第50話ー① おかえり
マリアが3月に卒業してから1か月。
今年は一斉検査でS級クラスの生徒がいなかったため、転入生は入ってこず、進級した生徒たちとの静かな新学期が始まっていたのだった。
そして暁は静かな教室を眺めながら、また随分と人数が減ったな――と寂しく思っていた。
あれ、また俺は一年前と同じことを思っているぞ……?
そう思うのも仕方がないのかもしれないなと生徒たちを見つめながら、そう思う暁。
今、この施設に残る生徒は暁が来るより前にいた真一、まゆお、結衣。そして昨年転入してきたしおん、織姫、凛子の6人。
そして今年高校3年生になる真一、まゆお、結衣、しおんはあと1年でこの施設を出て行ってしまうだろう。4人とも能力の消失はまだだが、おそらく時間の問題なんだろうな――暁は寂しそうな顔でそう思っていた。
そうなると、
「来年には2人か」
暁はため息交じりにそう呟いた。
「そんなにしみじみ言わないでくださいよ、先生! 私達の心はずっとこの施設に置いておくんで!」
暁の大きな独り言に、結衣がフォローするようにそう答えた。
「ははは。ありがとう」
暁は結衣に笑ってそう返した。
「あ、そういえば。神宮寺さんが帰ってきているってきいたんですが」
まゆおは思い出したように暁にそう言った。
「ああ。編入準備とかで少しバタバタしているみたいだ。今度の連休で顔を見せに来るって言っていたよ」
暁がそう言うと、教室のどこかからガタンと椅子が倒れる音がした。その音に驚いた暁はその音の方に目を向けると、その音の正体が暁の話に驚いた織姫が立ち上がった音だったことを知る。
「織姫、どうした?」
「か、かかか奏多、ちゃんが……」
織姫の奏多に会えるという喜びをその表情や言葉から理解する暁。
(そうだよな、そりゃ嬉しくてそんな反応をしたくなるよな)
織姫を見ながら、暁はそんなことをしみじみと思っていた。
「織姫。嬉しいのはわかるけど、今は授業中だから座ろうな」
暁が織姫をそう言って諭すと、
「こ、子ども扱いしないでよ!! ふん!」
そう言ってそっぽを向きながら座る織姫。
それを微笑ましく見つめる結衣とまゆお。
織姫がそんなに喜ぶのは無理もない。だって織姫は俺と同じかそれ以上に奏多のことを思っているんだから――そんなことを思いつつ、ぷりぷりする織姫を見つめる暁だった。
それから暁たちはいつものように授業を終える。
* * *
5月。長期休暇がやってきた。
「久々の長期休暇だー!!」
しおんはそう言って、嬉しそうに朝食を摂っていた。
「そうは言っても、勉強しないだけでやることは一緒でしょ。ご飯食べたら、練習だからね」
「わかってるって!! この連休でたくさん練習してレベルアップだぜ! それと『
「うん。そうだね。ささっと食べていくよ」
「おう!」
そう言ってしおんと真一はいつもより早く箸を動かしていた。
「りんりんと織姫ちゃんは何をして過ごす予定なのですか?」
結衣は隣にいる織姫と正面に座る凛子にそう問いかけた。
「私はお仕事ですねえ。配信番組のリモート出演とか。あとは今度のオンラインライブの練習やらなんやらで……あっという間に終わりそうですねえ」
凛子はご飯を食べながら、楽しそうにそう答えていた。
「りんりんは充実しそうな連休ですね! 織姫ちゃんは?」
「私は……奏多ちゃんとたくさんおしゃべりしたいなって」
織姫はもじもじとしながら、結衣にそう告げる。
「そういえば、今日のお昼に来るんでしたよね!! 今夜は泊まりでしたっけ?」
「はい。だから。これまでのことをたくさん話したいって思っていて」
「そうですか、そうですか。それはそれで充実した休みになりそうですな!」
「ええ。そうですね。でもそういう結衣さんは、何をするんですか?」
織姫が結衣にそう尋ねると、待っていましたと言わんばかりの顔で結衣は答える。
「私は『コトダマ戦争』という最近ハマったアニメを一気見しようと考えているのですよ!」
「またなんか物騒なタイトルですねえ」
凛子はあきれ顔でそう言った。
「いやいや! 一見物騒に感じますけど、タイトルでは語れないほどの深いテーマが隠されていてですな――」
「ごちそうさまでした♪」
凛子は結衣の言葉を遮るように手を合わせてそう言った。
「じゃあ私はこれで! 2人共、素敵な休日にしてくださいねえ」
そう言ってから、凛子は食器を片付けて食堂を出て行った。
「あらら、行ってしまいましたか。りんりんに『コトダマ戦争』の魅力を語ろうと思ったのですが……まあまた今度にしましょう! それでその『コトダマ戦争』ですが!」
「私もそろそろ!!」
そう言って織姫は立ち上がる。
「えーー。まあ皆さん、お忙しいという事ですよね」
そう言って口を尖らせる結衣。
「ははは……では、結衣さん。素敵な連休を」
そして織姫も食器を片付けて食堂を出て行った。
「みんな充実しているようで……」
気が付くと、結衣は食堂に独りぼっちだった。
「やっぱりマリアちゃんがいないのは少々さみしいですな」
それから結衣も食器を片付けて自室に向かった。
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