第68.5話ー① パジャマパーティー

 水蓮との入浴を終えた織姫は、水蓮を職員室に送っていた。


「今日もとっても気持ちよかったね、織姫ちゃん!」


 水蓮は正面を見ながら、織姫にそう告げた。


「ええ。そうですね!」


 織姫は水蓮の方を見て、そう言いながら微笑んだ。


「うん!」


 水蓮は前を向いたまま、そう答える。


 いつもこうなんですよね。お風呂の時や授業の時はちゃんと顔を見てくれるのに――


 そんなことを思いながら、水蓮の横顔を見つめる織姫。


 そして職員室に着くと、


「じゃあ、おやすみなさい!」


 水蓮はそう言って急いで職員室の中へ入っていった。


「おやすみ、なさい……」


 もしかしてですが……私が嫌われているだけなんでしょうか――?


 そんなことを思いながら、少しだけ悲しい気持ちになる織姫。


「はあ。とりあえず、私も部屋に戻りましょうか」


 そして織姫は自室に戻るために、女子の生活スペースへと向かったのだった。




 女子の生活スペースにて――


「私が何か嫌われることをしたのかな」


 そんなことを呟きながら、トボトボと歩く織姫。すると、


「織姫ちゃん! そんなため息ついてどうしたんです?」


 そう言って凛子が織姫の隣に立っていた。


「ああ、凛子さん……実は――」


 そして織姫は偶然会った凛子に、水蓮が自分を嫌っているのではないかという話をする。


「あはは☆ そんなことを心配していたんですかあ?」

「そ、そんなに笑わないでくださいよ! 私にとっては、かなり深刻な問題です!!」


 織姫は拳を握り、それを小さく振りながらそう言った。


「でもそれって私もですよお?」

「……え?」

「私と一緒の時も、あまり顔を見てくれないですね☆」

「そう、なんですか……?」

「はい☆」


 そうとも知らず、私は――


 そう思いながら、織姫は握っていた拳をほどいた。


「……私が考えすぎなだけってことですか。はああ」

「あはは☆ あんまり考えすぎるのも辛くなりますから。考えるのは適度にですよお?」

「はは、そうですね」

「私達にストレスは毒ですからねえ。一瞬で未来も夢も奪いかねないです」


 そう言って微笑む凛子。


 未来も夢も奪いかねない、か。私にどんな未来があるのかわからない。でも凛子さんには有名な女優さんになるっていう夢があり、それを叶えるかもしれない未来がある。夢があるって素敵だな……私だってと思うけれど、でも――


 そう思いながら、俯く織姫。


「どうしました?」


 俯く織姫を心配そうに見つめる凛子。


 それに気が付いた織姫は顔を上げて、


「あ、いえ。何でもないです」


 そう言って笑った。


「そうですかあ……」


 そう呟き、考える素振りをする凛子。


「あ、あの……?」


 何か、不快な思いにさせてしまったのでしょうか――


 そう思いながら、凛子を見つめる織姫。


「やっぱり距離感でしょうか。うーん……よし!」

「え!? 何がよしなのでしょう?」

「織姫ちゃん、今夜はパジャマパーティーをしましょう! 私はもっと織姫ちゃんと仲良くなりたいですし☆」


 凛子は満面の笑みでそう言った。


「パ、パジャマパーティー??」


 聞いたことのないワードに織姫は混乱する。


 それってどんなパーティーなんでしょう。パジャマのパーティーってことですし、きっとドレスコードはパジャマなんですよね。

 でもどこでそんなパーティーを? 今からお茶や食べ物の準備始めたら、パーティーの開始は遅い時間になってしまいます。明日も授業があるのに、そんな不健康なこと――


「織姫ちゃん? また考えすぎてます??」


 そう言って織姫の顔を覗き込む凛子。


 そして凛子の顔が近くにあることに気が付いた織姫ははっとする。


「あ、す、すみません! でも凛子さん! 今からパーティーだなんて、時間的にも健康面的にも良くないです! 明日も授業なんですよ? パーティーをするのなら、もっと事前に行っていただかないと! それに、そのようなパーティーに見合ったパジャマなんて、私持ってきていないです!!」


 織姫の若干早口なその言葉を聞き、凛子はきょとんとしていた。



「あ、あの! ちゃんと聞いていますか!?」


「…………ぷっ。あはははは!」


「な、なぜ笑うのですか!」


「だ、だって! 織姫ちゃんって一体どんなパーティーを想像しているんですかあ! もしかして、おしゃれな会場で優雅にお茶やお菓子を嗜むようなパーティーを想像しているんですかあ?」



 大笑いする凛子に困惑する織姫。


「え……だって、凛子さんはパーティーとおっしゃいましたよね?」

「い、言いましたけど、でも違いますよお。パジャマパーティーって、ただのお泊り会ってことです☆ 知らないんですかあ?」


 それを聞いた織姫は顔を真っ赤にして、


「そ、そうならそうと初めにそう言ってくださいよ!!」


 胸の前で握った拳をぶんぶんと振りながらそう言った。


「だって知らないなんて思わないじゃないですかあ☆ 同い年だから、共通認識だと思ったんですって! あはははは!」

「も、もおおお~」


 織姫は両手で顔を覆い、その場に座り込んだ。


「じゃあ行きましょう! レッツ! パジャマパーティーです☆」


 そう言って凛子は織姫の手を引いて歩き出す。

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