第51話ー① 俺たちの歌

 6月。窓の外を見ると、しとしとと雨が降り続いていた。


「もう梅雨か。季節が巡るのは早いなあ」


 そんなことを思いつつ、暁は職員室の窓から外を見つめていた。


 そんな静寂な時を過ごしていると突然――


「ええええええええ!?」


 結衣の叫び声が廊下に響き渡った。


「な、なんだ!? あの声は結衣だけど……どこから?」


 それからしばらくすると、ものすごい勢いで結衣が職員室に入ってくる。


「先生!! 大変です!! 一大事です!!」


 開口一番、結衣は暁にそう告げた。


「ど、どうしたんだ!? それにさっきの叫び声も。何かあったのか??」

「実は……」

「実は……?」


 暁は結衣の言葉に息を飲む。


 一体に結衣に何があったって言うんだ?


「能力が発動しなくなったんです!」

「え…………な、なんだって!?」

「み、見ていてくださいね? ふぅぅ。ふぬぬぬ……」


 結衣はいつもの要領で子供たちキャラクターを出そうと両手に意識を集中させているようだが、何も起こらない。


「本当に能力が……!?」

「ええ!! たぶん!」

「おおお、そうか! よっし! じゃあ所長に連絡して、さっそく検査をしてみよう!」

「はいっ!」


 それから数日後。暁は結衣と共に研究所へ行き、検査をすることに――




「うん。確かに能力の消失がみられるね!」


 所長はモニターを見ながら、暁と結衣にそう告げた。


「よかったな、結衣!!」

「ふわあああ。ありがとうございます!」


 結衣はそう言いながら、ぴょんぴょん跳ねる。


「じゃあまた能力消失の報告を政府の方にしておくから、また通知書が来たら施設の方へ送っておくよ。おめでとう、結衣君。君は君の好きな未来を歩んでくれ」


 所長はそう言って、結衣に優しく微笑んだ。


「ありがとうございますです! 流山結衣、夢に向かって頑張ります!!」


 そう言って結衣は敬礼をして見せる。


「ああ、応援しているよ」


 その後、施設に戻った暁たちは結衣の能力消失を他の生徒たちに伝えた。


「能力はなくなりましたが、3月まではよろしくですよ!!」


 結衣はそう言って、みんなの前で頭を下げる。


「おめでとうございます、結衣さん。春からいなくなってしまうのは少し寂しいですが、これで心置きなく夢を終えますね」

「これからの演技指導はもっとスパルタでいきますね☆ 今後のために!」


 織姫と凛子、それぞれが結衣に声を掛けた。


「僕たちの学年では、結衣ちゃんが一番だね! おめでとう」

「まゆお殿! ありがとうございます! まゆお殿もきっともうじきですよ!」

「あはは。そうだといいけどね」


 そう言って笑うまゆお。


「俺たちも早く能力を消失させないとな」

「……そうだね」


 しおんと真一はその場でそんな会話をしていた。


 暁は結衣の能力消失を知った生徒たちのそれぞれの反応を黙って見ていた。


 それぞれ思うことはありそうだけど、何はともあれ! 1人でも能力の消失者が出たのは嬉しいことだ。


 これで自分もきっとと思ってくれれば、連鎖的に消失は起こるかもしれない。来年度から人数が減ってしまうのは寂しいが、生徒たちの未来が繋がるのはやはり嬉しいな――と暁はそう思っていた。


(まゆおも真一もしおんも。それぞれが夢を持っている。結衣だけじゃなく、その3人も能力消失で未来が繋がればいいな)


 そんなことを思いつつ、暁は教室の生徒たちを見守った。



 * * *



 結衣の能力消失から数日後――。


 今日もしおんの部屋で真一としおんは練習をしていた。


「~♪」

「よしっ! 今日も気持ちいいぜ!」

「最近、調子いいみたいだね」


 真一はそう言ってから水を口にする。


「おう! GWに観たあやめたちのライブから刺激をもらってさ。それからずっと練習していたからな!」


 笑顔でそう答えるしおん。


「へえ。そっか」

「そういう真一も調子いいんじゃないか?」

「僕はいつもと変わらない」

「そうかあ? 真一もライブを観ていた時、結構興奮していたような」


 しおんが意地悪そうに真一へそう告げると、真一は少し照れながら、


「うるさい。無駄口叩く元気があるなら、次の曲行くよ!」


 そう言って歌う準備を始める。


「へいへい」


 それからまた数時間。2人は練習を続けた。


「ううう……さすがにこんながっつり練習すると、疲れるなあ」

「そうだね」

「喉、辛くないか? ほら! いつものはちみつジンジャードリンクあるぞ」


 そう言って机にある水筒を指さすしおん。


「うん。ありがと」


 そして真一は近くに置いてあった紙コップを一つ取り出して、その水筒からはちみつジンジャードリンクを注ぎ、口に運んだ。


「俺たちはいつになったら能力がなくなるんだろうな」


 しおんはそんなことを呟く。


「さあね」


 しおんの問いにそっけなく返す真一。


「このまま能力が無くならなかったら、真一はどうする?」

「……そんなことにはならないから。僕の能力は絶対になくなる。そして僕は世界一のミュージシャンになる。しおんと一緒に」

「真一……お前~!! 嬉しいことを言ってくれるじゃんか!! そうだよな! なろうな、2人で!! 世界一のミュージシャンにさあ!!」


 そう言って真一に抱き着くしおん。


「そういうのうざいって」


 真一はそう言いながらしおんを振りほどいた。


「真一からそう言ったんだろう? もう、素直じゃないんだからっ!」

「や、やめてって、そういうの!! 僕は仕方なくしおんと一緒にやってやるって言ってんの!」


 真一は顔を真っ赤にして、声を荒げながらそう言った。


「あははは!」

「もうっ!」


 真一はそう言いながら、部屋を出て行った。


「2人で一緒に……か。ふふ。そうだな!」


 そう言いながらしおんは、真一の出て行った扉を見て笑っていた。

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