第46話ー⑤ しおんとあやめ

 暁は授業中、真一たちのことをどうするか考えていた。


 一時的なことだったらいいけど、でも解散が本気だったらどうするべきか……そもそも真一がそう言った原因は何なんだ? その理由を聞かないことにはこの問題の答えは出なさそうだな――。


 暁はそう思いながら、ふと真一としおんに視線を向ける。


 真一はいつも通りにノルマをこなしているようだったが、しおんはうわの空で手が進んでいないようだった。


 このままじゃ、学業にも影響が出そうだな……早めに解決しないと。


「はあ」


 そう思いながら、深い溜息をつく暁だった。




 授業後。暁は真一がいつもいるグラウンドに生える大きな木の下に向かった。


「お。やっぱりここだな」


 真一は今日もヘッドホンをつけて、木の下で寝転びながら音楽を聴いているようだった。


 ヘッドホンをしている真一にどうやって声をかけようかと暁が悩んでいると、真一はヘッドホンを外し身体を起こした。


「何?」

「あ、ああ。よくわかったな、俺が来たって」

「風が途切れたから。誰か近くに立っているなと思って、目をあけたら先生がそこにいただけ。それで? 僕に何か用?」


 さすが風の能力者だな。風で人の存在を察知するとか、ちょっとかっこいい! と暁は心の中でひそかにそう思ったのである。


「ああえっと、しおんと昨日何かあったのかなって思って」

「それ、先生に関係ある?」


 やっぱり一筋縄じゃ行かなさそうだな――そう思いながら真一の顔をまっすぐに見つめて、暁は真一に答える。


「あるさ。お前たちに何かあれば、それは俺の責任になる。俺はお前たちの教師なんだ。この施設にいるうちはお前たちの問題も俺の問題みたいなものだ」

「じゃあここを出た僕らはもう赤の他人だと」


 真一は冷めた視線で暁にそう告げた。


「そ、そんなこと言ってないだろう!!」

「ま、いっか。まゆおからなんとなく聞いているんでしょ? しおんと音楽活動のことで喧嘩した。ただそれだけ」


 そう言って暁から視線を外す真一。


「解散するって聞いたけど……」

「しおんが今のままなら、それも視野に入れるってだけ。まだ解散してはいない」

「そうなのか?」

「そう。というか、僕に理由を聞いたって何にも答えは出ないよ。問題なのはしおんなんだから」


 真一の言う通り。真一は今日もいつも通りだけど、しおんは最近様子がおかしい。一体、しおんは何を悩んでいるんだろう。


 暁は「うーん」とうなりながら、そんなことを思っていた。


「それで? 用事は済んだの?」

「え? あ、ああ」

「じゃあ僕はこれで」


 そう言って真一は立ち上がり、建物に向かって歩き出した。


「聞くべきはしおんか……」


 でもなんだかんだで真一はしおんと音楽をやっていることを楽しんでいるんだな。口では解散だといいつつも、すぐにそうしないのはやっぱりしおんと一緒にやりたいと思っているからなんだろう。


 そう思って、ふふっと笑う暁。


「じゃあ、次はしおんか……」


 でもしおんって普段どこで過ごしているんだろうな――と首をかしげる暁。そして手をポンと打つと、


「まあこの施設のどこかにはいるはずだし、探すしかないな」


 そう言って暁は建物の方へと向かった。

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