第63話ー① 夢に向かう者たち
冬の寒さがすっかりとなくなり、桜のつぼみが膨らみ始めた頃。
今年度卒業する生徒たちの卒業の日が近づいていた。
「またさみしくなるな……」
そんなことを呟きながら、教室を見渡す暁。
「毎年のことですが、先生も相変わらずですなあ」
そう言って笑う結衣。
「だってさ……本当のことなんだから仕方がないだろう? それに、結衣もまゆおも真一も……俺がここに来たときからここにいたから、長い付き合いになるわけだし……」
肩を落としながらそう言う暁。
「そういえば、僕たち3人の方がここでの生活は先輩でしたね!」
「確かにそうですな!」
笑いながらそう言うまゆおの言葉に、結衣はそう言ってポンと手を打った。
「初期メンバーはこれでみんないなくなっちゃうわけですか。それは確かに寂しいと思うのもわかりますです!」
「だろ……?」
ため息交じりにそう言う暁。
「でも今は織姫ちゃんもりんりんもおりますし、それにかわいい愛娘の水蓮ちゃんもいるじゃないですか。きっとこれからも変わらず楽しい場所であると私は思うのです」
「そうですよぉ。私が1人いれば、生徒100人分くらいになります☆」
凛子はそう言って、ウインクをした。
「それはないだろ……」
しおんがボソッとそう呟いた。
「しおん君? 言いたいことがあるのなら、もっと大きな声で言ってくれませんかあ?」
「……はっ! 寝てた!! で、凛子は俺に何か言ったか?」
しおんは白々しい顔で凛子にそう告げると、
「最後の最後まで腹立たしいですねぇ。無能力者をいたぶるのはいかがなものかと思いますが、きっと神様は私のことだけ見逃してくれますよね☆」
凛子はそう言って、にっこりと笑う。
「わ、悪かったって! さすがに死ぬから!! 本当にやめてくれ!」
「あらあら。いつから『謝罪』というものを覚えたのでしょうね、しおんくぅん?」
そう言って立ちあがる凛子。
「はああ? それくらい俺だってできるし! 俺、ガキじゃねえし!!」
しおんもそう言って勢いよく立ち上がると、2人はにらみ合った。
「こらこら! お前たち、いい加減にしろって!!」
「「ふん」」
しおんと凛子はそう言ってそっぽを向いた。
まったく、この2人は――
そう思いながらため息をつく暁。
しおんも凛子も口ではああいう癖に、ちゃんとお互いのことを見守っているんだよな――
そして暁はしおんと凛子を交互に見て、微笑んだ。
この光景も4月からは見ることもないのか、と思うとやっぱり少し寂しい気持ちになる。でも4人はそれぞれの夢に向かって旅立つんだ。だからちゃんと見送ろう。それが卒業する4人にできる最善のことだから――。
そして暁たちはいつもの授業を終えたのだった。
夕食後。
片付けを終えた暁は水蓮が結衣とお風呂に行っている間に、報告書をまとめていた。
「これで、よしっと……今日の仕事は終わりだー」
そう言って背伸びをする暁。
そういえば、キリヤにも結衣たちの卒業のことを知らせておこうかな――
そう思った暁は、キリヤにメッセージを送る。
『久しぶり、キリヤ! 元気にしてるか? もうすぐ結衣たちが卒業なんだよ。時間の流れは早いよな。
それでさ! 外に出たら、みんなそれぞれの夢のために頑張るんだって言っていたよ!!
3月まではいるって言っていたし、会いに来てくれてもいいからな! じゃあ、仕事頑張れよ』
「これでよしっと……キリヤ、どんな反応をするかな。近々、真一たちに会う! って言って施設に来るかもしれないな」
そう呟きながらニヤニヤする暁。
すると、ミケが暁の足元までやってきて、
『暁、この間の件はどうなった?』
と尋ねた。
「あ、そうだったな。そういえば、あれから所長から何の音沙汰もないな……」
『やれやれ。あまり時間はないと言っただろう? 早めに蜘蛛の少女に合わせてほしいものだな』
ミケはため息交じりにそう言った。
「わ、わかったよ! とりあえずキリヤに連絡もしたし、返信が来たらその時にキリヤから所長と優香に伝えてもらうさ」
『頼んだぞ』
そう告げて、ミケは暁の自室へと入っていった。
「でも所長が俺との約束を忘れるなんて……忙しいのかな」
とりあえず今はキリヤからの返信を待とう――そう思った暁だった。
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