほたるには、ほたるの悩みがあることはわかりました。でも――弱いものは強いものに虐げられるんです。ほたるのように、強い力を持っている子供たちが、みんな優しい心でいるわけではないのですよ」
「……うん」
小さく頷くほたる。
かつて私がそうだったように、弱い能力者は強い能力者に虐げられ、日陰で生きて行かなければならないんですよ――
「だから私は、魔女様と一緒に弱いものいじめをする奴らに制裁を加えてやると決めたのです。その為に、弱い子供たちが強くなれる薬を作る……それが今の私のやることなんですよ」
「……そっか。わかった」
「うん」
きっと納得してくれたわけじゃないことはわかる。でもほたるは魔女様が決めたことなら、絶対に反対しない。間違っているのかどうかなんてわからないけれど、私はこの研究を絶対にやめないと誓ったんです――
その後、キキたちはローレンスはと出逢い、そして様々なことを経て、『エヴィル・クイーン』は解散したのだった。
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