第3話ー① 魔女が残していったもの

 ――『アンチドーテ』基地内。


 キキは複数のモニターを見比べながら、キーボードを打っていた。


「キキ、研究の方はどう?」


 ほたるはそう言いながら、キキの後ろに立つ。


「ほたる! ええ、順調ですよ!」


 キキはそう言ってほたるに微笑んだ。


 そんなキキを見たほたるは嬉しそうに笑う。


「そう。よかった」

「まあでも、まさか研究所からこの研究の援助金がもらえるなんてね」


 そう言ってキキは両手を上にあげ、背伸びをした。


「僕たち、ひどいことをしてきたのにね……」


 俯きながらそう言うほたる。


 ほたるは責任を感じているのでしょうね。襲撃事件やあの隔離事件のことを――


 それからキキは両手でほたるの頬に触れて、


「このご恩に報いるように、私が素敵な薬を開発します。だから、ほたるも手伝ってくれますよね?」


 と微笑みながらそう言った。


「――うん!」


 ほたるは満面の笑みでキキにそう告げたのだった。




 ――私が今、ここにいる理由。それは、全てあの時から始まった。



 * * *



 約8年前――


「お前の能力、天気予報だって? だっせぇ!!」

「何の役にも立たない、ごみ能力だよな! あははは!!」


 そう言いながら、複数の子供たちがか弱い少女を取り囲んでいた。


「ほら、なんか言ってみろよ!」

「もうやめてあげなさいよ! かわいそうに、泣いてるわよ!!」


 嘲笑いながらそう言う少女。


「じゃあしょうがねえから、俺の能力を見せてやるよ! きっと驚いて大声を上げちまうかもな!」


 そう言って少年は片手の手のひらを上に向ける。すると、そこに黒い球場の物が生成された。


「これは『ブラックホール』って言って、このたまに触れると分解されて、消されちゃうんだぜ。まだ人間には試したことないんだけど――」


 そう言ってニヤリと笑う少年。


「なあ、ちょっとお前さ。試しに消されてみる?」

「な、何言ってんだ!? それはさすがにやりすぎだって! 怒られるくらいじゃすまないぞ?」


 焦った顔で少年は静止するようにそう告げる。


「いいんだって。どうせ、ちょっと反省部屋にぶち込まれるだけだって!」

「でもさ……」


 不安な顔をして、能力を使用しようとしている少年をその場にいる子供たちは見つめた。


「実際はどうなるかわからねえだろ? だからさあ、いいよな?」

「い、嫌です……」

「は? 聞こえないんだけど?」

「嫌です……!」


 少女は声を震わせて、目の前に立つ少年にそう言った。


「そうか、そうか。やってみたいか。うん! じゃあ、お望み通りにやってやるよ」

「ひぃ」


 そう言って頭を押さえ、震える少女。


 少年が少女に近づくと、もう一人の少年がその少年の腕を掴む。


「本当にやめとけって。どうしたんだ? お前、ちょっと変だぞ?」

「あー、はいはい。仕方ないなあ」


 そう言ってから、少年は生成していた『ブラックホール』を消した。


「じゃあな。また会った時には、よろしく~」


 それから少年たちは、頭を押さえて小さくなっている少女の前から姿を消した。


「私、何も悪くないのに。どうして――」

「あらら。どうしたの、お嬢さん?」


 突然聞こえた大人の女性の声に顔を上げる少女。


「誰、ですか……?」

「うふ。失礼したわね。私は恵里菜……いいえ、魔女様と呼びなさい」


 呼びなさいって……すごくでかい態度の人。ちょっと怖いし――


「えっと、魔女様? その魔女様が私に何か御用ですか?」

「ええ。御用があるから声を掛けたに決まっているでしょう?」

「は、はあ」


 私、この人にも何かしちゃったんでしょうか。思い当たる節はありませんが……まあ、さっきの男の子たちにも思い当たる節はなかったんですけれど――


 そう思いながら、怯えた顔で魔女と名乗る女性を見つめる少女。


「あなた……弱い自分が嫌にならない?」

「え?」

「私と一緒に来れば、力を上げると言っているのよ」


 そう言って微笑む魔女。


「力を、くれるんですか……」

「ええ。そうしたら、さっきみたいに絡んでくるうざい奴らも、あなたがやっつけられる」

「で、でも……私の能力じゃ――」

「そうね。今のままでは無理ね」

「ほら……」


 私の力は何の役にも立たないもの……だから――


「だから力を上げると言っているのよ。私、弱いものいじめが大嫌いなの。さっきのあなたを見ていて、とても心が痛んだわ……このか弱い少女に何かしてあげられないかって」


 魔女は胸を押さえて、悲痛な表情をした。


 なんだか嘘っぽいなとは思いつつも、その力と言うものにキキは興味を示す。


「力、ですか……」

「ええ、そうよ。ねえ、私と一緒に来ない? それで弱いものいじめをする奴らをやっつけましょう? もうあなたみたいな低級能力者の子供たちが悲しむ顔をみたくないわ」


 そう言って微笑む魔女。


「本当に……?」

「ええ。だから行きましょう。私には、あなたが必要なの」


 魔女はそう言いながら、少女に手を差し伸べる。


 この人について行けば、私はもういじめられっ子じゃなくなる。そして、弱いものいじめをする連中に制裁を下せる――


「わかりました。……行きましょう。魔女様と共に、私はこの世界を……低級能力者の未来を変えるんです!!」

「うふふ。助かるわ」


 それから少女は魔女の手を取る――。




 そしてその少女は姿を消し、世間的には行方不明になったということで処理された。


 それから数日後、少女をいじめていた少年たちは大けがを負って、廃ビルの中から発見されたという――

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