第35話ー⑧ 七夕

 それから奏多との会話を終えた織姫は、暁にスマホを差し出した。


「私のために、いろいろとありがとうございます。奏多ちゃんから話は聞きました」


 暁は、織姫から差し出されたスマホを受け取りながら笑顔で答える。


「織姫だけのためじゃないさ。これは俺の為でもあった。俺は織姫の幸せそうな顔がみたかったんだよ」


 暁の言葉に織姫は目をそらし、少し照れながら、


「……あなたのこと、少しは信じてもいいかなって思いました」


 と告げる。


 やっぱり素直じゃないな――。


 暁はそう思いながら笑った。


「ちょっと、何を笑っているんですか!?」

「いやあ。そんな織姫も俺は好きだぞってことだ!」

「は、はあ……というか。まさかこんな調子でいろんな女子生徒をたぶらかしているんじゃ……」


 織姫は疑いの目を暁に向けながら、そう言った。


「そ、そんなことはないぞ! 俺は奏多一筋なんだからな!!」

「むきになるところが怪しいです……。あなたのことを信じてもいいとは言いましたが、奏多ちゃんとの交際を認めたわけでなありませんからね! そのことはお忘れなく!」


 織姫は意気揚々と暁にそう言い放った。


「認められるよう、善処します……」


 トホホと下を向く暁を見ながら、織姫は楽しそうに微笑んでいるのだった。




 私はずっと独りぼっちだって、孤独なんだって思っていた。でもそれは違っていて、私を見てくれていた人はちゃんと存在していた。


 いつからか両親に嫌われないことばかり考えて、周りにいた人たちのことが見えていなかったのかもしれない。


 奏多ちゃんは、自分の光を失っていた私にそれを教えてくれた。


 そして私は気が付くことができたこの場所から、また新しい一歩を踏み出す――。




 翌朝、食堂。


 織姫は楽しそうに食事を摂るマリアと結衣のところに行くと、


「お、おはよう、ございます」といつもはしない朝の挨拶をした。


 それを聞いたマリアと結衣は驚いた顔をする。


 今更こんなことしても、もう遅いかもしれない。でも私は変わりたい。もう孤独な瞬く星でいたくないから――


 そう思いながら、織姫は目を瞑りマリアと結衣の反応を待った。


 そして――


「おはようございます、織姫ちゃん!」

「おはよう織姫! よかったら、一緒に食べない?」


 マリアたちはそう言って笑顔で織姫を受け入れたのだった。


「あ、ありがとうございます」


 そして織姫は二人と共に、朝食を摂ったのだった。




 この空には無数の星々が瞬いている。当たり前のように見える星と、誰の目にも映らない星。織姫は自分がずっと誰の目にも映らない星だと思っていた。


 でもそれは自分が勝手にそう思い込んでいただけ――。


 これからは誰にも見てもらえないと悲観していた自分から、みんなの目に映る自分になるため、自分の輝きを信じることにする――と織姫はそう誓ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る