第68話ー③ 黒翼の復帰

 ――レクリエーション当日。


 生徒と暁は動きやすい服装でグラウンドに集合していた。


「先生、スイは何してたらいい?」

「えっとな。じゃあミケさんの面倒を見ていてくれるか? 今日のレクは危ないかもしれないからな」


 暁はそう言って水蓮に笑いかける。


「わかりました! 何があっても、スイがミケさんを守ります!!」


 そう言って敬礼ポーズをする水蓮。


 本当にどこでそんなものを覚えてくるんだろうな――


 そんなことを思いながら、くすっと笑う暁。


「ああ頼んだぞ、水蓮!」

『水蓮が危ないところへ行かないように私がうまくやっておくから、暁は職務を全うするといい』

「ありがとう、ミケさん」


 それから暁は生徒たちが集まっているところに向かった。


「先生。今日って何をするんだ? とりあえず動きやすい服装で集合とは聞いたけど」


 剛は腕を組みながら、暁にそう告げる。


「おう! 今日は初心に帰って……追いかけっこだ!」

「ああ懐かしいな」


 剛は嬉しそうにそう呟いた。


「そうだろう? でもただの追いかけっこじゃなくて、今回はチーム戦で行う!」

「それで? そのチーム分けの方法は?」


 織姫が不機嫌そうにそう問いかける。


「今回は俺の独断と偏見で決めさせてもらった!」

「どういうつもりなんですか? しかも勝手にって」

「まあまあ、そんなに怒るなって! えっと、じゃあチーム分けだけど……」


 ・追うチーム……剛、狂司。

 ・逃げるチーム……暁、織姫、凛子。


「これってどんな基準で分けたんだ?」


 剛はチームを聞いてから暁にそう尋ねた。


「能力の特性かな。狂司は催眠を使えるだろ? 無効化の俺は効かないけど、他の生徒たちは普通にかかるよな? だから俺と狂司は別である必要があった」

「まあ、そうですね」


 狂司はそう言って頷く。



「凛子も織姫もS級能力者ではあるけれど、能力を抜けば男の剛と比べて、力の差が出ることになるだろう。だから――」


「女だからって、馬鹿にしないでくださいませんか? 私は確かに女ですが、男性にだって引けは取りません!! それに、それは男女差別ですっ!!」



 織姫は声を荒げて怒りをまき散らす。


「わ、悪い……」

「まあまあ織姫ちゃん、落ち着いてくださいな。先生のことだから、別の理由があるんですよお。ね、先生?」


 凛子はそう言って、暁にウインクを飛ばした。


「あ、ああ……」

「ふん。知りません。この人の言う事なんて信じたくありませんっ!!」


 そう言ってそっぽを向く織姫。


 後でちゃんと理由を説明しないとな……聞いてくれるかどうかはわからないけど――そう思いながら、苦笑いで織姫を見つめる暁だった。


「あ、えっとじゃあ、開始は15分後。それまでは各チームでミーティングだ!! いったん解散!!」


 それから剛と狂司は暁たちから離れた場所でミーティングをすべく、どこかへ歩いていった。


 ――あいつらがこのレクリエーションをきっかけに仲良くなれたらいいけどな。


 暁は歩いていく剛と狂司を見ながらそう思ったのだった。


「それで、先生? 今回のレクリエーションにはどんな意味があるんですかあ?」


 凛子はニヤニヤしながら暁にそう問いかける。


「あ、ああ。実は今回のレクリエーションで狂司と剛が仲良くなれたらいいなって思ってさ」

「あ、なるほど……」


 そう言って、ポンっと手を打つ凛子。


「それで2人でチームを組めば、お互いのことをもっと分かり合えるかなと思ってな」

「確かに。まあ先生の考えそうなことですねえ☆」


 凛子は頷きながらそう呟いた。


「あははは」


 凛子はわかってくれたみたいだな。じゃあ、あとは――


「だから織姫、さっきは悪かったな。女だからって理由でチーム分けをしたわけじゃないんだよ」


 暁はそう言いながら織姫の方を見る。しかし、織姫は暁から顔を背けたままだった。


「――俺は織姫が女でも、俺より優れていることは知っているし、それに将来のためにっていつも頑張っていることも知っているから」


 暁はそう言って微笑んだ。


「……」

「織姫ちゃん? こういう時は、素直になったほういいですよ?」


 凛子の言葉にぴくっと肩を揺らした織姫。そして――


「……が、頑張っているって、そんな上から目線な発言は聞き捨てなりませんが……あなたの意図は理解しました。私も深く考えず怒ってしまって、す……すす」

「す?」


 首をかしげる暁。


「すすっ、すみませんでした……と、でもいうと思いましたか? 勘違いも肌肌しいですね!」


 顔を赤くしながら、織姫は暁の方を見てそう言った。


「お、おう」

「あははは。織姫ちゃんは相変わらずツンデレさんなんですから」

「ツンデレじゃ、ありません!!」


「あー、はいはい」と凛子は適当に織姫をあしらうと、


「じゃあ話も落ち着いたことですし、作戦会議と行きましょうか☆ 私、負けるのは嫌いですからね?」


 ニヤリと笑いながら、暁と織姫にそう告げた。


「そうだな。俺も負けない!!」

「ふ、ふん。あんなか弱そうな男どもなんかには、絶対に負けません!」

「2人共、その調子です! じゃあ作戦ですけど――」


 それから暁たちは作戦会議を開始したのだった。

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