第68.5話ー② パジャマパーティー

 ――織姫の自室にて。


「それで、なんで私の部屋なんですか!!」

「え、ダメ?」


 凛子が首をかしげてそう尋ねると、


「べ、別にダメとは言っていません!」


 そう言って顔を背ける織姫。


「素直じゃないですねえ」


 そう言ってクスクス笑う凛子。


 そして織姫にとって初めてのパジャマパーティーが始まり、凛子と織姫はそれぞれの趣味や興味があるものをお互いに伝えていく。


「織姫ちゃんって見た目からして真面目そうだなと思っていたけど、見た目通りの真面目ちゃんなんですね☆」

「それって褒めているんですか? それとも――」

「褒めてますよお☆」


 なんだか言葉は嘘っぽいんですよね。でもさすがは元天才子役。何が真実なのか、表情からは読み取れない――


「そういえば、机にある本って……」

「え、ああこれは……将来のために、少し勉強しておこうと思って」

「なるほど! これって有名な企業の社長さんが書かれている本、ですよね! こういうのって、ビジネス本って言うんでしたっけ」


 そう言って机にある本を手に取る凛子。


「そうです。経営者としてのメンタルを学ばせてもらっているというか……まあ、跡取りの候補にすら上がっていない私が何をしても無駄なんでしょうけど」


 織姫は俯きながらそう言った。


「織姫ちゃんの夢は、家業を継ぐことなんですね☆」

「……ええ。でも、どうせ叶いもしない幻想ですけどね」

「諦めるんですか?」

「……とっくの昔に諦めたつもりでした。でもまだ無駄なあがきをしたいみたいです」

「いいじゃないですか」


 凛子の言葉に驚き、ゆっくりと顔を上げる織姫。


「無駄なあがきでもいいと思う。私だって、芸能界に残るためにあがいてもがいて……今は初めに思い描いていた道を進んでいるわけじゃないですけど、でも私もまだ諦めたくないから。私は何があっても、知立凛子でいたいから、だから無駄だって言われてもあがきますよ! 最期の、最期まで」


 凛子は織姫の顔をまっすぐ見て、ニコッと微笑んだ。


「そう、ですか……」


 凛子さんは凄い。今の道が自分の進みたい方向ではないはずなのに、それでもちゃんと自分の道にして進んでいる。私は凛子さんのように、強くはなれない……だから私は――


「織姫ちゃん!? 泣いているんですか!? すみません、私の言い方がきつかったからですよね」


 凛子はそう言ってあたふたとしていた。


「私、私は……」


 私は凛子さんのように自分のやりたいと思うことを口にできないし、行動に移すこともできない。もし私が男に生まれていたら、こんなことで悩まずに済んだのに。お父様もお母様も私を認めてくださったはずなのに――


 それから数分後、織姫は落ち着きを取り戻した。


「すみません、取り乱しました」

「ううん。大丈夫ですよ。それより……」


 心配そうに顔を覗く凛子。


「心配には及びません。ありがとうございます」

「だったらいいですけど……」

「でも凛子さんはかっこいいなって思いました。自分の道を進んでいて、そして決めたことはちゃんと遂行して。私にはとてもできないことだなって、そう思っただけです」


 そう言って微笑む織姫。


「織姫ちゃん……」


 凛子は悲しそうな顔をしていた。


 それを見た織姫は、言いたくてもまた私を傷つけると思って言い出せずにいるんだろうな――とそう思った。


「この話はもうやめましょう。せっかくのパジャマパーティーです。楽しい話をしましょうか」

「そう、ですね」


 それから凛子と織姫は他愛ない話を始めた。クラスメイトのことや先生のことなど。もちろんさっきの話題を避けながら――


「あ、そろそろ良い時間ですし、寝ましょうか」

「そうですね☆ 真面目な織姫ちゃんが遅刻なんてしたら、罪悪感でグラウンドに星が降り注ぎそうです☆」

「そ、そんなことはしませんっ! ほら、早く寝ますよ」

「はあい」


 それから電気を消し、2人は並んでベッドに寝転んだ。


「織姫ちゃん」

「なんですか?」

「おやすみなさい☆」


 凛子が織姫の方を見てそう言うと、


「はい、おやすみなさい」


 織姫は凛子に笑顔でそう答えたのだった。




 ――翌朝。2人は仲良く食堂へ向かい、朝食を摂っていた。


「なんだか一晩ですごく距離が縮まったような気がしますね☆」

「そうですか? そうだったら、いいですね」


 そう言って織姫は微笑んだ。


 本当はまだあなたに本心を話していないけれど、でも今はこのままで――


「凛子さん、今度のパジャマパーティーはいつにしますか」

「早速次のアポイントですか? じゃあ次は――」




 織姫と凛子。2人はお互いを本気で信じあうほどの距離になったわけではないけれど、今回のことでほんの少しだけ2人の距離は縮まったのかもしれない。

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