第34話ー③ それぞれの気づき

 剛の部屋から出た暁は、研究所の中を徘徊していた。


 忙しそうに早歩きをする研究員や検査を待っている親子。


「俺がいた頃とそんなに変わっていないな……」


 そんなことを思いつつ、暁は廊下を歩いていた。


「あ、あれは……」


 暁は待合室で楽しそうに会話をしているマリアとゆめかを見つけた。


「なんだか懐かしい光景だな」


 暁は遠くから二人を見守りつつ、ゆめかがシロとして施設にいた頃を思い出していた。


「あの時も2人は楽しそうに話していたっけな」


 マリアはシロの正体を知らない。でも2人は見えない絆で確かに繋がっているのかもしれないな――暁はそう思いながら、微笑んだ。


「あ、先生!」


 マリアは暁の姿を見つけるなり、暁に向かって手を振った。


「おう。検査はどうだった?」


 暁はそう言いながら、マリアたちの元へと向かった。


「うーん。そろそろ結果が出る頃だね。暁先生も来たことだし、診察室に行こうか」


 そう言ってゆめかは立ち上がり、その場から歩き出す。


 そして暁たちもそのあとを追うように歩き出した。


「楽しそうに話しているところ、水を差してすみません」


 そう言って暁はゆめかの後ろを歩きながら、申し訳なさそうな顔をした。


 暁はゆめかの正体を知っており、ゆめかさんは本当はもっとマリアと話したかったのではないか――とそう思ったからだった。


「いいさ。今日で最後の別れじゃない。それにマリア君はこれから同職になるかもしれないから、話すタイミングはいくらでもあるだろうしね」


 ゆめかは嬉しそうにそう語っていた。


「同職……?」

「うん。私も白銀さんみたいなカウンセラーになりたいって思って」


 マリアは微笑みながら、暁にそう告げた。


「そっか。マリアがカウンセラーか」

「無理だと思う?」


 マリアはそう言って、不安そうな顔で暁を見ていた。


「いや、すごく素敵だなと思うぞ」


 そう言って暁はマリアに微笑んだ。


「ありがとう、先生」


 マリアはそう言いながら、はにかんだ。


 無意識なのかもしれないが、マリアはゆめかシロと共にあることを願っているように思う暁。


 もしその願いが叶うなら、きっとゆめかさんも喜ぶだろう。……だって、シロはまたマリアと共にいることができるのだから――。


 そんなことを思い、自分の前を歩いているゆめかがどんな表情をしているのか気になった。


 今、俺たちの前を歩いているゆめかさんの今の表情はわからないけれど、きっと嬉しそうな顔をしているんだろうな――。


 そんなことを想像して、暁はにやけていた。


 そして暁たちは診察室に向かって歩いていった。




 暁たちが診察室に入ると、そこには所長があった。


「こんなところで何をしているんですか、所長?」

「いや。せっかく暁君が来るって聞いたから、せっかくだし、私の口からマリア君に結果を伝えようと思ってね。それにマリア君はキリヤ君の大事な妹さんだから、挨拶をしておきたかったという事もある!」


 そう言いながら、所長は暁たちに親指を立てた。


「ありがとうございます。それと、キリヤがいつもお世話になっております」


 マリアはそう言って、所長に頭を下げた。


「いやいや。キリヤ君がうちに来てくれて、我々は万々歳さ。そうだろう、ゆめか君!」

「そうだね。キリヤ君はまだ研修中だから半人前だけど、それでも毎日頑張って一人前になろうと努力している。そんな姿を見ていると、私も力をもらえるのさ」

「キリヤが……。良かった」


 マリアはキリヤの話を聞けて、嬉しそうにしていた。


「さて、本題だ。マリア君の能力のことだね」


 所長は手のひらを合わせながら、暁たちに向かってそう言った。


「それで、結果はどうだったんです……?」


 暁は息を飲みながら、所長の回答を待った。


 所長は目を閉じて、下を向いた。


 この反応、もしかして――。


 暁が落胆しかけた時、所長は笑顔で顔を上げて答えた。


「おめでとう、マリア君! 君の能力の消失を確認したよ。マリア君は今日から条件付きだが、普通に生活できる」


 それを聞いたマリアは口に手を当て、目を見開いてとても驚いていた。そして目が潤み始めている。


「よかったな、マリア」


 暁はそんなマリアに優しく告げる。


 そしてマリアは、「うん」と小さく答えて、目に溜まった喜びの雫をこぼすのだった。


 所長とゆめかはそんなマリアの姿を温かい笑顔で見守る。


 やっとマリアの長い、長い不安との戦いが幕を閉じた瞬間だった。


 それからしばらくして落ち着いたマリアは、笑顔で診察室を後にした。


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