第61話ー① ずっと一緒だ!

「え……それってマジか!?」


 しおんはスマホを耳に当てて、電話の主が言った言葉に驚いていた。


「俺たちが……なんだって??」

『だからね! 僕たちの所属している事務所の社長が『はちみつとジンジャー』を気に入ったみたいでね!! 所属しないかって言ってるんだって!』

「……」

『兄さん??』


 嘘……だろ!? こんなチャンスが巡って来るなんて――!


 それからしおんは冷静になり、能力が消失していない真一の顔を思い出した。


 この話を聞いた真一は、なんて言うかな――。 


「ありがとうな、あやめ。とりあえず真一に聞いてみるよ。返事はそれからでもいいか?」

『うん。……でもいい返事を期待して待ってるね! じゃあ、また』

「ああ、うん」


 そして通話を終えたしおんは、持っていたスマホをそっと机に置いた。


「そっか。俺たちが……」


 それからベッドに飛び込み、ふとんに顔をうずめて、


「うわあああああああああ!!」


 と力いっぱい叫んだ。


 それから足をバタバタして、両手で布団をぎゅっと握る。


 まさか、スカウトが来るなんて――


 しおんはそう思い、嬉しくてたまらなかった。


 少し前の自分はあやめと比べてばかりで、こんな未来が待っているなんて思いもしなかった。これも最高の相棒と出会えたおかげだな――としおんはそう思った。


「やっとスタートラインか……」


 そしてしおんは真一のことを想い、真剣な顔になる。


 俺たちは2人でやっていくって決めた。だから俺、1人じゃ決められないよな――

 

「能力のこともあるから、真一はもしかしたら断るかもしれない。でも俺は……」 


 2人で決めた道なら、どんな答えでもいい――!


 しおんはそう思って笑っていた。


「とりあえず早くこのことを真一に伝えないとな!!」


 そしてしおんは勢いよく身体を起こし、真一の部屋に向かうのだった。


 

 * * *



 ――真一の個室。


 真一は自分の能力を使って、周囲に漏れないよう声をかき消しつつ、オリジナル曲の練習をしていた。


「~♪」


 それから一曲終えた真一は、能力を解除して机にあるしおんお手製の『はちみつジンジャードリンク』を飲んだ。


「今回の新作、いい味出してるじゃん。さすが、あやめ」


 しおんの言う通り、あやめって何でもできるんだなと感心していた。


 すると、部屋の扉をノックする音が聞こえる。


「誰?」

「俺だよ! しおん!!」


 そして真一は部屋の扉を開けた。


「どうしたの? こんな時間に」

「どうしても伝えたいことがあって! 部屋、入っていいか?」


 ややテンションの高いしおんを見た真一は、きっと何かいい話を持ってきたのだろうと察した。


「わかった」


 真一はそう言って、しおんを部屋に招き入れた。


「それで何があったわけ?」


 真一はベッドに座ってからしおんにそう言った。


「実はな! あやめから――」


 そしてしおんはあやめから聞いた事務所所属の話を真一にする。


「へえ。あやめのとこの社長さんが……」

「どうする、真一?」


 しおんは真剣なまなざしで真一にそう告げる。


 こんなチャンス滅多にない――そう思った真一は、


「その話、受けよう。僕たちの夢に近づくためにできることをやった方がいい」


 しおんの目をまっすぐに見てそう答えた。


 そしてしおんは満面の笑みを浮かべた。


「じゃあさっそくあやめに伝えておくぜ!!」

「うん。よろしくね」

「おう!」


 そう言ってしおんは真一の部屋を出て行った。


「夢への一歩、か」


 真一はぽつんとそう呟いた。


 でも、僕はここから出られるのか――そんな不安が頭をよぎり、暗い表情になる真一。


「今は考えても仕方ないこと、だよね。きっと大丈夫。僕は1人じゃないから……」


 そして両手で顔をぺちんと叩き、立ち上がる真一。


「そうだよ。今はできることをしよう」


 それから真一は再び歌の練習を始めたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る