第86話ー③ みんな揃って

 レクリエーション開始から10分が経過した。


 暁は未だ生徒たちから逃げ回っていた。


「さすがに今回も圧勝かな」


 そう呟きながら走っていると、


「センセー、今回は逃がさないよ!!」


 そう言っていろはが目の前に現れた。


 いろははS級ではないけれど、一応能力者だ。そしてその能力は――


「んじゃ、ちょっと失礼して――」


 いろははそう言って近くに生えていた木を引っこ抜くと、


「サクッとやっちゃうよ!」


 そう言いながらその木を振り降ろした。


 なんだか、前にも同じ光景があったな――


 そんな懐かしいことを思い出しながら、暁はその木を躱す。


「へへ、同じ手は通じないぞ!」


 そう言って暁はいろはの前まで駆け抜け、そしてその腕を掴んだ。


「ああ、また!?」


 それから『無効化』されたいろはは力を失い、持っていた木を落とす。


「ふふふ。甘いな、いろは!!」

「ちぇ……」


 唇を尖らせながらそう言って座り込むいろは。


「じゃあな――」


 そう言ってその場を立ち去ろうとした時、暁は背後に気配を感じた。


 そして暁が後ろを振り返ると、そこには竹刀を構えたまゆおが立っていた。


「まゆお、いつの間に!?」


 それからまゆおは、間髪入れずに手に持つ竹刀を振りかぶり、暁へ振り下ろした。


 この近距離はまずい――!


 そう思いながらも、まゆおの一太刀を紙一重で躱す暁。


「今だと思ったんですけどね……やっぱり先生は一筋縄ではいかないみたいだ」

「俺にも、意地ってもんがあるからな!」


 そして暁はまゆおから距離を取る。


「でも、ここいるのは僕だけじゃないですよ」


 まゆおがそう言って微笑むと、


 まゆおの背後から黒い羽根が暁に向かって飛んでいく。


 これは、狂司の『鴉の羽クロウ・フェザー』か――


 そして暁は右手を突き出して、その羽を全て『無効化』で消滅させた。


「背中ががら空きだぜ!」


 唐突に聞こえたその声に振り返る暁。


「剛!?」

「ちょっと痛いかもしれねえけどっ!!」


 剛がそう言いながら炎を纏わせた拳を暁に振り降ろすと、暁は笑顔でその拳を受け止めた。


 そしてその拳の纏っていた炎は『無効化』で消えてなくなったのだった。


「あと少しだったのにな……」


 拳を掴まれながら、剛は残念そうにそう言った。


「はっはー、惜しかったな」


 暁がそう言って微笑むと、


「まあでもこっちには最高の司令官がいてくれるから、負けはないと思うけどな!」


 剛はニヤリと笑ってそう言った。


「最高の司令官――ってそれ、どうせ優香だろ!」

「正解!! それに、風の音がなんとなくわかるらしい真一もいるしな!」


 真一は風を読めるのか。能力者でなくなっても、今までの感覚が残っているってことなんだろうな。やるな、真一――!


「じゃあ、楽しませてくれよ?」

「おう!」


 剛はそう言って笑い、暁から距離を取った。


 その行動を不自然に思った暁は首を傾げる。


 近接戦が得意な剛がなぜ、俺から距離を――?


 それから暁は足元に違和感を覚え、視線を下に向けた。


 そして自分の足元に起きている異変に目を見張る暁。


「足が……石化して――」

「ふふふ~ここでは、スイが最強ですからね! えっへん!!」


 自慢げにそう言って仁王立ちする水蓮。


「作戦、成功だ! ナイス水蓮!」

「しおん君の指示が完璧でした! すごいです! 真一君と息ぴったりです!!」

「おうよ! 俺と真一は、一蓮托生だからな!!」

「いちれん、たくしょう!? 何それ、かっこいい!!」


 しおんと水蓮が楽しそうに会話をしている隙に、その石化を『無効化』で解く暁。


「ふう、危なかった~」

「しおんも水蓮も! 駄弁ってないで、仕事しろよお!」


 剛はしおんたちに向かってそう言った。


「す、すんません!!」「つい」


 申し訳なさそうな顔をするしおんと水蓮。


「じゃあな!」


 暁はそう言ってしおんたちの前から立ち去ったのだった。

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