第71話ー① 捕らわれの獣たち 後編
暁たちが隔離施設に来てから5日目。
固く閉ざされている扉の部屋には暁、優香、もも。そして最後にやってきた少年、
「ここにきて、不当な扱いをされるようなことはないが……」
「あと2日で答えを出すか、助けが来るか。そのどちらか、ですね」
「ああ」
託された通信機器があるとはいえ、やはり研究所もそう簡単に動き出せないんだろうなという事を察する暁。
もしもこのまま助けが来なかったら――暁はふとそんなことを思う。
世界を取るか、生徒を取るかってことだよな……俺は――
「せんせい、大丈夫? 元気、ないの?」
ももはそう言って心配そうな顔で暁を見つめた。
そんなももを見てはっとした暁は、
「ああ、すまんな。心配してくれてありがとう、もも」
そう言ってももに笑顔を向ける。
「よかったあ」
ももはそう言って、優しくほほえんだ。
今はももたちに余計な心配を掛けさせるわけにはいかない、よな――!
暁はももの笑顔を見てからそんなことを思い、話題を変える。
「そういえば、裕行はどうしてる? 姿が見えないようだけど」
「裕行君はシャワールームだよ」
「へえ。そうか」
まだ朝飯を終えたばかりだと思ったけど、裕行は朝にシャワーを浴びたいタイプなんだろうか――?
そんなことを思い、顎に手を添える暁。
「なんかね。さっき朝ご飯をこぼしちゃって、気になるから洗うんだって言ってたよ」
「そんな、大胆にこぼしていたっけな――」
そう呟き、ふと朝食時のことを思い出す暁。
* * *
「今日は和食かっ!」
暁は目の前に並ぶ和風のお膳を見て、嬉しそうにそう呟いた。
「でもなぜ、こんなにちゃんとした食事を毎日用意してくれるんでしょうね。自分の野望のだとしても、好待遇過ぎるというか……」
優香が不安になるのも無理はない、か――
そう思いながら、暁は部屋を見渡す。
この部屋にはベッドが一人一台ずつ用意されており、そのほかにシャワールームや綺麗な洋式トイレが完備されていた。そして定時になるとちゃんとした食事も運ばれてくる。
「まあ、あいつらはそれだけ俺たちの力を欲しているってことなんじゃないか?」
「そう、ですよね。私の考え過――」
「わあっ!」
優香の言葉を遮るように、裕行は叫び声を上げた。
「どうした、裕行!?」
「お味噌汁を、こぼしてしまって……」
肩を落としながらそう言う裕行。
「タオル持ってくるね!」
そう言ってももは、シャワールームに向かったのだった。
* * *
そんなに汚れた感じはなかったけど、たぶん裕行は潔癖症なところがあるんだろうな――と暁はそう思って、うんうんと頷いた。
そしてそんな話をしているうちに、裕行はシャワールームから出てきた。それから何事もなかったかのように落ち着いた時間を過ごす暁たち。
「これって嵐の前の静けさって言うのかな……」
そんなことを呟きながら、暁は初日に隼人から言われたことを思い出し、表情が曇らせる。
あいつの悪事に協力すれば、きっと世界は本当にあいつの手に渡ってしまうだろう。ここにいる能力者はそれだけの力がある――
「たった4人の『ゼンシンノウリョクシャ』で、世界のどれだけを掌握できるんだろうな」
「何言っているんですか、先生! もしかしてもう諦めているんですか?」
優香は暁の前に立ち、眉間に皺を寄せてそう言った。
「いや、そうじゃないんだ。たった4人じゃ、さすがに世界征服なんて――」
「できると思いますよ」
「え……」
「できると思いますよ。たった4人でも。私達はそれだけの力を宿しているんですから」
「そう、なのか?」
息を吞みながら、そう言う暁。
「ええ。ももちゃんも裕行君もA級で、私はS級。そして先生に至ってはSS級。先生一人でも国を滅ぼす力があるって言われているのに、私を含めた3人もA級以上でしかも『ゼンシンノウリョクシャ』だってことなら……きっと」
「あはは……優香にそう言われると、そうなんだろうなって納得するしかないよな」
暁は苦笑いでそう言った。
「ははは。でもだからこそ、ダメなんですよ。私達が諦めたら。……世界も先生の生徒たちも、みんな救って笑顔になるんですから!」
「ああ、そうだな! ありがとな、優香。俺のこと、元気づけようとしてくれたんだな」
そう言って微笑む暁。
「先生のことは、キリヤ君から頼まれていますからね! だからみんなで必ずここを出るんです。私はまだキリヤ君と一緒にいたいですから」
優香もそう言って笑った。
「おう! 必ずな!! 俺もまたキリヤに会いたいよ」
「あはは、そこは神宮寺さんではないのですね??」
ニヤニヤと笑いながらそう言う優香。
「恥ずかしいから、そういうのやめろよ!!」
「……キリヤ君も、私のことをそう思ってくれていたらよかったのにな」
そう言いながら、俯く優香。
そうか、優香はキリヤのことを――
そんなことを思いながら、優香を見つめる暁。
こればっかりはどうにもできないからな……優香に頑張ってもらうしかない、よな――
暁はそんなことを思いながら、天井を見上げる。
「すみません、今はこんなことを言っている場合じゃ――?」
そして唐突に立ち上がる優香。
「どうした……?」
「なんだか地鳴りがしたような。もしかして、キリヤ君たちが助けに来てくれたのかもしれません!!」
優香は笑顔で暁にそう告げた。
「よっしゃ! じゃあ、俺たちは隙を見てここから出よう。きっと今なら見張りも少ないはずだ!」
「はい!」
そして暁たちは動き出す――
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