第42話ー② 父と娘
翌日。暁はいつもと同じ時間に食堂へやってきた。
「ふわあああ。眠いな……」
そう言って暁は目をこすりながら、あくびをする。
「今日の授業に支障が出なきゃいいけど」
暁がこんなに眠たいのにはわけがあった。そう。それは昨夜、暁がそろそろ眠ろうかと布団に入ると――
『ピコン』とスマホの通知音鳴る。
「ん? なんだ……」
そして暁はスマホの画面にタップして、その通知を確認する。
「奏多からのメッセージか」
それから暁はその奏多からのメッセージを開く。
『先生……大事なお話があります』
メッセージにはその一言だけが書いてあった。
「!? これは……!」
まさか奏多の身に何かあったんじゃ!?
気になった暁は、早急に奏多へ電話をすることにした。
『もしもし?』
奏多はいつもと同じように落ち着いた様子で電話に応じていた。
「奏多! どうした!! 一体何が!!」
『先生の方こそ、どうしたのですか? そんなに慌てて……』
奏多は動揺する暁に対し、とても冷静なトーンでそう告げた。
「え……だって大事な話があるって……何か大変なことがあったんじゃないかって思って……心配で……違うのか?」
『うふ……ふふふ。先生は相変わらずお優しいのですね。ありがとうございます。確かに何かはありましたが、そんなに悪いことではないですよ』
「そう……なのか」
じゃあ大事な話って何なんだ……?
『そうです! 実は、帰国の日取りが決まりまして……誰よりも早く先生に伝えたいなと思ったんです』
「帰国……一時帰国ではなくて、こっちに帰ってくるってことか……?」
『はい。先生の元へ』
「……」
『先生?』
暁は喜びのあまり、フリーズしてなんて言っていいかわからなかった。
これからはメールや電話じゃなく、本物の奏多に会える……。そんなに嬉しいことがあっていいのか!
そんな思いが頭の中を駆け巡る暁。
『先生? 聞いていますか?』
「ああ、聞いているよ」
『反応がないので、少し不安になるのですが……』
「すまんな。嬉し過ぎて、言葉にできなかった」
『ふふ。嬉しいことを言ってくれますね』
「俺は素直だからな!!」
意気揚々と答える暁。
『うふ。ありがとうございます。私も先生の傍に戻れることが幸せですよ』
暁はその奏多の言葉に、ドキッとした。
自分は本当に奏多のことを好きなんだなとつくづく思い知った暁だった。
「ありがとな、奏多。俺も奏多が居てくれたら、もっと幸せになれそうだ」
『……そんな、ずるいことを』
「さっきも言ったが、俺は素直だからな!」
『そうでしたわね。それで、日取りなんですが――』
そして奏多の口から、帰国の日を知らされる暁。
「4月か……あと半年くらいあるな」
『ええ。でもきっとあっという間ですよ』
「そうだな」
それから暁たちは他愛ない話をしたのち、通話を終えた。
通話後、暁が時計に目をやるとすでに深夜2時を回っていた。
「もうこんな時間だと!? 明日も授業が……頑張って起きよう」
そして暁は眠りについたのだった。
「奏多が春から……」
そんなことを考えながら、暁は顔がにやけていた。
「先生なんだか嬉しそう」
「ってマリア! おはよう。早いな」
突然目の前に現れたマリアに少々驚愕しながらも、暁は挨拶を交わした。
「ん? いつも通りだと思うよ。先生はなんだかいつもより嬉しそうだね」
「そ、そうか? 実はな――」
そして暁はマリアになぜ自分が嬉しそうなのかを教えた。
「そうなんだ……奏多が。それは楽しみだね」
そう言って微笑むマリア。
「だろ?」
暁はそう言いながら、マリアにニカっと歯を見せて笑う。
「私も昨日、キリヤと電話したよ。それでたくさん元気もらった。だから私も頑張ろうって思えたの」
マリアはそう言いながら、優しく微笑む。
「キリヤと……そうか。よかったな、マリア」
「うん」
「そういえば、進路のことを親御さんには伝えたか? ここを出るってことは、実家に戻ることになるんだよな」
それを問うと、マリアは俯き、
「まだ言えてないの……」
と不安そうな声でそう言った。
「このまま言わずにいるのか……?」
「……それは嫌。お母さんとお父さんに、ちゃんと私の未来の話をしたい」
「そうか」
それからマリアは顔を上げる。
「成長した私を見てもらいたい!」
「うん。きっと2人とも喜ぶと思うぞ」
暁はそう言って、マリアに優しく微笑みかけた。
「ありがと、先生」
それから数週間後、マリアの両親を保護施設に招き、進路の為の面談を行うことになった。
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