第83話ー③ 過去

 ――S級施設、暁の自室にて。


 スヤスヤと寝息を立てて眠る水蓮。そんな水蓮を優しい笑顔で暁は見守っていた。


「慣れない土地に行って、はしゃぎすぎたのかな」


 暁はそう言って水蓮の頭を撫でた。


『暁、いいか』

「ミケさん……? どうした?」

『思い出したことがある』


 さっき篤志さんに会って、記憶が――?


「なんだ?」

『私の過去と、水蓮の母のことだ』


 やっぱり、何か思い出したのか――


 そう思った暁はミケの方をまっすぐに見つめ、


「聞いてもいいか?」


 そう尋ねた。


『もちろん。私がまだ人間だったころ、先ほどあった男……篤志と水蓮の母はあの神社で暮らしていた――』


 それからミケは神社での思い出を暁に話していく。


 3人は本当の兄弟のように仲が良く、能力者であることも忘れて毎日楽しく暮らしていた。


 しかし篤志とスミレが神社を去り、しばらくして稜也の能力が暴走。


 そして少しずつ『ゼンシンノウリョクシャ』特有の症状が現れ始めて、いつしかヒトのカタチを保てなくなってしまったという事だった。


「そんな過去があったんだな」

『ああ。でも、知っていたんだろう。あの神社の神主や篤志から聞いて』

「少し、な。でもミケさんからちゃんと話が聞けてよかったよ」


 暁は微笑みながらそう言った。


『そうか』

「もしかして、それでミケさんは水蓮の面倒を……?」


 はっとした暁はミケにそう尋ねた。



『そこまでのことがわかっていたわけじゃない。でも、なんとなく放っておけないなとは思っていたくらいだな』


「無意識的にスミレさんのことを思い出していたんじゃないか」


『そうかもしれないな』


「でも、不思議だよな」



 暁はベッドに両手つけてそう呟く。


『何がだ?』

「いや。世間は狭いというか……水蓮の母親とミケさんが繋がっていたこともそうだけど、神主さんが探していた少年がミケさんだったなんてな」

『ははは。確かにな』


 それから暁はミケの方を見ると、


「それで? ミケさんはどうするんだ?」


 真剣な顔をして、そう尋ねた。


『どうする、とは?』

「記憶を取り戻したんだろう? だったら、あの神社で暮らした方がいいのかなって思ってさ」


 そう言って寂しそうな顔をする暁。


『何を言っている。私は暁と一緒に居る方が楽しいぞ。だから私はずっと暁に厄介になると決めている。ここはおいしい鰹節も出てくるしなあ』


 毛づくろいをしながら、ミケはそう言った。


「それ、目当てだろ?」

『そんなことはないさ! ハハハ』


 そう言ってミケはベッドの下に隠れた。


 暁はそんなミケを見て、やれやれと思いながらため息を吐く。


 それから暁は自室を出て、職員室の椅子に座った。


「なんか最近はいろいろなことがあったな……」


 そう呟きながら、暁は窓の外を見つめる。


 ローレンスが来て、キリヤたちが戻ってきて。そして水蓮とミケさんの過去を知って――


「いろいろあったけど、やっとこれで平和な日常が戻って来るのかもな」


 そんなことを呟く暁。


「俺も頑張らないとな。キリヤから未来の話を聞いたけど、でもやっぱり俺は俺がやりたいことをする。その為に、今はできることを全力でやるんだ」


 そして暁は机に向かって、溜まっている仕事にとりかかったのだった。




 未来は今の連続で、その今を作るのは紛れもなく過去だ。


 だから先の事ばかりに目をむけるのではなく、経験した過去も大切にして、未来へ向かっていきたいと俺は思ったんだ。

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