第76話ー⑥ 結び
翌日、織姫から弦太の連絡先を聞くとさっそく行動を始める。デートの日取りと会場、そして指輪の手配。
「ありがとな弦太。指輪の件は助かったよ。さすがに俺が指のサイズなんて聞けないからさ……」
『いえいえ。お役に立てたのなら何よりですよ、兄さん?』
「気が早いって!!」
そう言って顔が赤くなる暁。
『でもきっと近いうちにそうなりますからね』
「ああ。そうなるように、俺もやれることをやるさ」
『よかったです』
ホッとした声でそう言う弦太。
「何がだ?」
『織姫に姉さんのほしいものを伝えた時、実は少し不安になったんですよ。暁先生がこれを聞いたら、悩んでしまうんじゃないかって……でも杞憂みたいでしたね!』
笑いながらそう言う弦太。そして、
「そんなことはないさ。すごく悩んだんだよ。今、大切な計画があって、それをやり切る前に俺は俺のことを優先していいのかってさ」
暁はその時のことを思い出し、苦笑いをしながらそう言った。
『そうだったんですね……でも、それがどうして?』
「奏多がな……これからも今と変わらずに一緒にいてくれないかって言ってくれて、ああ俺も同じ気持ちだなって思ったんだよ。だから俺は決めたんだ。奏多と一緒にいる未来を取るって!」
『それは、とても素敵なお話を聞いてしまいましたね。僕もなんだか嬉しいです!』
弦太にそう言われてから暁は頬を赤く染め、
「ははは……なんかこういうことを人に話すって、気恥ずかしいな」
頭を掻きながらそう言った。
『いいえ、そんな恥ずかしがることなんてないです。すごくかっこいいですよ、暁先生!』
「これで上手くいけば、だけどな!」
『そこは大丈夫ですって! 姉さんの気持ちは変わらないだろうし、今回のプロデューサーはこの僕なんですよ? これからのビジネス界のニューリーダーになる神宮寺弦太プレゼンツなんですから、大船に乗ったつもりでいてください!』
弦太は自信満々そう言った。
「なんだろう、すごく頼もしい……ありがとな、弦太!」
『いえいえ。それじゃ、当日の段取りですが――』
それから暁と弦太は綿密にデートのプランを立てていった。
そして数日後。暁にとっての運命の日がやって来る。
「さてと……」
朝食を済ませた暁はエントランスゲートに向かっていた。
今回のことを知っている織姫に水蓮のことを頼むと、織姫は深いことは何も聞かず、水蓮を連れて行った。
そして暁が外出許可を申請するときに所長へ今回の事情を話すと、時間を気にせず楽しんでこい――と所長は快くそう送り出したのだった。
「みんなの協力は、絶対に無駄にしないぞ!」
それから暁がエントランスゲートに到着すると、
「おはようございます、暁さん」
奏多がそう言って笑顔で待っていた。
「おはよう、奏多」
暁も笑顔でそう返し、2人は東京へ向かうために車に乗り込んだ。そして2人を乗せた車は走り出す。
次戻って来るときには、2人の関係が先に進んでいることを信じて――
東京に着いてから、順調にデートは進んでいった。
久しぶりの渋谷や映画館、そして東京タワー。暁たちは今まで周っていた場所を思い出に浸るようにまた訪れていた。そして、最後の目的地のレストランに着いた暁たちはディナーを楽しんでいた。
「暁さんがこんな豪華なレストランを選ぶなんて珍しいですね」
奏多はそう言いながら、ニコッと笑う。
「あ、ああ。たまにはな! 俺も奏多ももう大人だし、そろそろこういう雰囲気の店もいかなって思ってさ」
「へえ。そうですか」
嬉しそうにニコニコする奏多。そんな奏多を見た暁は、ふと弦太との話を思い出す。
『いいですか。プロポーズはやっぱり高級なレストランですよ! 夜景の綺麗なレストランで良い雰囲気の中、さりげなくそう言う話に持っていって……そして――』
本当にうまくいくだろうか。弦太を信用していないわけじゃないが、そんなひと昔前のドラマみたいな展開――
そう思いながら、水の入ったグラスを見つめる暁。
「暁さん? どうかされました? やっぱり少し無理されてます?」
「あ、いや。違うんだ! ちょっと考え事を」
「あら。お仕事のことですか?」
「えっと……まあ、そういうことにしておくよ」
「は、はあ」
それから暁は運ばれてくる食事に舌鼓を打ちながら、時間を過ごしていった。
そして最後のデザートが運ばれてきたとき、暁はとうとう話を切り出すことに――
「あのさ、奏多。今日、このお店にしたのはわけがあってさ……」
「わけ?」
「ああ、俺さ――」
「暁さん。その話の続きは、次の目的地でもよろしいですか?」
奏多は暁の言葉を遮るようにそう言った。
「え……ああ、うん」
「どうしても、暁さんと行きたいところがあるんです」
奏多がどうしても行きたいところってどこなんだろう……でもここが最後じゃないのなら、プロポーズはきっと今じゃないんだろうな。次の目的地で俺は、必ず――
それから暁たちは食事を終えて、次の目的地へと向かった。
そして到着したそこは都内から少し離れた場所にある一軒家だった。
「えっと、ここは?」
「神宮寺家の別邸ですね。都会の喧騒を忘れたいときのために、父が建てたものです」
それから奏多は鍵をあけて、2人はその建物の中へと進んでいく。
「真っ暗だな……」
周りを見渡しながら、そう呟く暁。
「暁さん! こちらへ!!」
暁は奏多に手を引かれて進んでいった。そして2階のバルコニーに出ると――
「ここが私の見せたかった景色ですよ」
奏多はそう言って、空を指さした。そしてのその先には無数に輝く星々があった。
「すごい……まさかこんな場所があったなんて……」
暁はその美しい満天の星を見ながら、そう呟いた。
「喜んでいただけたみたいで、私も嬉しいです」
それから奏多は暁の隣に立つと、
「それで、先ほど言いかけたことって何ですか?」
星を見つめながらそう言った。
そうだ。俺は今日。奏多にそれを伝えるために来たんだ――
暁は奏多の方を向き、真剣な表情をすると、
「奏多。俺さ……夢が、あるんだ」
「夢?」
奏多はそう言いながら、暁の方を見る。
「ああ。能力者も無能力者も関係ない未来にして、子供たちの心を育てる学び舎を作ることだ」
「うふふ、それは素敵な夢ですね」
そう言って微笑む奏多。そしてそんな奏多を見て、暁も微笑んだ。
「奏多が前に言ってくれた、子供たちの未来を創るための場所にしたいって思って、今はその準備を進めている」
「そうなんですね」
「だから……その夢の途中に、自分のことなんてって初めは思っていたんだ。でもな。俺はやっぱり、今伝えなくちゃって思ったんだよ。まだまだ夢に向けてこれからなんだけど、でも今言わないとってそう思って!」
「はい」
そして暁はカバンに入っていた小さな黒い箱を取り出し、そしてその蓋を開ける。
「奏多、これからも俺とずっと一緒にいてほしい。結婚してください」
暁は奏多の顔をまっすぐに見て、そう告げた。
そして「はい」と奏多は笑顔でそう答え、暁は奏多の左手薬指に指輪を着けた。
「暁さん、これからもずっと一緒にいましょうね」
「ああ」
それから2人はしばらく星を眺めて、それぞれの帰るべき場所へと帰っていったのだった。
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