第68話ー④ 黒翼の復帰

 施設の建物裏にて――


 狂司と剛は向き合って座っていた。


「作戦はどうする?」

「うーん。剛君が特攻で突っ込んで、撃沈してきてください」


 笑顔でそう告げる狂司。


「はあ!? つーか、もっとまじめに考えろよ!!」


 そう言って狂司に食って掛かる剛。


「はいはい。えっと、剛君は先生の能力は把握されていますよね?」

「ああ」

「さっき先生が言った通り、僕は集団催眠を使えます。そして先生には通用しません」

「そうだな」

「……剛君は接近戦って得意ですか?」


 狂司は真剣な顔で剛にそう言った。


「まあ……得意かどうかはわからないけど、喧嘩は強いほうだな!」

「ちょっと心許ないですが、僕が接近戦をするよりはマシだという事は把握しました」


 顎に手を当てて、頷く狂司。


「ちょっと馬鹿にしてないか?」

「じゃあ次ですけど――」

「無視してんじゃねえ!!」


 そう言う剛を見て、ため息を吐く狂司。


「うるさいですね。時間がないんですから、サクサク行きますよ!」

「ぐっ……正論だな。それで、お前はどうするんだ?」


 剛はそう言って真面目な顔をする。


「とりあえず、僕の能力が届く2人を相手にしようかと。まあ先生たちも、きっと僕たちがそういう作戦で来るだろうって予想していると思いますけどね」


 腕を組みながら、狂司はそう答える。


「それで……その対策はどうする?」

「ふふ。こう見えて、僕はそういうことに関してはプロなので。任せてください――」


 それから狂司と剛も作戦を練り込んでいった。



 * * *



 15分後――


 作戦会議を終えた生徒たちは、グラウンドに集合していた。


「よし! 準備はいいか?」


 暁が生徒たちにそう言うと、


「おう!!」「もちろんです」


 口々にそう答える生徒たち。


「じゃあ、レクリエーション開始! 30秒数えたら、追いかけに来いよー!」


 そう言って暁たちは剛から遠ざかるように逃げていった。


「2人共、絶対に離れるなよ? たぶん1人になったところをあいつらは狙ってくるからな!」

「なんだか少し情けない作戦ですが……チャンスが来るまでは、その作戦に甘んじましょう」


 ため息交じりにそう言う織姫。


「まあまあ! でも、必ず勝ちましょうねえ☆」

「だな!!」


 そしてその場を去る暁たちだった。



 * * *



 ――グラウンドに残った狂司と剛。


「まあ概ね予想通りですね」


 走り去る暁たちを見て、狂司はそう呟いた。


「そうだな」

「じゃあ作戦通りに行きましょう」

「おう! 俺の渾身の演技力、見せつけてやるぜ!」


 そう言いながら、剛は歯を見せて笑った。その笑顔を見た狂司は、


「……あまり期待はしていませんけどね」


 ため息交じりにそう言った。


「な、なんだと――!?」

「それはともかく。ちゃんと30秒、数えていますか?」

「おう! もちろんだ!! 21、22――」


 そして数を数える剛を見る狂司。


 さて、本気の僕を見せるときですね――


 狂司はそう思いながら、暁たちが走り去った方をゆっくりと見つめる。


「――30っと……よし、いくぞ!」

「はい」


 そして30秒待った狂司たちは、暁たちを探し始める。


「まずは先生たちをみつけるところからだったな」

「はい」

「それから俺が狂司の催眠にかかったふりをして」

「そうです」

「そして先生を動揺させると」

「ええ」


 剛は走りながら作戦の確認をしていた。


 剛が一つずつ確認するごとに、狂司は適当なあいづちを打って答えていた。


 仮にうまくいかなくても、本当に君には催眠を使って操り人形になってもらうだけですけどね――


 狂司は剛にあいづちを打ちながら、そんなことを考えていた。


「――あ、いたぞ!!」


 剛は走る織姫の姿を見つけて、指をさした。


「じゃあ頼みますよ」

「おう!」


 それから狂司は、前方に見つけた織姫に向かって鴉の羽を飛ばす。


 するとそれに気が付いた暁が、織姫に届く前に鴉の羽を全て無効化で消滅させた。


「もう追いついてきたのか」


 暁は狂司たちに向かってそう告げた。


「どこかへ身を隠しているかと思ったんですけどね。僕たちもなめられたものです」


 狂司は笑顔で暁にそう告げた。


「先生、どうするんですかあ?」


 凛子が困り顔でそう告げると、


「作戦通りで行こう」


 暁はニヤリと笑ってそう答えた。


 作戦通り――?


 その作戦がどんなものなのかと狂司は頭を巡らせる。


 まあ何を仕掛けてきても、僕たちが勝ちますけどね――


「じゃあ剛君? やっちゃってください」


 狂司がそう言って口角を上げると、俯き気味の剛が無言で狂司の前に立った。


 へえ。結構上手にやるじゃないですか。どれくらいできるのか、僕は黙って見物でもしましょうかね――


「剛……どうしたんだ!」


 狼狽えながら、剛にそう言う暁。


 先生はどうやらこれが演技だと気が付いていないようですね。本当に単純で助かります――


「彼は今、僕の能力下にあります」


 狂司はニコニコと笑いながら、暁へそう告げた。


「なんだって!? お前たちは同じチームだろう! なんでそんなことを!!」

「簡単なことですよ。僕が彼を信頼するまでに至らなかった。それだけです」

「そんな……」


 暁はそう言いながら、拳を握る。


 さあ剛君。とりあえず場を盛り上げておいたので、あとは君にお任せします――


「剛! おい!! しっかりしろ!!」


 暁は剛に向かってそう叫ぶが、剛は変わらず俯いたままだった。


 そして無言で暁に向かって走り出す。


 ああ、そうだ。さっき言ったことも忘れないでくださいね。剛君――?


 そう思いながらニヤニヤする狂司だった。

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