第76話ー⑦ 結び

 ――S級保護施設にて。


 エントランスゲートを潜り、自室に向かう暁。


「夢じゃ、ないんだよな……」


 そう呟きながら、暁は歩いていた。


 そして暁が自室について荷物を下ろすと、そこへミケがやってくる。


「まだ起きてたのか」


 暁は微笑みながらミケにそう言うと、


『結果を聞こうと思ったんだが、聞くまでもないみたいだな』


 そう言ってベッドの下に潜っていった。


「心配してくれていたんだな。ありがとう、ミケさん」


 ――そして翌日。暁が食堂に向かうと織姫と水蓮が来ていた。


「あ、先生! おかえり、おはよう!!」


 水蓮は暁を見つけると、笑顔でそう言った。


「ただいま! それとおはよう! いい子にしてたか?」

「うん!!」

「そうか。織姫もありがとうな!」

「いいえ。それで……」


 不安な表情でそう言う織姫。


「ああ。言えたよ。ちゃんと俺の想いをさ。ありがとう、織姫。織姫や弦太のおかげだよ」

「……私なんて、何も。でも、奏多ちゃんも先生も幸せだって思えているのなら、私は……私は嬉しいです」


 織姫はそう言って、ぼろぼろと涙をこぼした。


「ど、どうした!? そんなに喜んでくれたのか!?」

「そうですけど、そうじゃないです! でも、おめでとうございます、先生!!」

「ああ、ありがとな!」


 それから暁は、やってきた凛子に織姫に何をしたんだと問い詰められる羽目になったのだった――




 数日後。暁は奏多を連れて両親の墓参りと結婚の報告にやってきた。


 墓の前で長い時間手を合わせていた奏多に暁は、


「何をそんなに話していたんだ?」と笑顔で問う。


「暁さんをこの世に産んでくれたことへの感謝とこれからご両親が暁さんと叶えられなかった時間を私がお2人に代わって叶えますという報告を」

「ははは。ありがとう、奏多」


 それから暁は墓の前で手を合わせ、


 能力者になったことを何度だって恨んだけれど、でもそれがあったから奏多との今がある。父さん、母さん。俺は大切な人を幸せにするよ。そして叶わなかった温かな家庭を築いていくからな。だから見ていてくれ――


 両親にそう告げたのだった。


「じゃあ次は美鈴のところへ行こう! きっと奏多に会ったら喜ぶぞ!」

「あら、それは嬉しいですね!」


 それから暁は奏多を連れて、美鈴の元へと向かったのだった。



 * * *



 食堂にて――


 織姫は一人でいつものビジネス書を片手に紅茶を飲んでいた。


「――今頃は先生の地元で挨拶周りですか」


 そんなことを呟き、紅茶の入ったカップを見つめる織姫。


「すでに神宮寺家でへの挨拶は済ませていると聞いていますし。もう結婚も時間の問題なんでしょうね」


 本当は少しだけ寂しい。でも――


「嬉しい気持ちの方が勝っているようですね」


 そう呟いて、微笑む織姫。


 ここで会う前、最後に見た奏多ちゃんはとても苦しそうだった。だから、幸せに……大切な人と一緒になってくれたことがすごく嬉しかったんだと思う――


 するとそこへ、


「珍しいですね。こんなところで寂しくティータイムですか?」


 そう言ってニヤニヤと笑う狂司がやってきた。


「もっとまともな声の掛け方はないんですか」


 織姫はそう言って狂司を睨んだ。


「これが僕のスタンダードなんです」


 そう言って織姫の正面に座る狂司。


「なんですか?」

「別に。ただ先生のことを知って、君が落ち込んでいるんじゃないかって思ってね」

「……落ち込みませんよ。そんなことで」


 そう言って紅茶の入ったカップを口に運ぶ織姫。


「へえ。もう諦めは着いていたと?」

「ええ。ここで奏多ちゃんと会った時に、もう……」

「そうですか」


 そう言って立ち上がる狂司。


「本当にそんなことを言うためだけにきたんですね」


 織姫は嫌味を込めながらそう言って、狂司の方を見た。


「そうですよ。僕、こう見えて優しいですから」

「どこが」

「じゃあ僕はこれで。あ、そうだ! 僕も好きなんですよ」

「……え?」

「その本」


 狂司はそれだけ告げると、食堂を出て行った。


 そして織姫はカップの近くに置いてあるビジネス書に視線を向けた。


「まあ少しだけなら、見直してあげてもいいんだから」


 そう呟いた織姫はカップを口につけ、紅茶を楽しんだのだった。



 * * *



 地元から戻って来た暁は、いつも通りの日々に戻っていた。


 そしてPCとのにらめっこに疲れた暁は、ふとこれまでの奏多との思い出に浸る。


「初めて会った時は、能力で大けがをさせられるところだったな。そして剛が暴走してから落ち込んでいた時は助けられたっけ……本当にいろんなことがあったな」


 そしてこれからもきっと、たくさん思い出が増えていくんだな――


「何があっても、俺はずっと奏多と一緒にいよう。俺が歩んでいく道は奏多と一緒がいいからな」


 それから暁は再びPCとにらめっこを始めたのだった。




 俺はこれから奏多とどんな未来を創っていこう。どんな未来にしよう。


 例えどんな未来になっても、俺は奏多と一緒なら――!




 そして暁は一つの終わりを迎え、今度は奏多と共に新たな未来を始めていく――

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