第43話ー⑦ 思い出の地へ
エントランスゲートの前まで来た暁は、やっと自分の家に戻って来たんだなと思いながらエントランスゲートを見つめていた。
「21時か……だいぶ遅くなったな」
そして暁はゲートの顔認証システムを潜り、施設内へ入った。
暁が建物の方を見ると、ところどころに電気が灯っており、生徒たちがそれぞれの自室にいることが確認できる。
「また今日から俺はここで教師をやっていくんだな」
そんなことを呟いてから、暁は建物の中へと入っていった。
荷物を自室に置いた暁は、買ってきた土産を持って食堂へ向かった。
「何か食べるものはあるかな……帰りにどこかで食べてくればよかったんだけどさ」
暁は腹をさすりながらそう呟き、食堂にあるキッチンスペースを覗いた。そしてそこには『先生の分』と書かれている紙が貼ってある皿があり、その中にはから揚げとサラダが盛り付けられていた。
「これって、誰の字だろう? 見たことないな」
暁はその紙に書かれている字を見ながら、そう呟いた。
こんなにきれいな字を書けるのって……まあ取り置きをする性格を考えたら、きっとマリアなんだろうけど、でもこんな字だったかな――
暁はそんなことを思いながら、その皿を手に取り、電子レンジまで持っていく。
「何にしても、ありがたいな……」
それから食事を終えた暁は、後片付けを終えてから食堂を出たのだった。
「ああ。腹もいっぱいになったし、明日からの授業の準備をしてから寝ようかな」
暁はそう言いながら、廊下を歩いていた。
「あ、あれは」
そして反対の方向からまゆおが自分の方向に向かって歩いて来る姿を見つける暁。
「よ、まゆお!」
暁はそう言って、右手を上げると、
「あ、先生。もう戻られていたんですね。おかえりなさいです」
そう言って、まゆおは頭を下げた。
「ただいま! 施設をあけて悪かったな。何も変わりなかったか?」
「あ……ええ。まあ、はい」
そう言いながら、まゆおは苦笑いをしていた。
そんなまゆおをみた暁は、この数日できっと何かあったんだろうなと察した。
(まゆお、大変だったんだろうな……でも解決しているみたいだし、俺が何か言う事もないだろう)
きっといつものしおんと凛子の言い合いや真一との些細な喧嘩ってところだろうな――と思いながら、暁はクスッと笑った。
「まあ、何もなかったなら、よかったよ! ありがとな、まゆお」
「いえ、僕は何も……」
まゆおはそう言って申し訳なさそうな顔をした。
(何も起こさずに過ごすことができなかったことを気にしているのかもしれないな……)
暁はまゆおの顔を見ながら、ふとそんなことを思う。
そして、
「いつもみんなを見守ってくれているじゃないか。俺はそれに助けられているよ。だから、ありがとう!」
笑顔でまゆおにそう告げるのだった。これが少しでもまゆおの自信につながるといいな――という思いを込めて。
「えへへ……そう言ってもらえると、なんだか照れますね。でもありがとうございます!」
そう言って、照れ笑いをするまゆお。
まゆおは本当によく笑うようになったなあと暁はその笑顔を見ながら思ったのだった。
「そういえば、実家はどうでした?」
「あはは……実はさ……」
そして暁は自分が見てきたことをまゆおに伝えた。
「え!? 実家が無くなっていたなんて……しかもご両親も……」
そう言ってまゆおは俯いた。
「はは。驚くよな! でもさ、あっちの友人と妹に会えたんだよ。それにいろんな話も聞けた。だから行ってよかったなって俺は思ってるよ」
暁はそう言ってニコッと微笑む。
そしてその言葉を聞いたまゆおは顔を上げて、
「そうなんですね! 先生が楽しめたのなら、よかったです」
ほっとした表情でそう答えたのだった。
「おう。ありがとうな!」
それから暁はまゆおと一言二言交わしたのちに別れたのだった。
「ふわあああ。眠いな……準備をササッと終わらせて、今夜は早めに寝よう」
そして暁は自室に向かったのだった。
思い出の地を訪れて、家族のことを知った。それは悲しい現実だったけれど、美鈴は前を向き、父さんも母さんも俺のことを思い続けてこの世を去ったことを知ることができた。
そして他の兄妹たちもそれぞれの人生を歩み始めている。翔のことは少々不安だけど、きっと大丈夫なんじゃないかとそう思っているよ――。
「俺も頑張らなくちゃな」
そう呟いた暁は、両親からの手紙と父からもらったネクタイを兄妹たちからのプレゼントボックスの隣にそっと置いたのだった。
施設内、廊下。
暁と別れたまゆおは、大浴場へ向かって歩いていた。
「先生、楽しんできたんだね」
そう呟いたまゆおは足を止めて、窓から見える月を見つめた。
「家族……か」
まゆおはボーっと月を見つめていた。
「父さんや兄さんたちは、今どうしているんだろう……」
そしてまゆおは再び大浴場に向かって歩き始めたのだった。
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