第53話ー③ 風向き

 ――職員室にて。


「また記事が増えてる……」


 暁はそんなことを呟きながら、PCとにらめっこをしていた。


「真一のスキャンダルか……でもこれはひどすぎだろ」


 データを読んで真一の過去を知っている暁だったが、読んでいたその記事は真一が不利になる一方的なことばかり書かれていた。


『あの子がいると家族が不幸になる』や『関わった叔父も不幸な事故で他界した』など、内容も妙にリアリティがあるものばかりだった。


「どうしたもんか……こういう時は下手に騒いでも、逆効果なんだろうな」


 ――ブーッブーッ


 暁は振動するスマホを手に取り、画面に触れる。


「奏多からメッセージか。……おお! 日本での講演の日が決まったか!!」


 その朗報は悶々と悩む暁の心を軽くしてくれた。


「電話でも……いや。奏多もいろいろと忙しいかもしれないよな。でもたまには俺から連絡するのも――」


 ――ブーッブーッ


「着信……って奏多から!?」


 奏多は俺の心でも読めるのだろうか――そんなことを思いながら、その電話に応じる暁。


「はい」

『暁さん? こんにちは。奏多です』

「お疲れ様。メッセージ読んだよ。おめでとう、奏多!」

『うふふ。ありがとうございます! 暁さんのことだから、電話するかどうか悩んでいる頃かなと思いまして』


(さすがだ……俺のことをよくわかっているな、奏多は)


 そう思いながら、暁は頭をかいた。


「その通りだよ、あはは」

『うふふ。それと、何か悩まれています? いつもより元気がないように思えたので』


 声色だけで自分の健康状態に気が付く奏多に驚いた後、暁は自分の悩みを打ち明けることにした。


「奏多には隠し事はできないな。その通りだよ。ちょっと、いろいろとあって」

『聞きましょう』


 そして暁は真一のスキャンダルのことを奏多に伝える。


『なるほど』

「何とかしてやりたいのに、今の俺に何ができるのかわからなくて……」

『うふふ。そうやって悩むのも優しい暁さんだからこそ、ですね。でもあなたはあなたらしくいてください。大丈夫、きっといい方向に進んでいきますから』


 奏多は優しい声で暁にそう告げた。


(俺、らしく……。前に白銀さんと所長も言っていたな――)


 かつて剛のことでふさぎ込んでいた自分に掛けられた言葉を思い出す暁。


「ありがとう、奏多。そう言ってくれて嬉しいよ」

『いえいえ。感謝をしないといけないのは私の方です。今があるのは暁さんがいてくれたからです』

「俺も奏多がいてくれたから、今がある。だからお互い様だな」

『ええ』


 それから暁たちは他愛のない話を楽しんだのちに通話を終えた。


「俺らしく、か。そうだな!」


 俺が悩んでも仕方がない! こういう時は明るくなることをするんだ――。


 そう思った暁はとあることを思いつく。


「そうだ! 俺と言えば、レクリエーションだ!!」


 そして暁は少しでも真一を元気づけられるようにとレクリエーションを企画することにしたのだった。




 翌日。暁は食堂でレクリエーションのことを生徒たちに話した。


「という事で!! 学園祭代わりに、それぞれの趣味や特技を発表する会をやろうと思うんだが……どうだ!」


 話終えた暁は食堂を一望して、生徒たちの顔を見る。すると生徒たちの顔は楽しそうな笑顔をしていた。


「いいですなあ! やりましょう!!」


 結衣はそう言って立ち上がる。


「ああ、楽しそうだ!! 俺たちのオリジナル曲も増えたし、みんなに聴いてもらいたいよな!」


 しおんはそう言いながら、真一の顔を見て微笑んだ。


「うん。そうだね」


 真一はそっけなく返すも、その表情は楽しみであふれているようだった。


「凛子と織姫はどうだ?」


 暁は凛子と織姫にそう問いかける。


「もちろん賛成ですよお! りんりんのスペシャルステージを見せちゃいます☆」


 凛子は目の前でピースをしながらそう言った。しかし織姫は俯いてしまう。


「織姫ちゃん?」


 結衣は心配そうに織姫の顔を覗き込む。


「私、何もない……」

「じゃあ織姫ちゃんは私と一緒に何かをやりましょう! せっかく学園祭みたいなレクリエーションなんですから、みんなで一緒に楽しみましょう」


 結衣はそう言って織姫に微笑みかける。


「一緒に、楽しむ……」


 小さな声でそう呟く織姫。そんな織姫を見て、結衣は不安な表情になる。


「いや、ですか……?」


 結衣がそう言うと、織姫は全力で首を横に振る。


「そんなことないです! 一緒がいい!」


 そう言って織姫は微笑んだ。


「なんだか楽しそうですねえ。じゃあ私も混ぜてください! 女子で何か出し物をしましょ☆」

「お! いいですなあ! 楽しそうでござるー、ね? 織姫ちゃん??」

「はい!」

「よし! じゃあ全員一致みたいだな! それじゃあ3週間後、レクリエーションだ!」

「おー! なのです!!」


 それからレクリエーションまでの3週間、生徒たちはそれぞれの出し物の準備を進めていた。


 女子たちは授業後に食堂で話し合いを、しおんと真一はいつものように自室で歌の練習。そしてまゆおは屋上で素振りをしていた。


「みんな、楽しみにしてくれているみたいだな」


 食堂をこっそりと覗き込みながら、暁はそんなことを呟いていた。


「これで真一の不安も少しは消えてくれるといいけどな……」


 そんなことを呟きつつ、きっと今頃しおんと歌練を楽しんでいる真一を思い浮かべていた。


 きっとイキイキと歌っているに違いない。真一はしおんと出逢って、誰かと過ごす喜びを知ることができただろうから――。


「どうせなら、俺も何かやろうかな! 俺もみんなと盛り上がりたい!!」


 それから暁は自室に戻り、自分が出来そうなことを考えたのだった。


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