第73話ー③ デビュー前の
数日後、再び社長に呼ばれたしおんと真一は事務所に来ていた。
「今度は何だと思う?」
しおんは隣に座る真一に不思議そうな顔でそう告げた。
「密着取材の段取り説明とかなんじゃないの? 凛子の企画だから、内容変更で僕たちの出演取りやめとかはさすがにないと思うし」
真一は淡々とそう告げる。
「まあ、そうだよな」
そう言ってしおんは、腕を組みながら社長から呼ばれた意味を考えていた。
わざわざ事務所に呼び出すってことは、たぶん重要なことなんだろうけど……でも、それってなんだ――?
「うーん」
そして数分後、社長が会議室にやってきた。
「――ってことだから、数日後にS級クラスの保護施設まで行ってもらえるかな? 送迎車は出すからね!」
「わ、わかりました……」
しおんは呆然とそう返事をする。
「じゃあ、私は出かける用事があるから! お疲れ様!!」
そう言って社長は事務所を出て行った。
しおんたちが社長から伝えられた内容は、企画の打ち合わせのため、『はちみつとジンジャー』の2人にS級施設へ来てほしいと凛子から依頼があったということだった。
「里帰り、だな!」
「うん、そうだね」
真一は淡々とそう答えた。
「真一はもっと喜べよ! 本当に里帰りみたいなもんだろ!?」
「いや。まさかこんなに早く里帰りできるとは、思ってなかったからさ……」
そう言いながら、真一は俯く。
なるほど。さっきの淡々とした言い方は、冷めてるってことじゃないわけか――!
「要するに、驚いてうまく言葉にならなかったってことだろ?」
しおんはそう言いながら、クスクスと笑った。
「そんなとこだよ。ねえ、そんなに笑わないでくれる?」
そう言ってしおんを睨む真一。
「ははは! 悪い悪い! まあでもさ。楽しみだな、施設に行くの!」
「……うん」
それから数日後、しおんと真一は保護施設へ向かったのだった。
* * *
保護施設内、食堂にて――
「凛子。そういえば、しおんたちが来るのって今日だったよな」
暁はお茶を飲む凛子にそう尋ねた。
「はい! もうすぐ着くんじゃないですかあ? 確か、11時には着くかもって話でしたけど」
凛子はそう言って、時計に目を向ける。そして時計は午前10時50分になろうとしていた。
暁は凛子がこの食堂で打ち合わせをすると聞き、エントランスゲートの入場時のことを踏まえて、しおんたちが来るまで凛子と共に食堂で待つことにしていたのだった。
「それ、しおんから聞いたのか?」
「あはは、そんなわけないじゃないですかあ! しおん君の事務所の方に聞いたんですよお☆」
凛子……わざわざ到着時間の確認していたんだな。それだけしおんたちと会えるのを楽しみにしているってだよな――!
そう思いながら、暁は「うんうん」と頷く。
「――じゃあ凛子も出迎えに行くか! しおんたちと久しぶりに会えることが楽しみなんだろ?」
暁が微笑みながらそう言うと、
「あ、私はここで待っているので、先生がここまで誘導してきてください☆」
凛子は穏やかな笑顔でそう答えた。
「え? 凛子は行かないのか??」
てっきり楽しみにしていると思ったんだけどな――
そんなことを思いながら、凛子に首をかしげる暁。
「わざわざ会いに行く必要なんてないじゃないですかあ。これから話し合うんですし」
「ああ、そうだな。わかったよ!!」
確かに、凛子の言う通りだけど……やっぱり、会いたがっていると思っていたのは俺の気のせいだったのかな――?
そして11時になると、暁はしおんと真一を迎えるためにエントランスゲートへと向かっていったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます